44話
「次が、すぐに来るかな?」
ラルグを見ると何か思案している。
どうしたのかとじっと見ていると、こちらを見た。
「俺の時はたまたま男だったけど、次に来るのが男でも大丈夫か?」
「どういう事?」
男?
男の体に入れって事?
「元の持ち主の記憶には男の方が人数が多いんだ。女もいるが、少ないように感じる」
なるほど、次に来るのが女とは限らないというわけか。
それは……気持ちは女で体は男?
「あ~、仕方ないような。女がいるなら諦められないような」
すごく難しい選択だよね。
次が男でも、その次が女と分かっているなら待てるけど。
女がいつ来るか予測がつかないとなると……。
「こっちから行った方が早くない?」
「それは考えたんだが、俺より強いやつがいるみたいなんだ。だから、向こうへ行って無事に目的のモノを手に入れられるかどうかは分からない」
さっきは簡単にできると思ったが、記憶を探っていくとかなり強いやつがいる。
少なくとも3名。
こいつも1人で行動が許されるぐらいには強いようだが、奴らにはまだ勝てない様子だった。
彼らを押えて、アルフェのための女性体を手に入れ逃げたとしても、間違いなく追いかけてくるだろう。
それを追い払って……無理だな。
「困ったね」
どうしようかな。
もう、性別は諦めた方がいいかもしれない。
そこまで拘りは……結構あるな。
さすがに男の体はつらいかもしれない。
いや、ここは動きやすい体を手に入れる方が何より重要だよね。
ん~。
「少しだけ時間を頂戴」
決まったわけじゃないけど、男性になる覚悟はしておかないとね。
大丈夫、性格はガサツだって言われていたから。
……あれ? 誰にだっけ?
「もちろん構わない。ただ、それほど時間は取れないかもしれない」
「分かってる。ありがとう」
さて、奴らが来るまでやることが無いな。
体を強化すると言っても、何をすればいいんだろう?
筋トレ?
腕立て伏せとか?
こいつの記憶になんかいい鍛え方は無いかな?
ん~、すごい。
こいつ体術が得意じゃないか。
俺もそのまま使えるのか?
ちょっと試してみるか。
どうしたんだろう?
何も言わずに私から離れて行ったラルグを見る。
不思議に思って見ていると、いきなり体を動かしだした。
たぶん、何かの体術かな?
すごく動きが綺麗で切れがある。
「うわ~、すごい」
動きを止めたラルグに、手を叩こうとして羽がバタバタした。
……早く人の体を手に入れよう。
もう男でもいいや。
うん、なんだか性別がすごく些細な事のような気がしてきた。
だって、体の動きが制限されるってすごくストレスが溜まるんだよね。
確かに蝙蝠の体に慣れたと言えば慣れたけど、ラルグの動きを見ていると早く人になりたくなった。
見ないふり、考えないふりしてきたけど、蝙蝠の体って人の体を知っている私からすると色々やりにくい!
次に来た奴を手に入れる!
「ふ~、マジで動けるんだ。こいつ、どうして俺にやられたんだ?」
動きで分かる強さ。
なぜ、元の持ち主が俺に倒されたのか理解できない。
どう考えても、ヘビの体だった俺の方が弱いのに。
ん?
アルフェの奴は何をしているんだ?
右の羽を上に突き上げているが……大丈夫か?
「ラルグ。次の奴を私は手に入れる!」
「おっ、おう。分かった」
何だ? 何だ?
いきなりどうしたんだ?
アルフェの勢いに、足が1歩後ろに下がる。
というか、つまり男の体でもいいという事か?
……まぁ、決断してくれたんならいいんだけど。
なるべく、女性が来て欲しいな。
「あっ、そうと決まれば……何をしようか?」
する事が無いよね。
次の奴が来るまで、ここでぼーっとしているのは嫌だし。
ん~、卵!
「ラルグ、卵の様子を見に行こう」
「そうだな。俺も気になるし」
「何? もしかして記憶に何か引っかかった?」
ラルグの体の持ち主が卵の事を知っていたかもしれない。
知っていたら卵を孵す方法も分かるよね。
「記憶の中に卵に関するモノはあった。ただ、それだともう産まれてもいいはずなんだ」
「そうなの? 卵はどうやったら孵るの?」
産まれてもいいはず?
でも、まだ産まれていないよね?
もしかして途中で死にそうになった事が原因かな?
