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聖火  作者: 青山喜太


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五十七話 神

「混沌の神……?」


 ネクスが疑問を口にした時だった。


 ドン、と再び銃声が響く。


「あっぶなぁ!!」


 混沌の神を名乗る男が身を捩り横転する。

 硝煙ともに持ち主の不満を撒き散らすドンキホーテの銃は、ガチリと音を立てて飼い主の意向に応えようと次弾を装填する。


「まてまてまて! ドンキホーテ君! さん! サマ!」


「待たねぇよ、失せろ。狂言回し」


「いやいや、そんなこと言わないでヨォ。アハハハハハ!!」


 黒づくめの男は笑う。


「先生この変な人、知り合い?」


 ミケッシュの問いにドンキホーテは五倍濃縮のコーヒー飲み干したかのような顔をする。


「《《この姿では始めましてだな》》……」


「どう言うこと……?」


「ミケッシュちゃん、それは僕から説明しよう」


 すると、黒の男は立ち上がり埃を払う。

 剣に手をかけるネクス。

 警戒が充満する、この部屋で男は銃や敵意を向ける観客達に向かって深々と頭を下げた。


「ある時は傾国の美女! ある時はダンジョンの奥底に潜むラスボス! そしてそして、ある時は単なる君の頭の中に潜む悪夢。それが僕、変幻自在の混沌の神さ……!」


「なにそれ……? 本当にあんた神様?」


 ネクスの疑問に混沌の神は頷く。


「ミケッシュ、ネクス、信じられないかも知れないが本当だ。こいつの姿形は記録されたものだけでも百は軽く超える。

 しかも厄介なことに、同時期に別の場所に複数の分身が存在していることもある」


「ちがうよー分身じゃない。複数存在している僕は全部本物。分身じゃなく化身とでも言ってくれ、まあとりあえず久しぶりだねドンキホーテ君」


 ドンキホーテの説明に訂正を加える混沌の神、するとドンキホーテはめんどくさそうにため息をついた。


「で、ヌル、何故お前がここにいる」


「ヌル?」


「混沌の神、ヌル。お前のことだろう?」


「ああ、それは2161番目にできた僕だ。ごめんごめん紛らわしかったね、僕は3567番目の僕だ。ああ大丈夫! 記憶は2161番から引き継いでるから!」


「……じゃあなんて呼べばいい」


「僕はいまケイって名乗ってる。混沌の道化師、ケイ・ファン」


「……で、何のようだ」


 すると、ケイ・ファンは椅子に座る。そして大仰な拍手を小屋に響かせ、笑った。


「まずはおめでとう。君たちは見事、魔王を撃退し、と言っても力の一片だけど、力を封じた。いやぁドンキホーテくんがパラディンの力を持っててよかったねぇおかげで傷つけることなく、魔王の力だけを弱まらせることができた」


 ケイはニヤニヤと笑いながら話し続けるまるで、見てきたかのように詳細にかつ分析するかのように。


「魔王……待てネクスの力ことか?」


「知らなかったのかい?」


 ドンキホーテの疑問にケイは嘲笑う。情報共有などする暇などなかった、ドンキホーテはネクスの力の起源など知る由もなかった。


「じゃあ都合がいいや、説明しておこう今この世界を取り巻いている状況について」


 するとケイは淡々と語り始めた。


「単刀直入に言おう、君たちの言う魔王というのは元は神から力を授けられた人間だ」


「初耳だな……」


「はは、ドンキホーテくん白々しいねぇ。《《ブリンガー》》だよ、《《ブリンガー》》」


 聞きなれない単語に眉を顰めるネクスとミケッシュ。


「先生、ブリンガーってなに?」


 ドンキホーテは、ネクスの質問に対してすぐさま答える。


「異界からやってきた神の加護を受けた者、それを《《ブリンガー》》という」


「異界?」


 ネクスはピンときていないようだ。


「端的に言えばこの世界とは別の世界ってとこかな……」


 その説明にケイも納得したようで、「そうそう」と頷く。


「そう、そしてその異界からきた魔王くんは神様から力を授けられ、世界を征服するまでに至った! まあ、勇者に殺されたけどね」


「勇者に殺されたのは誰でも知ってる……何故、魔王の力が今になって復活した」


「そう! そこを話したかった!」


 カイはパンと膝を叩き、再び話し始める。


「ネクス君、君の体には今、時を超えて魔王の力が輪廻転生しているんだよ」


「輪……?」


 首を傾げるネクスにカイは笑いながら言い放つ


「つまり! 君は昔死んだ魔王様の生まれ代わりってこと!」


 その一言にドンキホーテ達は動揺を隠せなかった。

 特にネクスは表情をこわばらせ、服の裾を握りしめる。


「そして、ここからが本題だ」


 カイはそんな3人を無視して再び話を戻した。


「そんな魔王の力を再び利用しようとする者達がいる」


「誰だ?」


 ドンキホーテの質問にしかしカイは首を横に振った。


「わかんない」


「は? 俺たちのことは隅から隅まで知っているのに何故だ?」


「あのねぇ、僕は混沌の神だけど、今は混沌の道化師なの、あくまで人間の形とってるの、万能じゃないの」


「じゃあ何だ? 俺たちのことはずっとストーカーしてたとでもいうのか?」


「そうだよ、試験の時から!!」


「はぁ?!」


 ドンキホーテは思わず叫び、ネクスとミケッシュは青ざめる。


「待て、この小屋、いや、俺たちを導いたボロ看板すらも……」


「うん僕が急いで頑張って作った。何? なんか運命を操作して~的なのを想像してた? そんなことできないよ、君も僕もあの魔法使いの転移魔法の被害者さ」


 はぁ、とため息をついたドンキホーテもはや何もかもがめちゃくちゃだ。


「とにかく、問題はそこじゃない」


 しかしカイは話し続ける。


「なぜ、僕は君たちを監視していたか。理由は単純、あの魔法使い達はこの世界に何かをもたらそうとしている、魔王の力を使ってね」


「何かって?」


「それすらもわからない、でも魔王の力、つまり強大な授けられた神の力で世に混沌をもたらすのは間違いない、少なくとも文明が終わるレベルの混沌がもたらされるんじゃないかって僕は予想している、僕はそれを止めたい」


「ちょっと,待って混沌の神様なのに世が混沌とするのを止めたいの?」


 ミケッシュの指摘はもっともだ、混沌の神を名乗る割にそのケイの目的はこの場にいる誰もが首を傾げそうなものだった。


「止めたいよぉ混沌だもん。勘違いしてるみたいだけど、僕的にはこんな形で人類に終わってほしくないって思ってる。だからこうして出張ってきたんだ」


 それに、とケイは付け足す。


「僕だけじゃない、僕は人間として受肉した化身だからスタートダッシュに成功してるだけで他の神も魔王の力を感知している筈だ、近々干渉してくる筈だよ」


 息を呑むネクス、ケイを睨みつけるドンキホーテ、固まるミケッシュ。

 そんな3人を見つめケイはさらに言った。


「そして、これは僕からの依頼だ……君たちにはその神すら恐れる魔王の力を封じてもらいたい」


「まて、少し気になることがある」


 ドンキホーテはケイの話を遮る。


「なんだい?」


「魔王の力ならすでに俺がパラディンの剣技で弱らせて封じた。これ以上なにをする」


「ああ、忘れてたよ」


 すると、ケイはわざとらしく笑う。


「魔王の生まれ変わりはネクスちゃんだけじゃない」

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