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聖火  作者: 青山喜太


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第二十二話 殺し合い

「ほう、妖精ですか」


 サーレスはドンキホーテの手元に出現した群青の魔女帽を一瞬で妖精が取り憑いた物だと見抜く。

 それは同時にその帽子がドンキホーテにとっての異空間につながる収納具であることも見抜かれたということである。


 ドンキホーテはつくづく思う、大した観察眼と魔法知識だと。

 付け焼き刃の、小手先では目の前の男たちは倒せない。


(場合によっては()をつかうか?)


 いや、それはやり過ぎだとドンキホーテは感じつつ、しかし目の前の敵は()()()を切らずに戦えるほどの相手なのか。


 そんな一瞬の逡巡をドンキホーテがした時だった。先に動き出したのは赤髪の男ヴォルスだった。


 ヴォルスは再び、顔に手をかけるとまるで戸棚でも開くかのように、顔の留め具を外し顔を開く。

 すると雪崩のように、ヴォルスの顔の暗い穴からボトボトと、人型の何かが十数体、落ちてきた。


 ドンキホーテの背後から「ヒッ」とアーシェの声がする。恐怖するのも無理はない、ヴォルスの顔より滴るようにこぼれ落ちた人型はどれも、人の形を模しているだけの悍ましい化け物だった。


 赤いカサブタのような肌で、服を纏っておらず、しかし男か女かの判別がつかない、そんな異様な見た目をしているその生き物にドンキホーテは見覚えがあった。


(カラダカガミか)


 ドンキホーテはその魔物の正体を一瞬で見抜く。

 カラダカガミ、体の透明化を得意とする。人型の魔物、アーシェを襲おうとした魔物と同種だ。


 そんな目などの顔のパーツすらない魔物は、何らかの感覚器官ドンキホーテを捉えたのか、殺意と共にドンキホーテの方に頭を向ける。


「やれ」


 赤髪の男ヴォルスが簡潔にそういう。その短い単語で、カラダカガミたちは理解した、自分の持てうる最大の力を目の前にいるドンキホーテにぶつけるのだと。


 そして一斉に猟犬のように放たれたカラダカガミたちを前にドンキホーテは舌打ちをした。


「フォデュメ」


 ドンキホーテは掌の上に居座る生意気な妖精に話しかける。


「No.5だ」


 フォデュメはそれを聞くと、魔女帽のとんがりにできた自らの口を三日月のように曲げて笑う。

 すると突如、魔女帽のトンガリが泡立つように蠢いた。


 すると、フォデュメの魔女帽の頭を入れる部分が膨張、と同時にそこから、六本の細長い鉄の筒を円形に束ねた物体が出てきた。その物体はまるで丸太のように太く、しかし完全に帽子の中から出てくることはなく、フォデュメの帽子の部分に一部が覆われているようだった。


 さらに帽子から出てきたその物体には取っ手が付けられておりドンキホーテはその左手で取っ手を掴む。


 ちょうどドンキホーテの腕の下、つまり肘に平行になるように待たれたその物体をドンキホーテは迫り来る魔物の群れに()()()


「弾種は?」


 聞き慣れた質問をする帽子の妖精フォデュメにドンキホーテは短髪の黒髪を揺らしながら答えた。


対魔物徹甲貫通(アンチモンスターAP)弾」


 するとフォデュメは笑みを崩さぬまま言った。


「は、そういうと思った、装填済みだぜ。()()()()()撃てるぞ」


「サンキュー!!」


 そう叫ぶ共にドンキホーテは取っ手につけられたガトリングガンの引き金を引き銃身を回転させる。

 ガトリングのの帽子の妖精フォデュメも同時に回転による振動で、やれる


「おいおい」


 刹那の出来事、ドンキホーテの選択した行動が果たしてどのような結果をもたらすの赤髪のヴォルスは理解した。そして、舌打ちをしながら懇願する。


「サーレス?! 防御な!?」


 隣の相棒に向けて放たれた無遠慮な要望。

 それをため息混じりに受け入れた相棒のサーレスは瞬時にヴォルスの前に立った。


 ガトリングの銃身は回転し続ける、迫り来る人型の魔物に対してしかしドンキホーテはどこまでも冷静だった、そして硝煙が香る。


 薬室の中で火花が散り、化学反応が弾け起こる。結果はもはや出ている、疑いようのない数式が存在しそして答えだけが銃口から発せられた。


「くはははははは!!!」


 ドンキホーテの口から品のない、笑い声が溢れ落ちると同時に、回転する銃口は魔物に死刑を宣告した。

 指向性を持った殺意が魔物の群れに飛びかかる。


 その光景は圧巻であった。ただ一人の騎士の笑い声と共に、魔物の群れは弾丸に貫かれる。


 ガトリングの銃口の反対側に位置する場所に取り憑いている帽子の妖精フォデュメの口から空薬莢が滝のように流れいで、無情にカラカラと地面に音を立てていく。


 そうして、ガトリングガンから垂れ流せる品性のないドラムロールと共に、魔物の肉片が飛び散っていった。


 いつしか、結界の内側は魔物の臓物と、赤の絵の具で彩られていた。

 当然、魔物の肉を抉っていた弾丸たちは、魔物だけに飽き足らずその後方にいたサーレスとヴォルスたちにも興味を持ち始める。


 だが──。


「めんどくさいですねぇ!!」


 その一言と共に、サーレスは細剣を抜剣する。そして目にも止まらぬ速さで、剣を高速で振り回した。

 剣の軌道は一見無作為に見えたが、その実、飢えた犬のように知性の感じられない分散した弾丸達をはたき落とすには理想的な動きだった。


 剣と弾丸がぶつかり合う。

 火花が咲き誇り、甲高い音が教会中に響き渡る。

 そして、最後の薬莢がフォデュメの口から排出されると共に、再び静寂が訪れた。


「くそ、全員やられた」


 魔物達はガトリングの斉射により原型を留めていない。その光景にヴォルスは苦々しく呟く。

 一方で、サーレスはドンキホーテの手に持っているガトリングガンを目にして興味深そうに言った。


「ガトリング博士が発見そして復元した古代兵器。通称「ガトリングガン」ですか……ヴォルス? 魔王様の為にも魔物は残しておいてくださいね?」


「はいはい、わかってるよ」


 軽口を叩き合う、二人。

 そんな二人を見てドンキホーテはガトリングの銃身を下げる。


「ペラペラペラペラ、随分とお喋りだな? どうやらテメェらには守秘義務というものがないらしい」


 ドンキホーテは挑発のつもりでそう言った。

 だが当の本人である、サーレスとヴォルスは至って平気そうな顔を晒して言い放つ。


「ええ、もちろんですよ。むしろ魔王様の存在は積極的に公開するようにと言われているのでね」

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