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聖火  作者: 青山喜太


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第六十四話 奇怪な鉄砲隊

「うわ、マジかよ弾切られましたよ隊長」


 街の城壁の上、茶髪の男がつぶやいた。


「……そうだな、相手はAランク以上の騎士だ、全員、魔道弾丸加速器の加速度をバラバラにしろ弾の速さに強弱をつけて相手を惑わす」


 白髪頭の男の"隊長"の指示に「了解」と返事が木霊する。

 指示を受けたのは総勢15人の男達。すぐさま、隊長の指示に従い、手に持ったライフルに付属した機器をいじくりまわす。


 城壁の上で、カチャリ、ガチャリと銃の部品が動く音が鳴り響いた。


「総員、目標が動いた。照準を定めろ」


 またもや隊長の簡素な指示に、男達は答える。

 

 狙うは眼下の青と白の騎士だ。

 今もその騎士は、ジグザグに移動しながら、民家を飛び跳ねて移動している。


 人間の動きではない、人を超越したまさしく超人。

 普通では捉えきれないその動きにしかし男達は目を光らせる。


 瞬間、何の指示も前触れもなく一つの銃口から火が吹いた。


 同じ光景が繰り返される。

 銃口から発射された魔弾は、重力と風の力を振り解きながら真っ直ぐと飛び、騎士に迫って行く。


 その弾丸を難なく騎士は切り裂いた。


 前回と同じ結果だ。この騎士に弾丸は通じない。

 だが──。


「よし」


 隊長が思わず、呟く。

 その呟きとほぼ同時に、複数の銃口から弾丸が発射された。


 騎士によるたった一瞬の弾丸を切り裂くと言う行為、それによる瞬間とも呼べぬほどの行動の硬直。


 そこに鉄砲隊は付け込んだのだ。


 弾丸は突き進む、風を裂き、わずかな火花を軌道上に残して、そして騎士に生まれたほんの僅かな隙に弾丸は突き刺さる。


 魔弾による爆発が民家の上で起こった。


 騎士の姿は爆煙で見えないが、間違いなく弾丸は騎士にダメージを与えただろう。


 城壁の上、男たちに共有のされない、だが確かな達成感が行き渡る。


「やったな」


 茶髪の男が思わず、呟いたのを皮切りに他の男たちも喋り出す。


「おいおい、ジェカル、相手は騎士だ生存確認までが仕事だぞ」


 黒髪の男が、茶髪の男ジェカルを嗜めるが、ジェカルは言い返す。


「わーってるよロズル」


 黒髪のロズルはそう言ってライフルのボルト(機関部、または薬莢の排出を行う部分)のレバーを手動で動かして空薬莢を排出する。


 次弾を装填し戦いに備えたロズルに倣うように、他の男たちも次々と次の射撃に備えていった。


「隊長、で次はどうするんです?」


 スキンヘッドの男が聞く。白髪の隊長はただ、じっと目標であるネクスの隠れた物陰を見つめるとただ無機質に指示を出す。


「……次は目標を狙う」


「了解」


 その短い指示で15人の鉄砲隊は全てを理解したらしい。次の照準を民家の物陰に向ける。


 15門もの魔弾の威力ならば民家など遮蔽物には入らない。


 そして、今まさに隊長の合図で15個の銃口から火花が迸ろうとしたその時だった。


 青白い光が空中で炸裂した。


 それが魔力の発露だと気づいたのは白髪の隊長と鉄砲隊の内、三名。


 そしてそれがテレポートの魔法によるものだと、気づいたのは隊長とスキンヘッドの男だけだった。


「ジェカル!」


 スキンヘッドの男は叫ぶ。ちょうどその光はジェカルの頭の上で突如、輝いていたのだ。


 だが全てが遅い。


 光から現れたのは白と青の騎士だった。


 ─────────────


 青いマントと魔女帽を風で揺らしながら、ドンキホーテは上空でリボルバーを取り出す。


 咄嗟にテレポートの魔法で敵の上空に陣取ったのは成功だった。


 完全に意識をこちらに向けさせることに成功。

 さらに身動きはできないが、鉄砲隊とその指揮者が一望できた。


