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聖火  作者: 青山喜太


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第四十三話 魔王の生まれ変わり少女と運命を棄却する少女と、輪廻の龍に好かれた少女⑥

「やられたな」


 ドンキホーテは目を細める。目の前に広がる光景は信じ難いものだった。

 ボロ雑巾のように転がるゴーレム、逃げ惑う学生、対応に追われる教員の騎士。

 そしてその状況を作り出した魔物は、天に向かって高らかに吠えていた。

 魔物はライオンの頭と山羊の頭を合わせ持ち尻尾に当たる部分は蛇になっていた。


 その四足の魔物の名はキマイラ。

 ドラゴンに次ぐ脅威と俗に言われる魔物である。

 しかし、なぜキマイラがここにいるのか。


 原因を考える前にやれることがある。鮮血で口を濡らした悪虐非道の魔物を前にドンキホーテは静かに剣を引き抜く。


「くたばれ……!」


 静かな怒気と闘気を纏った彼の剣は容易にキマイラの四肢と首を刈り取る。

 完全なる無力化を施した上での致命的一撃を喰らいキマイラは自らが死んだことにも気が付かず地面に倒れ伏した。


「ドンキホーテ!」


 キマイラを背にしたドンキホーテに近づいてくるものが1人。


「センセ……」


 レヴァンスだった。

 彼もまた血に塗れている。しかし彼自身の負傷というよりは敵の返り血のようだった。


「そっちは……?」


 分かりきった質問をドンキホーテは投げかける。


「こちらもダメだ、魔物が多すぎる無事な場所などないぞ」


「やっぱりか」


 ドンキホーテとレヴァンスが結界内に突入して5分たらずだった。この惨劇は起こっていた。

 おそらくこれは撹乱のための襲撃、だがあまりにも手が早い。

 そして同時多発的に起こっている襲撃。

 それを可能にしている魔物の群れ、出どころには心当たりがあった。


「ヴォレスとか言ったか……あの魔物使いか……!」


 食いしばるドンキホーテ、あの時の魔王軍関係者だ。あの事件の後ワープモンスターの空間転送を司る器官を取り出し痕跡を調べ追跡を衛兵たちに任せていたが、まさかここで再び仕掛けてくるとは。

 だが悔しがっている暇はない。


「ドンキホーテ! 惚けている暇はないぞ!」


 レヴァンスの声にドンキホーテは頷き大地を蹴った。これ以上被害を出さないためにも出来るだけ、生徒たちの避難を優先しなければならない。だが圧倒的に教員の数が足りない。


(ネクス、ミケッシュ、リリベル無事でいてくれ!)


 そう願いながら、ドンキホーテとレヴァンスは風を切ってかけて行く。これ以上、最悪の事態に陥らないようにと。



 ─────────────


「ハハハハ!」


 火花が散り、金属音と男の笑い声が森に響く。

 切り開かれた森の広場の中でただリリベルとミケッシュは弄ばれていた。

 2人に相対する男、コメディアンは遊ぶようにナイフを振り回す。

 しかしそれが熟練の戦士の振るう美技のような軌道をとりリリベルとミケッシュの2人に襲いかかっていた。


 一重に彼ら2人がこれまで生き残れたのはただ、ドンキホーテの指導の賜物とやはり目の前の男に明らかに手加減されているからだ。


 もしコメディアンが本気になれば、リリベルとミケッシュなど息をする間もなく殺されてしまうだろう。


(どうする……!)


 リリベルは焦る。ロングソードを失い、手に残るは母の形見である片刃の短剣。ミケッシュは自らの獲物である槍は残っているものの恐怖により動きが固い。槍のリーチ差によってなんとか防御できているといった印象だ。


(このままじゃ……負ける…… 殺される!)


