第六十二話 薬草
路銀、そう路銀集めだ。
今回なぜホワイトコールの冒険者ギルドで、ネクス達が飲み食いできているのかというと、冒険者ギルドという組織は各国に跨って同盟関係にある。
故に多少の融通が聞き、他の国の通貨でも冒険者ギルドの内での最低限のアイテムの売買、設備の利用が可能なのだ。
だが、冒険者ギルドの外に出たらそうはいかない。
ここ、コールランド王国では当然だがコールランド王国の通貨が使われている。
路銀を集めるとなると、稼ぐしかないのだ。
「今ある、手持ちの金を全部コールランド国の通貨にしたところでたかが知れています。ここは、冒険者として稼ぐのが一番です」
ドンキホーテはそう締め括った。
「……危険だとか、迂闊だとか言いたいことは山ほどあるが……どのみちこの人数で国を超えるなら、金も食料もあるに越したことはない」
最後に「賛成だ」とレヴァンスは自身の発言に付け足し、席を立つ。
「レヴァンス先生? どこに行くんです?」
アーシェの問いにレヴァンスは言った。
「宿を取ってきます。休憩が必要でしょうから」
そういうと、レヴァンスは1人で、歩き出す。
「まてよ、センセ」
「なんだ?」
「ありがとな」
そのドンキホーテの言葉に、レヴァンスは目を伏せ言った。
「お前のためじゃない」
「知ってるよ」
街は喧騒に溢れている。ネクス達のこれからなど誰も知る由もない、だが間違いなくここでの仲間との出会いは、事態の好転に繋がると誰しもが思っていた。
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翌日。
重い瞼を擦りながら、ネクスは街と外界を繋ぐ門の前まで連れてこられた。
横には当然、ミケッシュもリリベルもいる。
「さて! 君たち! おはよう!」
「お、おはようございます!」
リリベルが元気に挨拶し、
「おはよ~」
ミケッシュが気の抜けた返事をする。
一方ネクスは、あくびを空に向けて放った。
「眠そうだな、ネクス」
ドンキホーテが笑い、ネクスは気まずそうに答えた。
「よく、眠れなかったのよ……」
「大丈夫か? まあ今日は簡単な仕事だからさ、気を張るなよ」
「簡単? 今この瞬間にも狙われているかもしれないのにか?」
ドンキホーテの言葉を遮るように、彼の背後から戒めの言葉が空気を伝う。
ドンキホーテの後ろにアーシェと共に立っていたレヴァンスは、射抜くような視線でドンキホーテを見つめていた。
「まあ、そんな心配すんなセンセ、今回はただの薬草集め、いざとなりゃすぐに街にも戻れる、それを考慮した上での依頼を選んだろ?」
「心配? 警戒と言え、貴様は気を抜きすぎなんだ」
いがみ合いがが始まりそうななか、レヴァンスの隣にいたアーシェが冷や汗を額に垂らしながら、間の割って入った。
「まあまあ、二人ともそんなギスギスしないでください、ほら! 薬草取りに行きましょう!」
二人の教師のちょっとしたいがみ合いが終わった後、そういえばと、ネクスは首を傾げた。
「薬草ってなに取るの?」
「ただの回復ポーション用の薬草だよ、まあついてきてくれ、現地に言って俺たちが教えるぜ」
ドンキホーテが得意げに答える。そうして6人は歩き出した。街の外へと。
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木と木、そして木。
ネクス達一向がたどり着いたのは街の南の近隣の森だった。
鬱蒼と……しているわけでもなく。
暗澹と……しているわけでもない、そんな平和な森でネクスはブチリと草をちぎった。
「はあ、もっと派手な仕事がしたかった……」
そう言いながら、抜いた草を確認する。緑で細長く、微かなバニラのような匂い。間違いない、ドンキホーテに教わった特徴と合致しているこれが目的の草だ。
草をかごに放り投げるネクス。
すると、隣から小言が飛んでくる。
「ネクス君、依頼用の品だ丁寧に扱え」
レヴァンスの小言に「はーい」と受け流し、ネクスは薬草を抜き続ける。
少し離れたところでは、リリベルやミケッシュが、「こんなにたくさん集まった!」などと楽しそうに従事していた。
リリベルはドンキホーテ、ミケッシュはアーシェとそれぞれコンビを組んでいる。
よりにもよってネクスはレヴァンスとだった。あのトゲトゲとした雰囲気を持つレヴァンスだ
「薬草集めは不満か?」
唐突のレヴァンスの質問にネクスは一瞬驚く、しまったレヴァンスのことが苦手なのことを気づかれたか、ネクスはどもりながらもすぐにに答える。
