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聖火  作者: 青山喜太


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第四十話 魔王の生まれ変わり少女と運命を棄却する少女と、輪廻の龍に好かれた少女③

「さて、魔王様。いかがでしょうかご機嫌のほどは」


 星空の翼を広げたネクスに恭しく黒ローブの男は頭を下げる。


「ああ、失礼しました、自己紹介が遅れ申し訳ありません。私の名はフランシス。あちらの白髪の男はコメディアンです」


 丁重に自己紹介をしていく目の前の男に魔王は何の興味もなさそうに、虚空を見つめている。


「ネクス……!」


 リリベルも声をかけるが、それにすら魔王となったネクスは興味を示さない。そんな時、フランシスが魔王に近づきながら語り出す。


「さあ、魔王様。参りましょう遠回りになりましたが貴方の臣下が貴方の帰還を待ち侘びて──」


 金属音が鳴り響く

 フランシスのそのスピーチは最後までつづけることができなかった。


 フランシスの左腕が宙に舞っていた。


「……チッ……!」


 そして、フランシスは距離を取る。スピーチが失敗しただけでなく、体の一部を再び失った彼は苦い顔をしながら舌打ちをした。


「旦那ぁ? それ以上、怪我するとまた明日から干し肉生活になるからやめてくれよなぁ?」


 コメディアンの呑気な声がする。

 それに若干の苛立ちを覚えながらも、フランシスは叫ぶ。


「黙れ、コメディアン。貴様は早くそこの二人を始末しろ」


「はいはい」


 コメディアンは白髪を揺らしながら笑う。そして、どこからともなく短剣を取り出す。


「ミケッシュ……!」


 リリベルはミケッシュに、警戒を促す。

 だが、ミケッシュはただ震えていた。目の前で友人が変身した衝撃が大きいのか、震える身体を制御できずただ立ち尽くしている。


「ミケッシュ!!」


 リリベルの言葉にやっと、ミケッシュは息をすることを思い出しのか、ハッと酸素を呑み込む。

 それと、同時に白髪のコメディアンが二人に突撃していった。


「君たちぃ、悪いけど命令なんでねぇ!」


 まずはリリベルを狙ったコメディアンは短剣の突きを繰り出す。


「くっ!」


 凄まじく、速い突きがリリベルを襲う。

 だがその短剣はリリベルを傷つけることはなかった。

 リリベルは自身の剣で、その短剣を受け止め弾き返したのだ。


 コメディアンはそのリリベルの剣捌きに、感嘆と賞賛をこめて口笛を鳴らし、リリベルから距離を取った。


「おお、すげぇな! 生徒だからってちょいナメてたよ。まさか剣を弾かれるなんて──」


 その時だった、コメディアンの腹が鮮血に染まった。


「おっ……?」


 そんな間抜けな声を出しながら、上半身と下半身を両断されたコメディアンだったものはどさりと、地面に倒れ伏した。


「きゃあああ!!」


 ミケッシュの悲鳴が轟く。リリベルも思わず目をそらした。

 一瞬の出来事だった。

 リリベルの目線では漆黒の羽が舞ったかと思ったら、いつのまにかコメディアンは目の前にいる黒の翼を広げたネクスによって殺されていたのだ。


 ネクスは次は貴様だと宣言するかのようにフランシスを見つめる。


「何をやっているコメディアン」


 だが仲間であるはずのフランシスなる男は全く動揺も、悲しみもしていない。


 それどころか、まるで生者に語りかけるように、死んだはずのコメディアンに話しかける彼の姿はまさしく異常者そのものだった。


 だが──。


「そんなこと言うなよ旦那ぁ。ていうか旦那も抑えといてくれよ、魔王様をさ」


 声が聞こえたかと思った次の瞬間、フランシスの隣にコメディアンはいた。

 現れたのではない“いた”のだ。


 というのも、死んだはずのコメディアンは何の前触れもなくまるで、本当にフランシスの隣にずっといたかのように存在していたのだ。


 死体から魔法で生き返ったようなそぶりもなく、瞬間移動したような気配もなかった。


「抑えられたらすでにそうしている。できないから困っているのだろうが」


「そりゃすまん」


 何事もなかったかのように交わされるたわいもない会話。

 リリベルは死体があったはずの地面を見たが、そこには半分になったはずのコメディアンの死体はなかった。


 死体どころか、血痕も残っていない。まるで最初からなかったかのように。


「な、どうして……」


 リリベルの驚きように、ただコメディアンは笑顔で返すだけだ。

 おそらく何かしらのアビリティなのだろうがリリベルは想像すらつかなかった。


「さて、こうなれば本気を出さざるを得ないわけだ、コメディアン。いくぞ」


「オーケー」


 だが、逃げるわけにも行かないリリベル達の目の前の二人は当然見逃すなどということは選択肢はないようだ。


「こい……マキナアーム」


 フランシスが呟く。すると、地面が盛り上がり二つの四角柱の黒の鉄塊が地面から顔を出す。


 そして、フランシスはその黒の四角柱にそれぞれの右腕と左腕の切断面を二つの四角柱にピタリとつける。

 すると、ガシャガシャと、歯車と機械が噛み合う音が森に鳴り響き、火花が散った。


 一瞬で四角柱から、フランシスは腕を引き抜いた。

 そのままの意味だ、彼は()()()()()

 彼の切断されたはずの左腕も、元からなかった右腕も四角柱から抜いた時にはもう、機械の義手がつけられていた。


「マーク2、試すのにはいい機会だ」


 フランシスの機械の義手の手の甲が光り輝く。

 やる気だ。新たなるフランシスの義手は尋常でない、魔力を纏っていた。

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