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強制的魔王  作者: ほのぼのる500
配下の誕生
51/58

51話

ラセツとイザナが、死んでいる天使を炎に放り込む姿を無言で見つめる。

いや、死んでいるのに死体が消えないから、どうするのか気になってはいた。

でも、まさか燃やすとは。

いや、火葬があるのだから正しいのか?

火葬にしては、死体の扱いが雑だけど。


「ちょっと、あれだね」


遥の言葉に頷く。

言葉にするのは難しい感情がぐるぐるしている。


「現実なんだよな」


今までの魔物は倒れたら消えていた。

それにガチャとかレベルアップとか、ゲームの中みたいな感覚だった。

それがいきなり、目の前で始まった死体の処理。

天使は仲間がいたようで、その仲間たちも2人によって炎に放り込まれていく。

その度に、炎の勢いがあがり現実を突きつけられる。


「はぁ~、ゲームじゃないんだよね。そう見えても」


分かっていたけど、分かっていなかった。


「そうだな」


慣れていくしかないんだろうな。

遥を見ると、悲し気な目で炎を見つめていた。

それをじっと見ていると、視線が合う。

一瞬、驚いた表情をした遥は苦笑した。


「現実は残酷だね」


「そうだな」


「それにしても、あの2人は平然としてるよね」


「うん。俺は、それが何気に怖く感じる」


ラセツとイザナは、まるで死体をゴミのごとく炎に放り込む。

炎をつけて、天使の死体を持った時に何をするのかと不思議に思っていると、ポイって。

本当にポイって炎に放り込むから、唖然とした。

次の瞬間、炎の勢いが増したのも怖かった。


「……ところでさ」


遥の言葉に視線を向けると、死体の処理をしている2人をじっと見ている。


「なんだ?」


「いや、なんで抱っこされてるのかなって」


ラセツが天使を炎に放り込んだ瞬間、すぐ傍を飛んでいた遥を無意識に抱きしめたんだよな。

怖くて。

……言えない。

言いたくない。


「ずっと飛んでいたら、疲れるだろう」


「いや、疲れないし」


ずっと飛んでいる私に、その言い訳が通るわけないでしょ。

だいたい、天使が炎に放り込まれて叫びそうになったところを、いきなり抱き込まれたんだよ。

ビビりすぎて、一瞬気が遠くなったんだからね!


「……まぁ、こんな日があってもさ」


言い訳が思いつかない。

だって、本当に無意識だったんだ。

俺だって、抱っこした瞬間に我に返って驚いた。

とっさに、放り投げようとしたのは思いとどまったけど。

放り投げなくて、本当に良かった。


「まぁ、楽でいいけど」


良かった。


「人肌が恋しい時ってあるよね」


「いや、違うから」


「寂しいなら、そう言えばいいのに」


「いや、寂しくはないから。それに遥は、人じゃなくて蝙蝠だから」


焦ってる、面白いな。


「素直に認めなって、温もりが恋しかったんでしょ?」


「……違うし」


光輝の不貞腐れた声に、笑いがこみあげる。

たぶん怖くて、とっさにした行動だったんだろうね。

で、抱き込んだ温もりに癒されて、手放せなくなった。

だいたい、大人しく私がここにいるんだから、同じ気持ちだって気付けばいいのに。

あんな光景を見せられて、ショックを受けないわけないんだから……。

それにしても、この場所、落ち着くな~。


「光輝、1つ気になる事があるんだけど」


「何?」


「あの天使たちは、どうしてここに来たんだろうね」


「どういう意味だ? ゲームの参加者だと言っていたから……俺たちの排除か?」


魔王を排除する天使。

現実だとわかっていても、設定はやっぱりゲームだよな。

いや、設定と思うからおかしくなるのか?

