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聖火  作者: 青山喜太


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第六十九話 不死身

「なんで……!」


 アーシェは再び、戦闘態勢を取る。

 燃え盛る街に未だ消化の手助けは回ってこない。


 衛兵に頼ることなどできないだろう。

 ならば、と城壁の上を見るが未だに弾丸の軌道が光線のように飛び交っている。


 ドンキホーテにも頼れない。


「随分といい蹴りだな、オネェさん」


 すると下卑た笑みを浮かべながら青年は近づいてくる。


「おかげさまで久しぶりに死んだだのよ」


 茶髪の青年は頭から滴る血を邪魔くさそうに拭うと再びアーシェを睨みつけた。


「楽に死なせねぇぞ」


 次の瞬間だった、茶髪の青年が地面を蹴ったのは。


「3人とも下がって!!」


 アーシェがネクス達を庇うように前に出る。

 だが、それ最初から青年の目標はネクス達などではなかった。


「テメェが最初から目的なんだよ!! おネェさん!!」


 加速しながらそう叫ぶ青年は一直線にアーシェの方へと向かう。


(はやい……ッ!)



 心の中でそう呟き、高速で迫る青年にアーシェは再び対応しようと足に力を込める。


 どのように復活したのか、それは定かではない、しかし実力は変わっていないはずだ。


 ならば対応はできる。


 アーシェは全力で体をひねる、ぐるりと回転した彼女の体は風を纏いそして同時に切り裂いた。


 さらに破裂音、アーシェの蹴りは音速を超えていた。

 鋭い回し蹴りが青年に向かっていく直撃すれば致命傷は免れない。


 だがそれはあくまでも当たればの話だ。


「!?」


 突如として、青年の直線的な動きが変わる。

 青年が右に急加速した。


 今まで線を描いていた青年の軌道は急に直角を描き、そして一瞬でアーシェの回し蹴りを掻い潜ると同時に──。


「おらぁ!!」


 彼女の腹部に目掛けて右ストレートを直撃させた。


「ぐ……あ……!」


 呻きながらアーシェは吹き飛ばされそのまま近くにあった民家の壁にぶつかった。


「さっきは油断してただけだぜ、オネェさん」


 音を立てて崩れ去る壁、そしてそれに埋もれるアーシェを見てネクスは絶句する。彼女の生死すら確認できない今の状況に思わず呑まれそうになる。


 そんなネクスの頭の中に過ったのはたった一言だけだった。


(また私のせい……!)


 その罪悪感がネクスを一瞬硬直させてしまった。


「アーシェさん!」


 ネクスを正気に戻したのはそんなミケッシュの叫びだった。

 だが遅い、青年は次の標的であるネクスに対して拳による打撃を繰り出そうとしている。


 間に合わない、ネクスの脳裏に死の予感が明滅する。


「近づくなぁ!!」


 そんな叫び声と共に、青年が吹き飛ばされる。

 リリベルの決死の蹴りが見事に青年の腹に直撃したのだ。


「があっ!」


 地面に叩きつけられ転がり、呻く青年はしかしすぐさま立ち上がり笑った。


「いい蹴りしてんじゃねぇかよ、ガキ!」


 大したダメージにはなっていない、リリベルはそのことを認識するとすぐさま母の形見の短剣を構え直す。


 今の蹴りはただのまぐれだ、あの青年がリリベル達を戦力として見ていなかったが故の命中だった。


 それをリリベル自身、理解している。だからこそ次はない、万全の体制で青年を開いて取らねばならない。


 こんなことならば無理をしてでもリーチの長い剣でも買っておくべきだったとリリベルは悔やむが、もはや全てが遅い。


「……ごめんリリベル! 気後れした!」


 ネクスもリリベルに続いてサーベルを構えた。


「あーもう! やるしかないよね!」


 ミケッシュも続けて槍を構える。

 燃え盛る街の中、対峙するは3人の少女と1人の青年。


 数的有利は、明らかにネクス達の方にある、しかし青年は笑う。声をあげてただ笑っている。


「おいおい、俺が用があるのはそこにいる黒っぽい髪のガキだのよ、他のガキは用がないから、サッサっと帰りな」


 ネクスを置いていけ、と青年は要求している。

 だが答えなどリリベルとミケッシュは決まっていた。


「ネクスは僕の友達だ! お前には指一本も触れさせない!!」


「右に同じく!!」


 リリベルとミケッシュが青年を睨み返した。すると青年はため息をつき空を見上げる。


 そして夕焼けの空に向かって青年は語り出した。


「俺の名は、ジャン・ヤークレー。元はただの羊飼いでぇ、羊の毛を売って生計を立ててた、見ろよこの服だって羊の毛で買えたんだのよ」


 ジャンは自身の服を指差す、彼の服はとても質素だ、白いシャツにブラウンのジャケット、黒いズボンなんの特徴もない。


「俺は平凡だった、平凡な男だった。でもさぁそんな俺がある日、魔法使いに告げられたんだのよ──」


 しかしそれは異様な光景だった。

 燃え盛る街の中、青年は、ジャンははただ自身の生い立ち話し始めている。


「──君は魔王だって」


「何が言いたいんだ」


 リリベルの質問にジャンは「まあ聞けよ」と制止する。


「部下を手に入れて、力を手に入れて、そしてやっと気がついた──」


「──俺はどこまでもいっても羊飼いなんだってな、俺ができるのは羊を導くことだけ……」


 ジャンはリリベルとミケッシュを睨みつける、その視線には明らかな蔑視と軽視が混じっていた。


「テメェらみたいな薄汚い羊をな!」

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