37話
「これ、どうするんだ?」
卵のままでは配下とは言えないよな。
産まれるまで待つのか?
それとも俺たちが何かする必要があったりするのか?
「どうするとは?」
「誕生はしたけど、産まれてないからさ」
「あぁ、そうか。えっと、どうするんだろう? 取り扱い説明書が欲しいね。なんか無いかな?」
アルフェが部屋の中を飛び回る。
すぐに戻ってきて首を横に振った。
「卵以外になにもない」
「まぁ、そうだろうな」
「はははっ。卵に触ったら、何かわかるかな?」
アルフェの言葉に近くにある卵に尻尾の先を触れさせる。
すると、卵が空中に浮かび上がる。
「浮かんだ」
「……それだけ?」
空中に浮かんだ卵はそのままの状態をキープして動かなくなる。
しばらく待ってみるが、それ以上の変化は無い。
ただ、空中に浮かんでいる。
「意味があるのか、ないのかも分からないね。まぁ、一応変化だし、他の卵も浮かべておこうか」
アルフェが飛び回りながら卵に触れていくので、俺もそれを手伝う。
後で後悔はしたくないからな。
それにしても、体が大きくなったので移動が少し楽だな。
バゴッ。
「ん?」
「今の音、何?」
「悪い。尻尾が壁に当たった音だ」
「なんだ。びっくりさせないでよ~」
そうか、体が大きくなったという事は長くもなったという事か。
後ろを見て意識して尻尾を伸ばす。
かなり長い。
これは動く時に気を付けないと駄目だな。
いつか何かを壊しそうだ。
全ての卵が空中に浮くと、自然と綺麗に並びだし、今では綺麗な間隔で浮かんでいる。
「なんだか不気味な工場みたい」
「確かにな」
部屋中に綺麗に並んだ卵。
これだけ見ると、どことなく不気味だな。
「レベルアップおめでとう! 配下を強化を解放。強化する?」
「「えっ?」」
レベルアップ?
さっきもしたよね?
まぁ、強くなるのは嬉しいからいいけど……それより強化!
「なるほど、強化をしていくと生まれてくるという事か?」
ラルグの言葉になるほどと納得する。
つまりは、ガンガン強化すればいいという事だ。
「なら、とっとと強化しないとね」
「そうだな」
アルフェが卵を見ながら、弾んだ声を出す。
どうも仲間が出来る事が嬉しいようだ。
まぁ、2人だと寂しいもんな。
俺は別に2人でもいいと思うけど……いや、仲間は必要か。
「強化していい?」
「あぁ、いいぞ」
そう言えば、配下の強化で消費されるモノは何なんだろう。
魔石? それともヴァン?
ヴァンはガチャを回すためのモノだよな?
という事は魔石か?
「強化する」
アルフェの声が部屋に響く。
次の瞬間、並んだ卵が淡く光りだす。
その様子をじっと見ていると、なんだか体がどんと重くなった。
「なんだ?」
異様な体の重さに加えて、視界もぼやけてきた。
これってもしかしてやばいのではと思った瞬間、すっと意識が飛んだ。
どこかで「ぎゃっ」という声と何かが落ちる音がしたような気がした。
…………
ぱっと目を開けると、床が見えた。
なんで俺、こんな場所で寝てるんだ?
ん?
何かあったのか?
…………あっ、そうだ!
配下を強化するを選んで……倒れたのか?
重たい体を持ち上げる。
うわ~、すごい重い。
というか、動かしづらい。
「はぁ~、倒れた原因は配下の強化だよな。強化するには俺たちの何かが必要だったというわけか。だったら最初にそう言ってくれよ。マジで!」
アルフェはどこだろう?
意思を失う前に何か叫び声が聞こえたような気がするんだが。
重くふらつく体を持ち上げて、周りを見る。
「なんだか見えにくいな」
部屋全体がなんだか暗い。
配下の卵があった部屋は、かなり明るかったと思うけど、何かあったのか?
それとも俺の目に何か問題があるのか?
「ん゛~」
声?
「アルフェ? アルフェ、無事か?」
くっ、声がかすれてやがる。
聞こえないか?
「ん? あれ?」
「アルフェ?」
この声、ラルグ?