生き残った5個だから強いイメージなんだけど、違うのかもしれない。
「魔力が卵に満ちると自然に卵が割れて、中からある程度強く育った配下が産まれるらしい」
「そうなんだ」
私とラルグが結構な量の魔力を与えているよね。
それなのに、まだ産まれない。
やっぱり、問題が起きているって事だよね。
「産まれないのかな?」
「どうかな? もう少し魔力を与えて様子を見よう」
俺の提案に、アルフェが嬉しそうな雰囲気を出す。
そう言えば、俺の魔力と新しい魔力に少し違和感を覚えていたんだが、上手く馴染んだみたいだな。
何時の間にか、違和感が消えている。
「アルフェ、新しく貰った魔力はどうだ?」
俺の質問に不思議そうな表情で俺を見るアルフェ。
そして、俺の周りをくるくると飛び始める。
「そう言えば、ピリピリした違和感が無くなってる。私の魔力に混ざった感じかな?」
俺とアルフェの魔力の感じ方は、相変わらず違うな。
ピリピリか。
俺は何となく違和感があっただけなんだが。
もともとアルフェは魔力を操るのが上手かったからな。
感じる精度が、アルフェの方が鋭いのかもしれない。
相変わらず、ちょっと負けてる。
「どうしたの?」
「なんでもない」
アルフェと家の中に入り、卵が置いてある部屋に向かう。
目の前をくるくると回りながら飛ぶアルフェ。
羽が黒い煙に覆われているのが残念だ。
そう言えば、俺の魔力も黒い煙みたいに見えるんだったよな。
歩きながら掌を見る。
どうやって魔力を出すんだ?
念じるとか?
「どうしたの?」
「いや、魔力の出し方を考えてた」
出し方?
ラルグを見ると掌を上にして、その手を真剣な表情で見つめている。
その表情をじっと見る。
新しいラルグの顔は、まぁまぁなイケメンと言えるかもしれないな~。
左の額から頬にかけて、ヘビの黒い鱗に覆われているけど。
そう言えば、左目だけ赤いな。
右は黒。
……ん?
いやいや、待って。
これを最初の時に気付かないわけない。
どうしていきなり気になったんだろう?
……あっ! ラルグの顔が変わってる。
「どうしたんだ?」
いきなり顔の前でホバリングを始めたアルフェ。
どうも俺の顔をじっと見ているようだが、何があったんだ?
「やっぱり、違う」
「違う? 何が?」
「体に違和感はない?」
「あぁ、無いけど」
アルフェの雰囲気が怖い。
もしかして俺の体に何かあったのか?
顔をぺたぺたと手で触れる。
左の部分だけ少し違う肌触り。
というか、つるつるしている。
「そう言えば、鱗も最初は黒くなかったような?」
黒?
「どうしたんだ?」
「落ち着いてね。ラルグがその体に入った時と今では顔のパーツが少し違う」
「…………ん? 顔のパーツが違う?」
もう一度顔をぺたぺたと触るが、触っても分からない。
「あのね、最初の時は鱗は灰色で両目とも黒だったの。それに顔も……普通?」
普通だったのか。
それは、まぁいい……変わったんだよな。
どっちに?
もしかして、見られないほど醜くとか……。
「鱗がね、黒くなっている。漆黒って感じかな? で、左、鱗のある方の目が赤くて……あっ、なんていうの目の中の瞳孔? 何か呼び方が違うかもしれないけど、それが縦線になってる。右は普通に人の目みたいだね」
……いったい、俺の顔はどうなってるんだ?
「顔は前より少しイケメンな感じ、よかったね」
「少しなんだ」
「……そうだね。少しだね」
残念。
って、そこじゃないよな問題は。
「この見た目は目立つのか?」
目立つ?
どうだろう?
見慣れていないから、目につくけど。
魔王をヘビや蝙蝠で誕生させる世界だからね。
「目立つことは無いんじゃないかな? この世界なんでもありみたいだし」
言われてみれば、確かにそうだな。
そうでなければヘビを魔王にはしないよな。
良かった。
隠れなくては駄目なのに、見た目で目立ってしまっては意味がない。
後で、見た目を確認しておこう。
そう言えば、と後ろを見る。
……尻尾もか。
「どうしたの?」
「尻尾の先が鱗に覆われている」
見えた尻尾は、半分から先にかけて黒い鱗に覆われていた。
「ほんとだ」
これ以上変化が無いといいな。




