第三十話 2ヶ月後
そして、残された寒気が完全に消え去り、夏が顔を見せ始めた頃、ついに中間試験が到来した。
森が見渡せる丘の上そこで多くの騎士学校の生徒と教員たちが集まっている。
森は広大で遥か遠くに見える山の方まで続いていおりどうやらここが例の中間試験の試験場のようだ。
そしてその森を背に騎士学校校長ジークが簡易的に設置された台に登壇する。
それまで私語をしていた生徒達も教員の「静かに!」という鶴の一声で全員押し黙り、校長ジークに視線を向けた。
「えーみなさん本日はお日柄もよく──」
校長の話が始まる。なんてことない世間話に近いほぼ情報のない話が。
そんな中、一人の男がまるでため息を吐くかのように呟いた。
「始まるか……」
教師の一人である騎士レヴァンスだ。そのレヴァンスの小声は誰かに向けられたものではなかった。
しかし──。
「不機嫌そうだなセンセ?」
誰にも聞かれないようにしていたはずだったが、どうも都合よくはいかなさそうだ。隣にいるいけすかない奴の耳にちょうど言葉が聞こえてしまった。
口は三日月、半目に横目で、そんないけすかない奴、ドンキホーテはレヴァンスをみていた。
レヴァンスはため息をつく。
「教員まで狙われたと言うのに野外で実戦訓練とはな」
「しょうがないだろう? それでも学生から学びを奪うわけにはいかないし」
「しょうがない? 間違いなく今回の試験で狙われるぞ生徒がまた」
「だから俺たちがいる」
「楽観的だな?」
「唯一の長所なんだ」
「短所の間違いだろう」
「そういう捉え方もあるな」
「そういう捉え方しかできない」
「ネガティブはよくないポジティブに物事をだな……」
「えーごほん……教師陣の方がうるさいですが……話を続けます」
校長に遠回しに注意されたことにより固まる二人はそのまま真面目を装った。
校長のジークは二人が静まったのを確認すると再び説明を開始する。
「えー今日からみなさん一週間、この私の背後に広がる森で暮らしていただきます。まぁ、担任から説明は一ヶ月ぐらい前から受けているでしょうが、もう一度校長の私から説明をさせてください」
校長は森を指を指す。
「結界を張られたこの森の中にはゴーレムがいます。人型、獣型、ドラゴン型、と種類は多様に分かれますがとにかくそれらのゴーレムを倒しポイントを稼いでいただきたいのです」
風が吹く、生徒たちの目に映る森がざわめいた。
「ゴーレムのポイントは先生から渡されたしおりを後で皆さん確認してくださいね。ああ! あともう一つ! 2ヶ月前の事件を受けて万が一に結界の外だけでなく内に教員を配置しているので危険を感じたら先生の元まで駆けつけるように! 以上!」
「では順に結界に入っていってください!」と校長が宣言する。
ゾロゾロと生徒たちがクラス単位で移動を始めた、三十から二十人ずつ順番に丘を降り、結界の入り口へと入っていく。
だがその中で異質な集団が一つ、他のクラスが二十人以上のクラスに比べたったの三人しかいないクラスが残った。
その三人の生徒はドンキホーテに近寄っていく。
「かましてくる先生」
三人の中の一人ネクスがそう言う。
するとドンキホーテはニヤリと笑みを返した。
「ああ、期待してるぜ。でも無理はすんなよ?」
「当然!」
ネクスは自信満々にそう返すと、残りの二人、ミケッシュとリリベルに振り返る。
「じゃあ行きましょ? 二人とも」
ミケッシュは「うん!」と元気よく頷く。リリベルも腰に差した細身の剣の柄を逆手に持ちながら、コクリと頷いた。
三人はそのまま他のクラスに続いて結界内に入っていった。
─────────────
「静かだね」
いち早くミケッシュがそう言う。
三人は特に何の問題もなく結界の入り口から結界内へと、試験会場へと入場した。
だが確かにミケッシュの言う通りゾロゾロと生徒たちが入ったにしては、周りに活気がない。
「確かに変だね」
リリベルも辺りを見回す。
「あ」
すると唐突にミケッシュが、何か気づいたように声を上げる。
「ねぇ二人とも見て! ここよく見ると入り口じゃない」
「え? どう言うこと?」
ミケッシュの言葉が理解できないリリベルは周りを見渡す、左右を見渡した後、後ろを見る。
すると一気に答えが合わさった。
「あれ、ここ入り口じゃ……ない?」
先ほどのネクスたち三人がこの森に、つまり試験会場に入った時、入り口に気がなく開けた景色だったはずだ、だがいつのまにかその開けた景色がなく森がどこまでも続いていた。
「どういうこと? 僕たち確かに……」
「クラス同士で渋滞しないようにってことでしょ? ワープの魔法を使ったんだよ」
戸惑っていたリリベルだったが、確かにミケッシュの説明ならば納得がいった。
確かに地点が別々に飛ばされれば、リリベル達の様な数の少ないクラスもいくらか公平だろう。
なにせ、スタートダッシュで数多さで妨害しようとするクラスもないとは限らないのだから。
リリベルはしおりを懐から出して読む。
見るのはゴーレムの得点が記載されているページだ。
人型十点、獣型二十点、ドラゴン型三十点。ちなみに今回の試験では百点が満点となっている。
そして、問題はここからだ。この試験では協力が認められている。
まず生徒達はクラスの中で三人から四人ほどのパーティを組み今回の試験に参加している。
パーティの点数がそのままそのパーティに属する生徒たちの点数となる。
三十点のドラゴン型ゴーレムを倒せばそのパーティに属する全員に三十点がいくのだ。
さらに生徒達は他パーティの協力も認められていた。
だが、他パーティと協力した場合ポイントは倒したパーティの数の分、分散することになる。
例えば二つパーティで倒したなら、二分の一。三つのパーティで倒したら三分の一という風にどんどんと少なくなっていくのである。
この試験に参加する全生徒が試験の説明を聞いた時、思い至ったはずだ。この試験で重要なのは連携と妨害だと。
いかに効率よくポイントを集めていけるか、いかにうまく他パーティと連携するか。そしていかに邪魔なパーティを戦闘から遠ざけるか。
当然、戦闘するパーティが多ければ多いほど、ポイントは分散されるのだから事前にクラス単位で妨害されれば三人しかいないネクス達はどうしょうもない。
だがこうして、スタート地点がバラバラに確かに公平だ。これは事前の連絡にもなかったことだったが、ネクス達にとっては好機だ。
「よし、じゃあ早速ゴーレムを探しに行こう!」
リリベルがそう言った時だった。突然ネクスがリリベルの口を塞ぐ。
「もが……!」
「ネクスなにして……もふ!?」
続いてミケッシュも、ネクスに口を塞がれた。
「二人ともうるさい……!」
するとネクスは木と木の間、隙間から日光が差し込む、その先を見つめた。
「ゴーレムが近くにいる……!」
そのネクスの一言に二人に緊張が迸った。
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