第六十六話 敗残兵
「敗残兵……じゃあ、アンタどこの兵だ? グルム国か?」
ドンキホーテの問いに白髪の男は笑う。
「時期にわかる」
その一声と共に再び、白髪の男フォーン達は銃を構える。
銃口の数は全部で10、爆発し粉微塵となった仲間とドンキホーテがリボルバーでライフルを壊した甲斐もあって相手の火力は確実に下がっている。
ドンキホーテの理性が語りかけた。
(火力が落ちたからにはだいぶ楽だ、周りの被害も最小限に抑えられる)
しかし同時に心が訴える。
違和感。
そう、違和感がある。
今までに見た情報から、得た経験から導き出した無意識の答えがドンキホーテの理性に訴えかける。
まだ安心する時ではないと。
「さて、補充だ」
その予想は的中した。フォーンが虚空に手を突き出す。
前方に突き出された手、その手のひらは地面に向かって下に向けられていた。
「こい、インフェルノ・マキナ」
その呼び声と共に、歯車と棺桶が噛み合い、そして共生しているかなような機械が地面から現れる。
地面だと言うのに、まるで水面から物が浮かび上がってくるかのように出てきた、その奇妙な機械は息をするように蒸気を吐き出していた。
「召喚術……!」
その光景を見たドンキホーテの脳はすぐ様に答えを導き出す。
召喚魔法、それも高度なものだ。
召喚魔法は並の魔法使いでは使えない、何せ空間から空間を繋ぎ別の物体を呼び出すと言う魔法だからだ。
この魔法を習得するには、本人が高度な空間魔法を覚えるか、そもそも空間魔法を使える上位の魔物や神の化身と契約するかの二つだ。
そして、フォーンは名前を呟いた。
インフェルノ・マキナ、マキナとは機械の悪魔や神に名付けられるものだ。
つまりはフォーンが召喚したのは後者、正体はわからぬが空間魔法が使えるほどの高等な上位存在を呼び出したことになる。
「ライフルだ」
「ハイ、ムリョウデ、オワタシデキマス」
するとフォーンが簡素な命令をインフェルノ・マキナに伝えた。
棺桶のような上位存在は、カタコトの言葉で意思を伝えると、突如として棺桶のようなボディが、両開きに開かれる。
ドンキホーテは目を疑った。
両開きに開かれた、インフェルノ・マキナの体の中にあったのは大量の火器。
ライフル、拳銃、マシンガンなどの一般の火器が見える。
それも1つや2つではない。インフェルノのマキナの体の中はまるで巨大な神殿の回廊のように奥行きがあったのだ。
そのまるで回廊のような空間の中に、銃がワインセラーのワインのように、はたまた華美な装飾の代わりと言わんばかりに敷き詰められていた。
さらに最悪なのは、その回廊を彩るのは、ただの銃だけではないと言うことだ。
対戦車砲、榴弾砲、列車砲の砲身までも体をわずかに覗かせている。
そう、ドンキホーテの知りうる限りの驚異的な火器がそのインフェルノ・マキナの体の中にはあった。
(まずいな)
心中の焦りとは裏腹に、ドンキホーテは思わず笑う、笑うしかない。
あれらの火器を全部使えるのだとしたら、この街など一瞬で灰にできる。
「これで、揃ったか」
そして、フォーンはフォーン達にライフルを投げ渡す、今度は抜けた一体のフォーンの代わりに、隊長役のフォーンもライフルを持ちついに15の銃口がドンキホーテを狙った。
「死んでもらうぞ、ドンキホーテ」
フォーン達の内誰か1人がそう言う。ドンキホーテは笑みを崩さない。
「俺を殺してぇなら、人数が二桁ばかり足りないんじゃねぇのか。魔弾の射手」
「数での不利など、いくらでも覆せる」
「だったら覆してみろ」
ドンキホーテが地を、城壁を蹴る、黒く薄汚れた白の石造りのそれは砕け、ドンキホーテのはるか背後、散弾のように弾け飛ぶ。
そしてドンキホーテ自身はその衝撃に相応しいだけの加速を得てフォーン達へと突っ込んで行った。
すると、フォーンの1人が上空に銃口を向ける。
彼は引き金を引いた。何の感情もなく、淡々と。
それゆえに、それが無意味な行動ではないないとドンキホーテは直感する。明らかに何かの定石を打った、それは確かである。
「ブーケトス」
フォーンが呟く、夕暮れが迫る空に放たれた弾丸が昇っていく。
するとちょうど雲に届くか否か、と言うところでそれは咲いた。
(花火……?)
ドンキホーテは一瞬そう疑った。
青と赤、火花が空中で咲き乱れている。
だがそんな筈はない。
「……!!」
刹那の思考の後、ドンキホーテは地面を思い切り両足で踏み締めスピードを殺した。
そして意識を改めて空に向ける。
火花が迫ってきていた。
それはまるで意思がある群の魚のように、エサであるドンキホーテに群がってきていた。
おそらく音速を超えているであろう、その生きた火花を前にドンキホーテは瞬時に後ろに飛ぶことで回避する。
だが、それだけでは終わらない。
数匹の火花達が超高速で地面にぶつかり爆発を起こした後、生き残りの多数の火花は美しいカーブを描きドンキホーテに迫って行った。
「フォデュメ!! No.5!!」
帽子の妖精にドンキホーテは命令する。
「はいよ!」
そして妖精の返事と共に、魔女帽の頭を覆う部分からガトリングガンが顔を出す。
「散弾装備だぜ!!」
「素晴らしすぎるよ全く!!」
フォデュメの用意周到さにドンキホーテは感謝しつつガトリングガンの引き金を引く、魔導機関を用いたそのガトリングガンは自動で銃身が回転していき、火を吐き出した。
対するは青と赤の火花。あるものはカーブを描き、あるものは鋭角を作り出しながら、ドンキホーテに迫っていく。
それを高速の歩法で引き離しながらドンキホーテは火花にガトリングを向ける。
「うおおお!!」
ガトリングが野蛮なドラムロールを響き渡らせる。
火花達は散弾の雨に晒された。
その結果、断末魔のような赤や青の爆発が城壁の上に巻き起こる。
夕暮れが迫る空の下で街は破壊の光で晒された。
火花達は全員、撃墜された。
ドンキホーテが一瞬、安堵したその時だった。
爆煙の中が光る。
「ブーケトス」
またあの男の呟きが聞こえる。
爆煙を切り裂き、またあの誘導式の火花達がドンキホーテの目の前に現れる。
数倍の規模となって。
ドンキホーテはその圧倒的な破壊の光の群を目の前に、ただ笑った。
全くうざったらしい光だ、そう思いながら。
そして呟く。
「面白い……!!」
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