第三十三話 アビリティ
生徒対生徒、そのイレギュラーな戦いはネクスが地面を蹴ったことにより、開始の合図を決めた。
「お前の相手は俺だ! ネクス! というか正直お前以外はどうでもいい!!」
そういうウルカールに、それならばと遠慮なくネクスは剣を振り下ろす。
「うおお!!」
ガキンと音を立ててウルカールの剣とサーベルが交わる。
「この前の俺とは違うぞ! ネクス!!」
ネクスを睨みつけるウルカール。
その挑戦状じみた視線にネクスは笑みで返した。
そしてウルカールはネクスを押しのける。
そのまま二人は距離を取った。
先ほどの剣の打ち合いで二人とも理解したのだ。一ヶ月前とはレベルが違うと、このまま馬鹿正直に剣を使ってもおそらく前回のように勝てないのは明白。
(だからこそ……! 噂通りならくる! 特殊能力が!)
ネクスの頭を覗き見たのかようにウラカールが叫ぶ。
「知っているのだろう! ネクス! 俺の能力を!」
未知の力を前にネクスの脳内である記憶がよぎった。
─────────────
「さあ、今日の授業は闘気についてだ!」
ドンキホーテの声が三人しかいない教室に響き渡った。
ミケッシュはあくび、リリベルは真剣にドンキホーテと黒板を見つめ、ネクスは足を組み脱力している。
「はーい、君たち騎士志望者には耳の穴の中に木霊しているぐらい聞いたことだと思うが? 今一度! 説明しておくぞ!
先生は応用ができないからな! 教科書通りにやらせてもらう!」
すると、ドンキホーテが黒板にチョークを走らせる。
チャクラ、気功、神通力。
ドンキホーテは三つの言葉を黒板に書く。
「これらは、“闘気”の別名だ。地域によってこのように、名称が異なる。ではこの闘気とは何か? リリベル! 答えられるか!?」
ビシッとドンキホーテは人差し指でリリベルを指し示す。するとリリベルは恥ずかしそうに立ち上がり答えた。
「身体能力をある程度鍛えた人間が覚醒し、操れるようになる特殊なエネルギーのことです!」
「そのとおり! ありがとうリリベル!」
リリベルは嬉しそうだったが、そんなこと騎士を目指す人間ならば誰もが知っていることだ。
今更説明されたところで、知っていることばかりだ。
「そう、闘気というエネルギーに目覚めた戦士はやばい! これから君たちも相対することもあるだろう。そういう時の為に改めておさらいだ!」
「まず!」とドンキホーテは黒板に描く。
「闘気にはさまざまな役割がある。その中で特に目にすることがあるのはこの三つ。攻防、強化、そして進化」
黒板に攻防、強化、進化と書いたドンキホーテはまずは攻撃の文字を丸で囲む。
「まずは攻防、これは結構単純だが難しい使い方だ、オーラを放出したり纏ったり、変化させることによって攻撃や防御に使う。
剣を振って刀身から三日月形の光線を出す戦士なんか見たことないか? それは闘気を単純な破壊エネルギーに変換し、攻撃の目的で使っているんだ」
次にドンキホーテは強化の文字を丸で囲む。
「次に強化、攻撃に転化するよりも簡単な闘気の使い方だ。闘気を体の内側に巡らして、超人的な膂力や防御力を生み出す、また武器の内側に流すことで武器の強度も上げることが可能だ!
治癒力も強化させて傷の治りや毒の治りも早させることも不可能じゃない! 戦士が厄介がられる理由の一つだ!」
そして最後、飽きてきているミケッシュとネクスの二人を尻目にドンキホーテは進化の文字を丸で囲む。
「最後は進化、闘気は人を進化させる。人を超人へとな。
例えば闘気を使いづけることによって、闘気を体に流していない状態にかかわらず超人的な力が身についたり、とんでもない生命力を発揮したりする。
それが、闘気の進化だ」
ドンキホーテは黒板からネクス達に体を向け見つめた。
「そして闘気によって進化したものはとある力が発現する。それが“固有特殊能力”だ。縮めて特殊能力ともいう。正直似通った能力を発現する奴もいるしこの際呼び名はどうでもいい」
ドンキホーテはニヤリと笑う。どうやらここからが今回の授業の本題のようだ。
「アビリティは十人十色、千差万別、様々能力がある。だがな本人自体が能力を作るわけじゃない、身体的な成長が自身の手でコントロールできないように、本人もどんな能力が発現するかわからないんだ」
再び、黒板にアビリティと書くドンキホーテ。
「このアビリティが発現しもし自身の物にできたとしたら、戦士の脅威度は数段階跳ね上がる」
「そして」と彼は続けた。
「君たちに今日から、一ヶ月間、闘気の扱い方とアビリティの対処方をみっちり叩き込む。中間試験では、闘気の覚醒は絶対条件だ、だから──」
「覚悟しておけよ」そんな言葉と共にドンキホーテはウインクした。
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あの若干慣れていなさそうなウインクをネクスは思い出し笑う。
(早速、その時が来たわよ先生!!)