 見たところ結構な装備をしている。正規の軍とも遜色ない。


 ならば、質問することが多くある。

 ドンキホーテはリボルバーを連射した。


 装弾数6発のリボルバーが空中で火を吹く。

 大型の魔物すら屠うるドンキホーテのリボルバーの弾丸は音の速度を超える。


 それぞれの弾丸は鉄砲隊のライフルや鉄砲隊の男たちの肩や足に直撃する。


「があ!」


「チッ! 武器を!」


 魔弾の射手、というより銃器を使う戦士の弱点がある。

 それは武器に依存度が高いこと。


 戦士ならば銃などの繊細な武器に頼ることはない、たとえ剣を無くしたとしても四肢を使い魔弾以上の働きができることができる。


 もちろん魔法使いも同じく、銃器などに頼らなくても魔法を射出できる。


 故に銃器を使う戦士、兵士たちは武器がなければ脅威とはなり得ない。


 そして魔弾射手にはもう一つの弱点がある。


「ジェカル! 逃げろ!」


 スキンヘッドの男が叫ぶが全ては遅い、奇襲の混乱に乗じて、ドンキホーテはジェカルと呼ばれた茶髪の男に組み付く。


「ぐっ! しくった!!」


 それは、本体の脆弱性。

 肉体は鍛えているようだが、やはり銃に依存している。


 騎士や魔術師のように本体を直接守る膂力やバリアの魔法などと言った術をやはりこの男たちは持っていない。


「さてと、全員動くな。この兄さんの命が惜しかったらな」


 剣を茶髪の男の首筋に当てるドンキホーテ。

 明らかに、周りの鉄砲隊のメンバーは動揺している。


 加えて、今ドンキホーテが取り押さえているこの男の力加減、やはり鍛えているようだが兵士の域を超えない。


 つまりは魔弾を撃てるほどの才能はあるが常人の域を超えないものたちと言うことだ。


 このことからドンキホーテは推理する。

 明らかにこの者たちは──。


(どこかの国の正規の軍兵……だがどこの奴らだ……? 目的は何だ? しかもこの連帯感……冷徹さを感じない……)


 もしどこかの国の軍が魔王の力をつけ狙い、襲ってきたのならおそらく、仲間を人質にしたぐらいでは動じない筈だ。


 少なくともそれくらいの仲間に対する冷酷さ、冷徹さを出すだろう。


 だが、今目の前の男たちは仲間が囚われたことに動揺を隠せていない。


(脱走した中隊が賊に堕ちた……? いやそれにしては装備が整いすぎている……)


 おかしい何かが、だからこそドンキホーテは知る必要があるこの男たちについて。


「目的を言え、誰に命令されてきた。誰に俺たちのことを聞いた」


「隊長! 俺のことは構わないでやってくれ! みんな死んじまう!」


 ドンキホーテの質問と茶髪の男の叫びが響く。


「ジェカル! クソ……わかった! わかったよ! 全員、銃持ってる奴らは地面におけ!」


 スキンヘッドの男が周りのメンバーに支持するどうやら、隊長らしき白髪の男の次に地位のある物のようだ。


 渋々、ライフルを置いた男たちにドンキホーテは質問を再び投げかける。


「言え。目的は?」


「俺たちは……ただ命令を受けただけだ……」


 スキンヘッドの男が答える。


「何のだ? さっさと言え」


「わかってる! 俺たちの任務は第一次、サーバトーン平原の防衛線突破だ!」


「は?」


 何を言っている。


「サーバトーン平原……防衛線? 何を言っている?」


「聞こえなかったのかよ俺たちは防衛戦を突破するために──」


「それは4年前の話だ! 終わった! 戦争の!」


 ドンキホーテが声を荒げた、するとスキンヘッドの男たちどころか、周りの鉄砲隊のメンバー、ドンキホーテが組み付いている茶髪の男でさえも顔に疑問符を浮かべていた。


 するとスキンヘッドの男はおもむろに喋り出す。


「何を言って……だって戦争は──」


 そして、言った。信じられない言葉を。


「二ヶ月前に開戦したばかりだぞ?」

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