 それぐらいのことはリリベルもわかる、なぜ目の前の男が本気を出さないのか分からなかったが、とにかく本気を出されたら2人とも死ぬ。

 ミケッシュもそのことがわかっているいや、賢い彼女は誰よりもこの状況の絶望的な状況を理解している。


「う……ひぐ……」


 ミケッシュの瞳が滲む。

 そして彼女は頬を濡らした。助けに来ない先生達、そしてときおり聞こえる悲鳴から彼女は気づいた、気づいてしまった。

 これは計画的な作戦で、完全に学校側もおそらく国でさえも目の前の男とその仲間を止められていない。


 そしてそんな悪党に目をつけられた自分達に未来などないのだと。


「おいおい泣くなよ」


 コメディアンはナイフを振るうのやめ距離を取る。そしてそんなミケッシュを見て頭を掻いた。


「余計やり辛くなるでしょうが」


「しょうがないなぁ」と続けたコメディアンはミケッシュを見つめると、ただ吐き捨てるようにオモチャをゴミ箱に入れるみたいに言った。


「どうせ辛いなら……結果が変わらないなら……もう殺すか〜」


 瞬間、コメディアンが消える。


「あ……」


 そんな間の抜けた声を出すミケッシュの眼前にコメディアンは肉薄していた。男の右手には殺意を具現したかのようなナイフ。

 今まさにミケッシュに迫っていく。


 鮮血が大地を濡らした。緑は紅に染まり、青臭い草木の香りに鉄臭さが混じる。


「ミケ……シュ……」


 リリベルの口から赤が溢れる。


「リリベル……?」


 リリベルが刺されたそのことを理解するまで、ミケッシュは時間がかかった。

 庇ったのだ、リリベルがミケッシュを。


「あ、いや……いかないで……リリベル……!」


 腹を刺されそして倒れ伏したリリベルはボヤける視界の中、ただ呟こうとしていた。


(逃げて……)


「ああ! まじかよ! そっちか〜ごめんな、痛いとこ刺したな……」


 倒れ伏したリリベルに傅くように腰を落とし見つめるコメディアン。

 だが一瞥をしただけで次の標的であるミケッシュを睨みつける。


「まあ、すぐに友達も終わらせてやるからさ、少しだけ待っててくれな」


「あ……あ……や、やめて!」


 後ずさるミケッシュに、ゆっくりと歩を進めていくコメディアン。


(だめだ……やめろ……!)


 霞む視界の中必死にもがくリリベル。

 しかしどうしようもない出血多量だ。

 血が足りず力が足りないリリベルは四肢から力が抜けていくのを感じた。


 終わりなのか。

 ただ、ここで野垂れ死ぬのか。

 腹に宿る血の熱を感じながらリリベルの心は叫んだ。


(嫌だ……! そんなの!!)


 やっと見つけた居場所だった、初めて褒めてもらえた。

 認めてもらえた、僕だけの場所。


 失うのか何もできず。


 失意の念に沈みそうになった時だった。

 糸があった。


 リリベルは意味がわからず目を凝らす。腹から傷口から糸が出ている。

 赤い鮮血のような糸。


 その時、なぜかリリベルはその糸を取り除かなければと思った。

 これは何の糸なのかもわらかない、だが自分が今しなければならないのは傷口を塞ぐことよりもこの糸を切ることだと思ったのだ。


 リリベルの短剣が輝く。

 なぜか母の言葉を思い出した。


 ──この短剣はきっと貴女を守ってくれる。


(そうだ、もう僕は立ち上がる方法を知っている)


 リリベルは腹から伸び空中に漂っていた糸を短剣で断ち切った。


 ─────────────


「じゃあなお嬢さん」


 木までミケッシュを追い詰めたコメディアンの短剣を振り下ろそうと、力をこめる。目を閉じるミケッシュ。

 その時だった。


「……!」


 後ろに感じるは尋常でない殺気。

 死に至る一撃がくると察知したコメディアンはすぐさま振り返り、その一撃を受け止める。


「ぐっ!!」


 コメディアンはナイフの腹で受けたその一撃は容易に彼を吹き飛ばした。


 地面に着地するコメディアンは何が起こったのか状況を理解するべく、本来自分がいるべきだった。少女ミケッシュのいる方角を見る。


 そこには──。


「おいおいまじかよ」


 本来なら動けないはずの少年がいた。


「リリベル!」


 ミケッシュの歓喜の声が響く。

 そこには、大地を踏みしめるリリベルの姿があった。

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