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強制的魔王  作者: ほのぼのる500
脱出
58/58

58話

バリン。


大きな音が鳴り響いた時には、既に目の前は真っ暗だった。

一瞬何が起こったのかわからず、呆然としてしまう。


「なに?」


自分の声だけが聞こえる事に、ブルリと体が震える。

周りを見る。

真っ暗な闇が広がっている。

ここがどこなのか、視界から入ってくる情報から知ることは無理なようだ。


「ふぅ」


息を止めていたのか、吐き出すと少し体から力が抜けた。

何がどうなったのか、何が起こったのか全く分からない。

ただ、真っ暗の闇の中に放り出された。

それだけが分かった。

光輝はいない、ラセツやイザナもいない。

いや、もしかしたらいるのかも知れないが、見えない。

手を動かしてみる。

動いた感覚はあるが、それを見ることができない。

本当に自分の手が、そこにあるのか不安に駆られる。

少し迷ったが、手を顔に近付ける。


「あった……」


15㎝ほど近付けると、自分の手をうっすらと見ることができた。

それにホッとする。

大丈夫。

私はちゃんとここにいる。

それにしても、この暗闇は何なんだろう?


「まさか、死んだの?」


ゲームのルール以外で、私たちはあの世界から脱出したはず。

でもそれが原因で、死んだ可能性が無いわけではない。

強制参加させられたゲームでは、命の価値はものすごく軽かった。

だから勝手をしたペナルティに強制排除させられた可能性もあり得る。

そっと頬をつねる。


「痛い。生きてるんだよね?」


ちょっと思いっきりつねり過ぎた。

痛む頬を撫でる。


「ふ~」


たぶん生きている。

その事に安堵のため息が出る。

とは言え、ここがどこなのか不明なので安心はできないが。


「真っ暗だな~」


本当に何も見えない。

自分の手すら伸ばしてしまうと見えないのだから、そうとうだ。


「どうしようかな?」


もしかして、ここでずっとこのまま1人で漂うのかな?

そうなったら、きっと気が狂うだろうな。

それが狙い?

最悪なゲームを作ったんだから、それぐらいありそう。

もっと色々考える必要がありそうだけど、どうしてかどうでもよくなってくる。

この暗闇が原因かな?

このままゆっくり、寝てしまってもいいような気分に……。


「いや、待って待って! 今の考えおかしいでしょ!」


そんな簡単に、諦めてやるもんですか!

はぁ、とりあえずこの闇はやばい。

何とかしないと。

気付いたら永眠してそう。


「遥の声か? 遥、いるのか?」


微かに人の声が聞こえた。

そして私を呼んでいる!


「誰?」


「遥、聞こえるか?」


先ほどより近くで声が聞こえた。


「聞こえてるよ。光輝だよね? 何処にいるの?」


光輝の声だ!

良かった!


「本物か?」


「なんで疑うかな? 本物です!」


「いや、何も見えないからさ」


光輝も私と同じ状況か。


「光輝、大丈夫?」


「ちょっとやばいかな。遥は?」


やばい?

怪我でもしたのかな?


「私は大丈夫。怪我でもしたの?」


「いや、なんかこの暗闇の中にいると……」


あっ、そういう事か。


「ついうっかり、寝ちゃいそう?」


「遥もか?」


「うん。永眠しようとしてた」


「ははっ。俺よりやばいぞ、それ」


光輝の声に、心底ほっとする。

本当に、やばかったからね。


「遥。ここから出る方法を、何か思いついたりしないか?」


光輝の言葉に、出るための方法を考える。

この暗闇が狭い空間なら、壁があるはずだからそれを壊せばいいような気がする。

でも、この空間がすごく広かったら?

それに、無暗に何かして攻撃されたら?

何も見えない私たちはかなり不利だ。

でも、ここから出たいなら、何とかこの空間がどんなものなのか調べる必要はあるよね。


「遥?」


「えっと、この空間がどうなっているのか、調べるのが先だと思う。ただ、私たちが何かする事で攻撃をされる可能性もあると思うの。で、そうなった場合は、私たちには逃げる手段はないと思う。見えないからね」


「攻撃か。それがあるのか」


私の言葉に、嫌な声を出す光輝。

攻撃される事を考えなかったんだろうか?


「攻撃されるとは思わなかった?」


「あぁ、既にこの暗闇が攻撃かと思ったから」


なるほど。


「光輝はここから出る方法を何か、考えた?」


「この空間を壊そうかと考えた」


壊す。

確かにここから出るには、それが必要になってくるかもしれないね。


「どうやって?」


何か方法でも思いついたんだろうか?