「す、少し退屈なだけです」
「そうか」
終わった、会話が。
ここから何がしか広げたほうがいいのかどうなのか、ネクスはうまく察せない。そもそもこのレヴァンス自体が苦手なのだ、会話など弾むはずもない。
そうだ、ネクスはどうせならば聞きたいことを聞いてしまおうとと思った。
どうせ、このレヴァンスは薄っすらとネクスやミケッシュのことを嫌っている、だからこそ聞き易いことがある。
「レヴァンス先生は怖くないんですか?」
「なにがだ?」
「私、魔王の生まれ変わりなんですよ」
「……そうだな」
レヴァンスは黙る。
ブチリと薬草をとった彼は薬草を見つめた。
少しの沈黙の後、おもむろにレヴァンスは語り始めた。
「この草には本来、毒がある」
「え?」
「生のまま食べると腹痛を生じさせ、嘔吐が三日三晩続く、だがあるものと組み合わせると回復ポーションが作れる」
「なんですか、あるものって」
「牛乳と魔力」
「へぇ、初めて知った……で……その、なんの関係があるんですか?」
「君は……たとえが悪いかもしれないが、牛乳と魔力だ」
「なにそれ」
ふふ、と笑うネクスに、レヴァンスは少し不服そうだ、彼なりに真面目に答えたらしい。
「笑うな、たとえ毒のようなものが君の内にあるとしても、今の状況から鑑みれば回復ポーションのように安定していると言っていい、私は気にしていない」
「でも、また暴走するかも」
「寝不足の原因はそれか?」
ネクスはなにも答えなかった。ただ草をちぎる。
「不安か……暴走して仲間を巻き込むのが。だが仲間には言えない。親しければ親しいほど聞きづらい」
「……」
「責めているわけではない、だがミケッシュ君も、リリベル君も……アーシェさんも……もちろんドンキホーテ先生も君を恐れているはずがないだろう」
「私が嫌なの……皆んなに迷惑をかけるのが……」
草をちぎる音が止む。
レヴァンスはネクスに注視した。
「雨か」
空は晴天である。
「雨です……」
ネクスが呟く、降るはずもない雨をレヴァンスは見ていた。ネクスの頬に伝う雨粒を。
「これは、個人的な意見だ。独り言と捉えてもいい」
「なに……?」
「私は強い」
「……」
「もちろん君も、君の友達も君の先生も皆んな強い、だから──」
レヴァンスはネクスにハンカチを差し出した。
「心配はいらない、君は負けない、負ける道理などどこにもない。魔王程度にな」
ネクスは顔を上げ、ハンカチで頬を拭った。
「私、勘違いしてた」
「なにをだ」
「レヴァンス先生に嫌われてるのかと、騎士に相応しくないって言われたから」
「……それは今でも思っている」
「ふふ、正直なんですね」
「からかうな、一応わたしは教員だ」
「……はい」
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そうして、いつしか薬草集めは終わりを告げた。
日の沈まぬ内にドンキホーテが言う「帰ろう」と。
帰路に着くなか、かごの中身を見ながら談笑が始まる。
「いやぁたくさん集まりましたね!」
アーシェがカゴを持ちながら嬉しそうにそう言う。
「アーシェさんどう? アタシら結構冒険者としての才能あるでしょ!」
「そうだね、僕もそう思う」
ミケッシュの言葉に笑うリリベル。
「当たり前でしょ、私たちなんだから」
そして、ネクスは共に自慢げに笑う。
そんなネクス達を見てドンキホーテは頬を綻ばせた。
「なにをニヤニヤしている」
水をさすようにドンキホーテに言うレヴァンス。
するとドンキホーテは口を三日月のように歪ませニヤつきながらレヴァンスを見た。
「……なんだ」
「いや、ただ一言、言いたいことがあってな」
するとドンキホーテはニヤケ顔からいつにも増して神妙な面持ちへ、変わる。
「改めてありがとうな、先生。ネクスのこと励ましてくれたんだろ」
「聞いていたのか、気色悪い」
「そんなこと言うなよぉ!」
「黙れ、キモい」
「まあまあ、そんな照れんなって」
「照れッ……! なるほど、ここで剣を交えたいらしい」
「だはは! やっぱアンタ最高だなおい!!」
「からかうな!!」
そんな会話が続く、束の間の平和だとしても皆が誰もが思っていたこのくだらない会話がいつまでも続けばいいと。
だが、そんな平和など吹けば飛ぶ藁の家に過ぎなかったと言うことをこの時誰もが忘れてしまっていた。
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