第四十九話 騎士の先生②
爆煙を晴らし、大地に立つその男は口角歪ませている。
三日月のような歪んだ口からは愉悦や喜びは感じられない。感じられるのは凶悪な害意。笑みというのは元は人間が獣だった頃、威嚇するために用いた表現だったのだとか。
フランシスはそんな雑学をを場違いだと思いながら思い出し、そして当の怒りと殺意を滲ませている男の笑みに恐れることなく落胆を乗せたため息をつく。
「私の十八番の魔法を防ぐとはな……おまけに──」
フランシスの視線の先には二人の少年少女がいた、消し飛ばしたと思っていた二つの障害は排除されてなどい。
「傷一つないとは」
二つの障害、リリベルとミケッシュは無傷、生きている。
「先生……?」
リリベルの霞む目には青が広がっていた。それが見慣れたドンキホーテのマントだとリリベルは一瞬で気づき、呼び慣れた呼び方でドンキホーテを呼ぶ。
「リリベル、すまない遅くなった」
被っていた魔女帽を下げ振り返るドンキホーテの顔にはうまく包み隠しているものの、焦りを感じた。
その証拠にいつものようにドンキホーテの目は優しく温和な雰囲気のではなく、まるでこれから獲物を刈り取るかのような猛禽類の類を想像させるような冷たく鋭い目つきをしている。
「あー最悪なの引き当てたな? 旦那?」
コメディアンはフランシスに半分笑いながら言う。
「確かドンキホーテ先生……だったっけ? サーレスとヴォルスをボコったやつだ」
「ドンキホーテ……なるほど貴様が」
コメディアンに指摘され、そこで目の前の騎士の正体に勘づいたフランシスはドンキホーテをじっと見つめた。
「ふむ……もう少し老獪そうな人間かと思ったが……甘いマスクに、清潔感のある白の鎧と青のマント……魔女帽以外は、ステレオタイプな騎士という感じだ」
冷静に分析するフランシス。
「ドンキホーテ殿、君のお陰でサーレスとヴォルスは非常に動きづらくなった……ワープモンスターの空間転送を司る内臓を取り出して、そこから二人の匂いや、アジトを突き止めたな? よくもまあそこまでやってくれたものだ」
フランシスの賞賛のように装飾された嫌味の言葉からドンキホーテは思い出す。ワープモンスターの光り輝く光玉のような内臓を取り出したあの後、ドンキホーテはそれを衛兵たちに提出した。
そしてドンキホーテ自身の持っているコネ、衛兵たちの総力を上げワープモンスターの内臓から転移した先を読み取ることに成功、見事サーレスとヴォルスの根城であるとある街の一角のアパルトメント突き止めたのだ。
しかし結局、サーレスとヴォルスはそこにはすでに居らず、残されたわずかな目撃情報などや部屋に捨てられた物品から得られた体臭を用いて猟犬による捜査に切り替えた。
それからサーレスとヴォルスの一件は進展はない。それでもどうやら、効果はてきめんのだったようだ。目の前のフランシスの反応からそれが伺える。
「あれから、サーレス達も随分と動きづらそうだった、というか実質王都エポロでの活動できなくなった」
フランシスはその時の苦労を思い出すかのようにフンと鼻を鳴らす。
「そうそうおかげで俺の残業が増えた……」
コメディアンもそういい、ため息をつく。どうやら随分とドンキホーテには煮湯を飲まされたようだ。
「随分と苦労させたみたいだな、良かったぜ……俺の努力は無駄じゃなかったみたいだ」
「ああ……全く厄介だったよ……学校も当初は閉鎖に追い込もうとしたのだが……その計画すら君がおじゃんにした」
フランシスの恨み節をドンキホーテはフッと笑う。
「テメェらみたいなバカどものせいで学生が学ぶ機会を損失するのは理不尽だと思っていたんでね」
「全く教育者の鑑だ……そのせいで学生たちが無駄に力をつける機会を与えられた……結果、予定は繰り上げに繰り上げを重ねざるをえなかった……学生たちが本格的に強くなったらもう私たちの現状戦力では太刀打ちが厳しいと思ったからな……。
本当に忌々しい」
だが、とフランシスは続け右手の掌をドンキホーテに向ける。
機械の義手からはカチャリとカラクリが噛み合う音が聞こえ、臨戦体制が整ったことを周囲に知らされている。
「私たちの勝ちだ、君を殺してここから逃げる」
「おいおいおいおい、こっちはお茶菓子の用意までしてんだぜ? もう少しゆっくりしていけよ、クソ野郎」
「気持ちだけもらっておくさ」
「まあそういうなよ、案外口に会うかもしれないぜ? 鉄臭い味をよぉ……味合わせてやるよ」
瞬間、その場の空気が重くなったような気がした、そして肌に張り付くような緊張感が同時に生まれる。
お互い、見合いを見計らい、いつ相手の急所に決定的な一撃を叩き込むのか、それを虎視眈々と狙う。
「旦那? 俺が先に仕掛けるいいな?」
コメディアンが足に力をこめた。
フランシスは黙って頷く。
ジャリリと足元の石混じりの土が退けられ、コメディアンは機会を伺っていた。
そして彼は無言のまま緊張感を漂う重い空気を裂くように、突進した。
フランシスと意識のないネクスから離れ、自分達がまず戦闘のイニシアチブを取るために。
実際この戦況、守るべき生徒を二人持つドンキホーテは不利なはずだ、加えてコメディアン側は後方支援のフランシスまでいる。
この勝負、自分たちが波に乗りさえすれば負けることはない。
コメディアンとフランシスはそう考えていた。
だがその時光が、降り注いだ。
翠色、宝石と見紛うほどの美しいその光は、その美しさとは正反対に軌道上の敵を破滅に追いやるほどの攻撃力を有していた。
「なっ!」
コメディアンが呻めき、その光線の餌食となる。コメディアンは防御は間に合ったものの光線は直撃。
そのまま光線の着弾による爆発に吹き飛ばされる。
「なに……!?」
フランシスも完全な不意打ちだったため対処ができず、吹き飛ばされたコメディアンをただ見ることしかできなかった。
(闘気による飛ぶ斬撃?! しかしどこから!?)
射角からドンキホーテが放った一撃でないことは確かだ、しかしフランシスは周りを見渡すも、攻撃者らしき人物は見つからない。
そして、ここでフランシスは気付いた自分が間違いを犯していることに。
目の前にいたドンキホーテという騎士の実力を軽視していたという事実に。
ドンキホーテはもはや気づいた時にはフランシスの視界内にいなかった。
そして同時にフランシスは背後に魔力と気配を感じていた。
「チッ……」
フランシスは舌を打つ。
「負けたか……」
その言葉と共に、フランシスの上半身と下半身は真っ二つに別れたれた。
いつのまにか背後に回っていたドンキホーテによって渾身の斬撃をフランシスはその身に受けたのだ。
機械の部品が飛び散り、地面に散乱する。フランシスの体を支えていた機械たちが無惨に機能不全を土の上から主張していた。
そして、勝利を勝ち取ったドンキホーテはフランシスに一瞥をした後、はるか先に見える絶壁の崖見つめた。
崖の上には人影が見える。その既知の人影に対してドンキホーテはただ一言感謝を述べた。
「ありがとうな、レヴァンス先生」
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