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聖火  作者: 青山喜太


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第十五話 それでも

「で、そんな英雄的な私たちが何でこんな扱いなの? 先生?」


 ネクスは口を尖らせながら言う。

 若干、不服の感情が馴染んだその言いようにドンキホーテは苦笑いしながら、言いにくそうに口を開いた。


「あー……このクラスはその……」


 何かを言いかけたが言葉に詰まる、ドンキホーテ。

 そして、逡巡したあとニコリとネクスに微笑む。


「まぁいいじゃねぇか!」


「納得できない!」


「はい! そうは言ってもな、もうこの編成で決定だから! どうしようもないから!」


 食い下がるネクスを必死に宥めるドンキホーテ、どうやら話したくない理由があるらしい。

 その事実自体このクラスの編成が何らかの理不尽な理由で決定されたと言うことを示唆している。


 しかし、ドンキホーテの言う通り、その編成に不服があったとしても、今更変更する権限などドンキホーテもネクス達にもない。


 結局、ネクスの怒りが完全に解消されることはなく、ドンキホーテの一言によって無理やり話の流れを断ち切った。


「はい、じゃあ! 寮の発表します、君たちのこれからの生活の拠点だから、よく聞いておくように!」


「な! 話は終わって──!」


 ドンキホーテは「ごほん」とわざとらしく、咳払いをし、ネクスの話を断ち切った後。

 帽子のつばを掴んだ。


「フォディメ? 起きろ」


 五本の指で魔女帽のつばを掴んでいまドンキホーテは、さらにトントンと人差し指で、催促するようにつばを叩いた。

 すると──。


「ふぁああ……」


 どこからともなく響くあくび。

 そして、ドンキホーテの膨らんだサメの背びれのような帽子のとんがり部分の側面が突如、ちぎれたかと思うとギラリと光る歯をネクス達三人に見せつけた。


 口だ、帽子のとんがりの部分に口が現れた

 それだけではない、あくびをしているのはどうやらあの帽子のようだ。


「あー紹介しよう、こいつはフォディメ、俺の魔女帽子に憑いてる妖精だ。ほらフォディメ自己紹介」


 ドンキホーテのその言葉と共にあくびをしていた、口の上にギョロリとした一つ目が現れた。

 するとその一つ目の帽子はネクス達三人をジロリと見つめた後、ニタリ、歯を三日月のように見せつけ笑う。


「何だよ、ドンキホーテ! また貧乏くじかぁ? 三人しかいねぇじゃねえか! きゃはは!」


 甲高い少女のような声で嘲笑う、帽子の妖精。


「自己紹介しろって言ったんだが? フォディメ?」


 その態度に青筋を浮かべながら、諭すドンキホーテに、フォディメは渋々従った。


「はいはい……おい! ガキども──!」


「生徒の皆様な?」


 ドンキホーテは訂正する。


「俺様の名はフォディメ! このボンクラアホ騎士の荷物待ちだ」


「誰がボンクラだ」とドンキホーテは叱責する。そして危うく忘れかけたフォディメを起こした理由を思い出して、ドンキホーテは帽子の妖精に命令した。


「フォディメ、例のやつ頼む」


「はいよ」


 すると帽子の妖精フォディメは「オエェ」とわざとらしく吐く真似をしながら、口の中から木製のカードサイズの板を三枚吐き出した。


「おい、フォディメそんな汚ない出し方すんな、勘違いすんだろ皆んなが」


「ごほん」と再びわざとらしく咳をするドンキホーテは、厳格そうな、そしていかにも形式的な口調で話し始めた。


「えー改めて諸君入学おめでとう。君たちは入学前の試験官が行った厳正なテストの結果、"公正"にこのクラスに振り分けられた」


 ネクスは思い出す、そうこの騎士学校に入学する前のこと、試験官を名乗る騎士によって入学テストを受けさせられていた。おそらくネクス以外の二人もそうだろう。


 そこで、一定の水準をネクス、リリベル、ミケッシュの三人は入学に値すると認められてここにいるわけだ。


("公正"……ね)


 よく言った物だ、とネクスは心の中で悪態をついた。入学のテストは筆記の他に、魔物を模したゴーレムと呼ばれる土の動く人形を使った戦闘テストがあった。


 ネクスは筆記には自信がなかったが、戦闘テストでは、ゴーレムを粉々に破壊し試験官の度肝を抜くような好成績を残していた。


 それなのに、この結果。

 ネクスの内心に再び反骨精神が起こるが、そのネクスの怒りが爆発する前に、


「はいよ、ネクス」


 と、ドンキホーテが帽子が吐き出した木製のカードサイズの板を最初にネクスに差し出す。


「……汚くないの?」


「大丈夫だ、フォディメは妖精だからなヨダレや胃液なんてでねぇよ」


 そこまで聞いて、ネクスはドンキホーテから安心してその板を受け取った。


 "ネクス・オウス・クロエロード 騎士学校学生証"

 カードサイズのその板にはそう書かれていた。書かれている通りどうやらこれは学生証のようだ。


 続いてドンキホーテはその学生証をリリベル、ミケッシュと渡した。


「よし、じゃあ改めて──」


 学生証が行き渡ったことを確認した後、ドンキホーテは改めて教卓に戻り、言った。


「改めて、入学おめでとう! 色々不満もあるだろうが、今は不満もあるだろうだが、一先ずは……これで許してくれ君たちの扱いも確かに特殊やものとなっている。

 理由はまあ、前例がないからだ。だから君たちはここにいれられた──」


 ドンキホーテは申し訳なさそうに言った。


「この、成績下位者の特別クラスに」

 

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