ネクスは剣を構えなおす。Aクラスのどこかの誰かが学年で初めてアビリティに目覚めたと、ネクスは二週間ほど前に耳にしていた。
おそらくそのアビリティの発現者は彼、ウラカールだ。この少年こそ噂の最優秀クラスの中の最優秀者。
今最も、新入生の中で騎士に近いと言われている生徒だ。
ネクスはドンキホーテとの言葉を再び思い起こす。
──アビリティ持ちの敵に当たったら色んな工夫をして、まず! 能力を見定めること!
そう、対策はまずは見ることそして知ること、それが重要だ。
目の前の少年がどのような能力に目覚めたのか、それを知らなければ対策のしようがない。
「俺のアビリティ! 対応してみろ!」
ウラカールのその叫びと共に、剣の切先をネクスに向ける。
「いいか! 二人とも! 俺の邪魔をするなよ!」
取り巻きの少年二人にそう言って、そしてウラカールは駆け出す、ネクスに向かって、一直線に。
(近づいてくる?)
瞬時にネクスの思考が巡る。
近づいてくるということは十中八九、接近して発動する能力それは間違いないだろうとネクスは踏んだ。
問題は、それがどのような能力なのか。
触れれば発動? それとも剣に何か能力を付与している? もしくは近づくことそれ自体に何らかのメリットがあるのだろうか?
──アビリティは十人十色、千差万別!
ドンキホーテの言葉が頭によぎる。わからない、予測しようがない。
ネクスは賭けに出た。
彼女は全身に闘気を巡らせる。
ネクスの肌と筋肉や骨はたちまち、鉄以上の防御力を発揮させ、しかしいつでも動かせるしなやかさを保たせていた。
闘気による身体の防御機能の強化は充分。
これは保険だった。ウラカールのアビリティが当たった時のためのあくまで保険だ。
本当の勝負のタイミングは、ウラカールが間合いに入った時、能力を発動させた瞬間にネクス自身も渾身の攻撃を放つカウンター戦法。
ドンキホーテから教わった、未知のアビリティを持つ敵の対処法の一つだ。
そのカウンター戦法で発動される前に決着をつける。
それがネクスの出した答えだった。
しかし──。
「ネクス……」
ウラカールはニヤリと笑った。
「見誤ったな!!」
ウラカールの剣の切先が光る。
(アビリティ?)
バカな、ネクスは困惑した。まだ射程距離ではない、現にウラカールとはまだ十数メートルは離れている。
だが事実、ウラカールのアビリティは発動された。
光がネクスの体に直撃する。
「ぐ、うう!!」
弾けるような音と共に、ネクスの体が痛みと熱を訴える。瞬時にネクスは理解した電撃だ。
電撃をウラカールは放ってきたのだ。
「かはっ……!」
ネクスはそのまま、膝を地面につける。
ウラカールの言う通りだった完全に見誤った。
最初の接近してくる動作からすでにファイントだった、接近型のアビリティだと誤認させるための。
「さて、二人とも、ザラウさんと、リリベルの相手をしてやれ」
そしてもう勝負がついたとウラカールは見なしたのか、取り巻き二人をリリベルと、ミケッシュの相手に向かわせる。
ネクスの脳内に心配そうに自分を見るリリベル達が浮かんだ。
「ネクス、俺の勝ちださっさと……」
だが、心配には及ばない──。
「なあんだ」
そんな意味を込めてネクスは笑ってウラカールを睨み返す。
「この程度の電撃、警戒して損した」
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