……あ~もう、分からなくなってきた。


「光輝。この世界は既に死んだ事になっているから、ゲームの参加者が来るのはおかしくない?」


「えっ? あっ。本当だ」


そうだった。

この世界は、後片付けが来るぐらい終わっていたんだった。

ならゲームの参加者が、この世界に来るのはおかしい。


「……俺たちって今、どういう扱いだろうな?」


「……さぁ? 死んでいるはずなのに、死んでない?」


考えても分からないな。

そもそも、ゲームのルールすら知らない。


「俺らが巻き込まれたゲームって、最終的に何を目指していたんだろうな」


そう言えば、それすらも知らないね。

目の前の事に必死で、考えた事も無かったよ。

魔王がいて天使がいるから、


「天界VS魔界とか? 神様VS魔王とか?」


「神様から命令を受けた天使が襲ってきたって事か?」


「「…………」」


これって、考えても答えが出ないな。

無駄だったな。

とは言え、逃げるにしてもどうやったら逃げ切れるのか、ゲームのルールを知らないと出来ないんじゃないか?


「ラセツ――」


ドガン。


「なんだ?」


大きな音と、知らない声に体がびくりと震える。

とっさに腕の中の遥を守るように抱きしめ直すと、声がした方へ視線を向ける。

そこには、体格のいい2人の男性。

その顔には見覚えがあった。

体の元の持ち主の記憶にあった。

こいつの仲間だ。

つまりこの世界を消しに来た奴らだ。


「生きているのか? ならなぜ仕事を終らせていない。その腕に抱えている物はなんだ?」


俺を見つけたのか、矢継ぎ早に質問をしてくる。


「どうした?」


答えない俺に不審気に表情を歪ませる男性2人。

これってどうしたらいいんだ?

事情を説明する必要はないだろうけど、敵だと知られれば一気に襲い掛かって来るだろうし。


「光輝様、どうしますか」


「うっ……どうしたらいいんだろうな?」


気配も無く、後ろに立つのは止めて欲しい。

敵が目の前にいるのに、無様に叫びそうになった。


「光輝、痛い」


「悪い」


叫ばないように、腕に力が入ってしまったみたいだ。

遥の苦しそうな声に、すぐに腕から力を抜く。


「誰だ? どうなっているんだ?」


男性2人が、すぐに戦えるように武器を手にした。

1人は剣で、もう1人は杖?

杖って事は魔法か?

1歩足が後ろに下がる。


「敵ですね」


後ろからイザナの声が聞こえた瞬間。

目の前の男性たちの胸元から大量の血しぶきがあがった。


「は?」


「えっ、何?」


倒れていく2人の男性を見る。

男性の後ろにイザナの姿がある。

いつの間に……?


「これってイザナが?」


「敵には隙を見せてはいけません」


イザナの力強い言葉に、なんとなく頷いてしまう。

遥もそうなのか、腕の中で頭が動くのが見えた。


「イザナってかなり強いの?」


目の前で人なのかどうかは知らないけど、死んだのに……なんでこんな質問をしているんだろう?

あまりに呆気なかったから?

それとも、衝撃的すぎて?

何だか現実感が無いな。

私、おかしくなってるかも。


「それなりにです。ニュクスやシヴァの方が強いですよ」


「……えっ? ニュクス? シヴァ? マジで?」


あまりの事実に、一瞬誰の事を言っているのか分からなかった。

それにしても、人型の3人の中で一番か弱そうなニュクスがイザナより強い?

産まれた中で一番弱そうなシヴァが?


「本当に?」


信じられないように遥が、イザナに問いかける。

俺も確かめたかったので、じっとイザナを見る。


「本当です。光輝様にも遥様にも嘘はけして言いません」


イザナのまっすぐな目に、確かめただけなんだけど、私がすごい悪い事をした気分になる。


「分かった。ありがとう」


「それにしても、あの2人の方が強いのか。驚きだな」


「うん」


……あれ?

私も光輝も彼らに比べたら無茶苦茶弱くない?

というか、貧弱レベルじゃない?


「なぁ、遥」


「何?」


「俺らって……」


「間違いなく、彼らよりはるかに弱いと思うよ」


遥の言葉に、ため息を吐く。

現実だけどゲームみたいなこの世界では、強さがたぶん重要なんだと思う。

俺たちを魔王にした奴も、強く成れって言ってたし。

つまり、イザナたちには早々に見捨てられそうだな。


「2人で頑張ろうな」


「だね」


イザナたちが私たちを見捨てる時に、サクッと殺されないといいな~。


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