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聖火  作者: 青山喜太


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第十三話 騎士学校

「ネクスそろそろ行かないと、遅刻するよ!」


 ミケッシュの声が2階から響いてくる。


「わかってる!」


 ネクスはそう粗雑に返事をすると、鞄に物を詰め始めた。

 剣に教本。一通り詰め終わったら、ネクスは自室の扉を開けた。


「おはよう!」


 ミケッシュが階段の上から挨拶をすると、それにネクスも「おはよう」と返した。

 あの列車の事件から二日が経った。ネクスは今でも思い出す。


 化け物に殺されかけた後ネクスは、王都の病院にまで連れていかれ、次に目覚めた時はベットの上だった。

 何がなんなのかわからなかったが、ネクスを尋ねてきた自称騎士学校の先生に話を鵜呑みにするならばどうやら、列車の事故は無事解決したらしい。


 そして、その翌日に学校の入学式が予定通り行われることを学校の使者から聞いたネクスは今日こうして、同じく病院に寝泊まりしていたミケッシュと共に病院から学校へ行く支度をしていたのだ。


「ネクス、体の調子はどう?」


 ミケッシュは心配そうに聞く。


「アンタもお医者さんも心配しすぎ。一緒に寝泊まりするほどの怪我じゃないっての」


 そう言うネクスは、病院の出口までミケッシュと歩いていく。途中で、世話になった看護婦や、医者に挨拶しながら歩いている二人は、あの恐ろしい事件の面影をに合わせないほどに活力がみなぎっていた。


「ネクスちゃん、ミケッシュちゃん、行ってらっしゃい〜!」


 年配の看護婦に出口で見送られながら、二人は病院を出て行く。

 街に出ると、どうやら街も活気に溢れているようだった、出店や商店などが朝早くから開いている。


 そして屋台や商店の間を通り抜けていく大量の学生達、見るまでもなく騎士学校の新入生だ

 おそらくこの商人達は学校の入学式を祝っているのだろう、いや、それだけではない、というか祝いというよりも──


「学生さんこれ買って行かない? お弁当に良いよ!」


「これね! 弾除け、矢避けのお守り!」


 学生をカモにしているようにしか思えない。なるほど通りで軽いお祭り騒ぎなわけだ、ネクスは納得しながら道を歩く。


「商売根性すごいねぇ」


 他人行儀のようにミケッシュがネクスに耳打ちをする。


「そんなこと言ってるとアンタもカモにされるわよ」


 ネクスがそう言うと、ミケッシュは「大丈夫だよ!」胸を張った。


「私、商人の娘だよ? 物の価値くらい分かるって!」


「……え? まじなの? アンタ商人の?」


「うん? 言ってなかったっけ?」


 ミケッシュが首を傾げたまま、ネクスを見つめる。

 そう言えば、とネクスはミケッシュの本名を頭の中で反復した。


 ミケッシュ・ザラウ、ザラウ……ザラウ。


「え? アンタもしかして……ザラウ商会の?」


「うんその三女!」


 納得が言った、通りでドラゴンの赤ちゃんなんて買っている筈だ。

 ザラウ商会、日用品から雑貨、服、宝石、不動産まで、様々な事業に手をだし大成功を収めている知らぬ者のいない大組織。


 それの一人娘が、どうして騎士学校に、いやそれよりも──。


「アンタ、なんで……というか、そう言えばドラゴンどうしたの……?」


 そうだ、忘れていたがミケッシュ、彼女はドラゴンを飼っていた筈だその存在を思い出したネクスは当然の疑問をミケッシュにぶつける。


「んふふ……!」


 ミケッシュの得意がそうな顔。

 いやな予感がした。


「じゃーん……!」


 ミケッシュの服の胸元からひょこりと、ドラゴンの赤ん坊が顔を出す。


「おばか……!! つれてきたの……?!」


「大丈夫だよ……! バレないバレない……」


「この……!」


 真面目に説教しなければと、ネクスは奮い立つ。これから入学式だというのに、ドラゴンの存在がバレればもしや退学という可能性もあるのだ。


 せっかくできた女友達をこんなことで失うわけには行かないと、ネクスがギラリとミケッシュを睨みつけた時だった。


「あ、あの! 困ります!」


 聞き覚えのある声が耳に入った。ネクスが目線を声のした方向に向けると、金髪をたなびかせる少年がいた。


「リリベル!」


「あ! ネクス!」


 リリベルはどうやら、露店の商人に捕まってしまったようだ、延々とこれはどうか、あれはどうかと、商品を勧められている。


 リリベルも断ればいいものの、推しの強さに負けてしまい、商人の話術に飲まれているようだった。


「もう! 行くわよ!」


「あ! ちょっとネクス引っ張らないで!」


 見かねたネクスはリリベルを引っ張って商人から引き剥がした。


「あ、ありがとう……」


「断りなさいよ!」


「む、無理だったんだよ……なんか、なし崩し的に……ハハ……」


「そんな情けない!」


 街の大通りのど真ん中、リリベルに詰め寄るネクスに、ミケッシュがフォローを入れる。


「まあまあ……良いじゃないっすか! 無事救出できたし!」


「そもそも、アンタはドラゴンを……!」


 その時だった。


 ──ゴーン ゴーン


 鐘の音が街に響く。


「あ……学校のベル」


 リリベルの一言に、ミケッシュとネクスは血の気が引く。そしてネクスは最初に走り出した。


「行くわよ! リリベル! ミケッシュ!」


「あ……待ってよ! ネクス!」


「やばい! 初日から遅刻は!」


 三人はネクスを先頭に、学校を目指す。

 空は青く澄み渡っている、まるで未来を選択した若者達を祝福するかのように。


 その青空の下、三人は走り抜く。未来に向かって、走り抜く。

 こんな表現するのは大袈裟なのかもしれない。

 だが、間違いなくこの瞬間、この時、三人の運命は確かに動き出していた。


 そして入学式直前、校舎の窓から、運命に向かった三人を男が見ていた。


「おっ、来たか」


 未来ある若者、三人。その三人を見て男は、ドンキホーテは頬を緩ませた。


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