「……」


あれ?

私の声が聞こえなかったのかな?


「光輝、どうやって壊すつもりだったの?」


「…………勢い?」


……はっ?

勢い?

なんの?

……まさかの無策?


「光輝、えっと……まさか、勢いだけ?」


「まぁ、そうだな」


おい。

いや、まぁ仕方ない。


「勢いだけは、最後に取っておこう」


「そうだな。そうだ、魔法は使えるのかな?」


魔法?

あっ、試してなかった。

やっぱりちょっと混乱しているみたいだな。

光輝がいてくれてよかった。


「まだ試してない。まずは灯の魔法が使えるか試してみるね」


掌に光の球をイメージして「灯」と言葉に魔力を込める。

ふわっと掌が暖かくなり、1つの光の玉が出現した。

周りの様子を窺うが、何も起こらない。


「攻撃は無いみたいだね」


「あぁ、大丈夫そうだ」


周りを見て、少し離れたところにうっすらとシルエットが浮かぶ。

そのシルエットに向かって声を掛ける。


「光輝、右見て」


「右? あっ、いた!」


私を見つけた光輝が、そっと傍に寄ってくる。

その動きを見て、少し足を動かしてみる。

浮かんでいる感覚がするが、足を動かした方に体が移動する。


「えっ? なんで離れるんだ?」


「あっ、ごめん。体が動くか試したかったんだ」


光輝が傍に来た時に、離れるように動いてしまった。

誤解するよね。


「なんだ、そうか。びっくりした」


こんなよく分からない場所なんだから、行動には気を付けないと。


「1つの灯だけじゃ、あまり意味がないな」


光輝の言う通りだな。

数m先は見えないな。


「灯」


光輝の言葉が聞こえると、5つの灯りが空中に浮かぶ。


「すごいね。かなり魔法の技術力があがっている?」


「ラセツが怖いから頑張った」


確かに、怖かったよね。

魔法を練習している時のラセツの目を思い出して、ブルリと震える。


「これで少しは見えるな」


6個の灯で、少しだけ周辺が見やすくなった。


「そうだね。えっ……光輝」


周辺を見ていた視線が、不意に足元を見て全身から血の気が引いた


「どうした?」


「……した……」


喉がカラカラで出しにくい。


「ん? 遥?」


視線が逸らせない。

視界に映ったのは、うごめく黒いシルエット。

まるで這っているように見える。

そして何より怖いのが、無数に光る鈍い光。

シルエットの位置から見て、瞳のようだが……怖い。

気持ち悪い。


「足の……した」


何とか唾を飲み込んで、言葉を出す。

私の声が聞こえたのか、光輝が視線を下に向け固まった。


「なんだ、あれ……」


「分からない。けど、気持ち悪い」


「あぁ、ここにいたら駄目だ。移動しよう」


「うん」


足を動かす。

それに合わせてすっと体が移動する。

地面を蹴っている感覚は無い。

だが、足を動かすと体も移動する。


光輝の背を追いながら、そっと足元を見る。

まだそこにいる。

あっ、違う。


「光輝、こっちに近付いている!」


「えっ? マジか」


ずっ、ずっ、と音が耳に届く。

音がする方は、怖すぎて見られない。


「遥!」


光輝の声に視線を向けると、目の前に手。

それを掴むとギュッと力が籠る。


バキバキッ、バキバキバキッ、バキバキバキ。


「遥様! 光輝様!」


何かが割れる音が響くとイザナの声が聞こえた。

何処で何が起こっているのかわからず、光輝の手をギュッと握る。


「大丈夫だ。あの声はイザナだ」


「うん、そうだったね。どこだろう?」


移動しながら周りを見ていると、頭上から光が差し込んだ。


「遅くなり申し訳ありません。こちらへ」


イザナの声に導かれるように、光輝が動く。

手を握っていたため、ぐっと体が引っ張られる。


「助かった」


光輝の安堵の声に、深く息を吐く。

そうだ。

そっと後ろを振り返る。


「あっ」


頭上から指した光で見えた光景。

それは、鈍い光をたたえた目でこちらを見て手を伸ばしてくる人、人、人。

いったい、どれだけの人がいるのか分からないが、全員が無表情なのが恐ろしい。


「見るな」


光輝がぐっと手を引っ張る。


「あれは、何?」


「分からない。でも、いいモノじゃない事だけは確かだな」


光輝の声も微かに震えていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりこの二人が好きだなぁ… 今のところ一番謎が深いのはシヴァかな?
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