それにしては聞きづらいけど……。
ところで私、なんでこんなところに寝っ転がってるの?
もしかして、寝てたのかな?
この姿になってから寝られないんだけど……。
それにしては動けない。
羽に力を入れてみるが、駄目だ。
「アルフェ? 俺の声、聞こえるか?」
あれ?
ラルグの声が何だか泣きそう?
「ラルグ、どうしたの? 大丈夫? というか、何があったんだっけ?」
良かった、聞こえてた。
安心したら、なんだか疲れがどっと押し寄せてきたな。
少し体を横にして体力が戻るのを待つか。
目を閉じてゆっくり呼吸する。
「ラルグ?」
「あぁ、悪い。配下の強化を選んだら、2人とも倒れたんだ」
倒れた?
……寝られるようになったわけでは無く、意識が飛んでいたのか。
何だかすごく残念。
「アルフェ?」
「ごめん、大丈夫。ラルグは? 大丈夫?」
「俺も体が重いぐらいだな、視界が悪いのと声が出しづらい」
えっ?
私よりひどくない?
私は、あっ……視界が悪いや。
もともと見えていなかったから、見えない事に違和感を覚えなかったわ。
ちょっと前に見える様になっていたんだった。
えっと、後は声?
声は、問題ないかな。
「体の重さと視界が悪いけど、声は大丈夫みたい」
「そうか。よかった」
そう言えば、配下の卵はどうなったんだろう。
足に力を入れて立ち上がる……羽が重い!
体に合わない羽になったせいか、余計に身動きが出来ないよ!
はぁ、もう少し体力が戻ってからにしよう。
「ラルグ、倒れた原因は魔力切れかな?」
「まぁ、そうだろうな」
やっぱりそうか。
まぁ、それしか考えらないよね。
魔力が0になったら死ぬという設定のゲームとかあったよね。
この世界はどうなんだろう?
考えたら、怖いな。
生きててよかった。
あっ、視界がクリアーになってきた。
魔力が減ると視界も悪くなるって事を覚えておこう。
さて、卵は?
「うわっ、卵がすごい事になってる!」
アルフェの声に目を開ける。
あれ?
部屋が明るくなってる?
周りを見ると、卵が見えた。
「えっ!」
「強化が成功したって事かな? あれ? でも小さくなっている卵もある」
アルフェの声の合間に、ずずっと変な音が耳に届く。
視線を音の方へ向けると、羽を引きずって移動するアルフェの姿が見えた。
慌てて体を起こす。
何をやってるんだ!
「アルフェ、駄目だ! そんな事をしたら羽を痛める」
「えっ?」
重たい体を何とか動かしてアルフェの前に行く。
驚いたのか目を見開くアルフェ。
まったく何を考えて、羽を疎かに扱っているんだ。
「羽を痛めたら飛べなくなるだろう!」
「……ごめん。ここの床綺麗だったから大丈夫かなって思って」
「駄目だ。羽は繊細なんだから」
ラルグが尻尾を動かし羽を持ち上げて様子を見ている。
もしかして傷でもつけちゃったかな?
「よかった。大丈夫そうだ」
「ありがとう」
ちょっと、今のラルグ怖かったな。
「卵を一緒に確認しよう?」
「分かった」
良かった、落ち着いてくれた。
本気でちょっと怖かった。
小さく息を吐きだして、もう一度卵を見る。
「大きいのは分かるが、なんで小さくなってるんだ? 失敗か?」
ラルグが前にある卵と横にある卵を見比べている。
確かに、不思議。
強化をしたためか、卵が大きく変化を遂げていた。
1つは大きさ。
大きくなったり、小さくなったりしている。
次に色。
薄っすらと白い卵に色がついている。
まぁ、魔王の配下だからなのか灰色や黒が多いようだけど、中には赤やオレンジもある。
ちょっとぐらい触っても大丈夫かな?
そっと羽を卵に触れさせる。
「暖かい」
アルフェを見ると、大きくなった卵に抱き着いている。
「あっ、ラルグ! すごい、音が聞こえるよ」
アルフェの隣に行って、卵に耳をくっつける。
トクン、トクン。
まだまだ小さいが、心音のようなモノが聞こえる。
「生きてるんだな」
「生きてるね」




