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聖火  作者: 青山喜太


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第四十二話 魔王の生まれ変わり少女と運命を棄却する少女と、輪廻の龍に好かれた少女⑤

 目の前のフランシスは、刃が走る剣の切先をネクスに向かって突き付ける。


 そして、走り出した。向かうは一直線。ネクスの元だ。


「やらせない!!」


 しかし今の不安定なネクスに近づけはしまいと、リリベルがネクスの前にでた。


「邪魔だ少年」


 けたたましく鳴く、フランシスの機械の剣がリリベルの眼前にまで迫る。


(受け止める……?! でもどうやって……!!)



 だが剣の縁を超高速で滑走している刃の列を受け止める術をリリベルは知らない。

 だが迷う暇はなかった咄嗟にリリベルはフランシスの機械仕掛けの剣を自身のロングソードで受け止める。


 しかし──。


「ぐ!」


 火花が散り、リリベルと共に彼のロングソードが悲鳴を上げる。

 そして当然の結果が訪れた。

 リリベルのロングソードは圧倒的な破壊の力の前についに裁断され、今まさにリリベルの体にに機械の剣が迫っていった。


 だが、その時リリベルに迫る機械の剣が静止する。


「……見事です魔王様」


 機械の剣を止めたのはネクスのサーベルだった。フランシスの機械仕掛けの剣は火花を散らしながらしかしネクスの剣に阻まれていた。

 闘気を纏い強化されているネクスのサーベルはリリベルの裁断された剣の数十倍の強度を誇っているようで完全に攻撃を防いでいる。

 そしてフランシスの賞賛に答えるように、ネクスはフランシスを押しのける。


 リリベルとミケッシュを庇うように目の前にたったネクスはそのまま一直線にフランシスに向かっていく、突風を巻き起こしながら突き進むネクスは眼前の敵を粉砕すべく確実な殺意を持って肉薄しそして剣を振り上げた。


「はは! 魔王様自らがお相手くださるとは、光栄です」


 振り上げられた剣をネクスはそのまま振り下ろした。

 音の壁を越え衝撃波を生み出しながら剣はフランシスへと向かって行く。木々を揺らしリリベルやミケッシュがよろめく程の攻撃だったが──。


「これは…予想外だな」


 フランシスの機械仕掛けの剣によって受け止められていた。しかし同時にフランシスの想定していたよりも威力が大きいらしい、彼の義手からは火花が飛び散リ、持ち主であるフランシスに苦痛を知らせていた。


「……!」


 それをネクスは見逃さなかった、彼女は羽を羽ばたかせると同時に舞い上がり──。


「ああアアアア!」


 雄叫びを上げながら再び剣を構え急降下、そして光が走った。

 落下速度と自身の飛行能力を持ってして放つそれは、剣の反射光が残像のように引き伸ばされているかのように見える程の一撃だったのだ。


 フランシスはかろうじて、自身の剣で防御したものの、しかし吹き飛ばされる。

 それもそのはずだ。


 ネクスのその会心の一撃は遥か後方にあった森の一部を切り飛ばし、景色を一変させてしまったのだから。

 

 やがて嵐が通り過ぎたような静けさが訪れる。

 ネクスは大地を踏み締め、つぎはフランシスの仲間であろう、コメディアンを睨みつけた。

 もはや貴様の仲間は死んだ、次は貴様自身の番だ。ネクスはそう告げているかのように剣の切先をコメディアンに向ける。


「ネクス……ほんとにあれが……」


 リリベルはその光景を驚愕して見ていた。

 あり得ない、最早、超常の域に達するのではないかと言うレベルの力を自身の友人が持っていることに現実感がなかった。それはミケッシュも同じだったようでいつの間にか尻餅をついている。


 しかしそれ以上に二人の心に訪れていたのは安堵だった。

 あの強靭なゴーレムさえも葬るほどの力を持つフランシスという男の敗北。

 最早、あの男がどうなったかさえも定かでは無いがとにかく戦闘の続行などできたものでは無いはずだ。


 やり遂げてくれたのだネクスは、未知の力に抗い勝利を勝ち取った。

 このままいけば、コメディアンを名乗るあの白髪の男からも逃げられるかも知れない。


 そうネクスとミケッシュの二人はこの状況をどうにか出来ると思っていたのだ。

 甘かった……そう言わざるを得ない。


「おいおい」


 追い詰められているはずのコメディアンはヘラヘラと口角を歪ませている。


「俺の相手は最初から決められているんだぜ? 魔王ちゃん」


 “ディメンション”


 “バレット”


 血の通っていない、機械的な声がした。

 すると唐突に何処からともなく光球が飛来しネクスの胸に着弾する。


「!?」


 ネクスは対策する時間さえなかった。

 その光球はたちまち肥大化しネクスを飲み込む。


「ネクス!」


「リリベル! 行っちゃダメ!」


 思わず駆けつけようとするリリベルをミケッシュは縋るように引き留めた。

 でも、と言いかけるリリベルに再び悪寒が走る。


「危なかったな」


 そう呟きながフランシスが空中から降り立った。

 生きていた。フランシスは敗れてなど居なかった。手の甲の剣は折れて破損しているもののフランシス自身に対した外傷は無い。


「旦那ぁ! 遅いよぉ今、葬式の予約したところだぜ」


「そうか、穴埋めに棺桶には貴様が入れ」


「いやだよ俺、火葬派だもんね」


「そうか、ではあとで改宗しておけ」


 そんな軽口を叩きながらフランシスはネクスを飲み込んだ光球に手を伸ばした。


「あとは任せる」


 その言葉をのこしフランシスは光球の中に吸い込まれるようにして消えていく。


「あいよ」


 と呟いたコメディアンは光球を背にしてそしてリリベルたちに向かって微笑んだ。


「さあ、とりま、死んでくれるか? 生徒さん?」

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