32話
「やった~! 一気に5匹! 見た? ねぇ見た?」
アルフェのダークアローで5匹のホーンラビットが一気に音を立てて魔石に変わった。
「マジか」
悔しい。
俺はダークボールでようやく4匹を一気に仕留める事が出来るようになったのに。
戦闘ではアルフェの方が強いよな。
俺、男なのに!
「あ~先を越された」
「ふっふっふっ。私の勝ちだね~。いや~、気分いいわ~」
視線をラルグから、こちらに向かってくるホーンラビットに向ける。
魔物はまだまだいる。
「さて、どんどん狩るわよ」
「アルフェって最初の頃とかなり変わったよな」
ラルグの言葉にぐっと言葉が詰まる。
それは自分でも気付いている。
たぶん魔王になる前の私は、虫を見たら叫ぶような女性だったはずだ。
……きっと、そのはずだ。
それが今では「キャッハー」と言いながらウサギに似た魔物を狩っている。
あれ?
私、何処へ向かっているんだろうと思わなくもないが、魔王だからね。
生き残るためには、仕方ない。
「強い女性は美しいって言うでしょ」
「いや、今の姿を思い出せ。女性うんぬんより蝙蝠だから」
あらら~、そうだった。
「あっ、また黒もじゃがいるぞ」
ラルグの視線の先を追うと、ホーンラビットの赤い点に交じってそれより少し大きい赤い点が見えた。
時々現れる4足歩行の黒いもじゃもじゃの魔物らしい。
私は見えないからラルグに教えてもらった。
毛が長すぎて顔も見えないらしく、正体は今も不明のまま。
ただ赤い点でも分かるが、ホーンラビットの2倍ぐらいある。
近付かれると怖いので、距離を保って狩っている。
足がそれほど速くない魔物でよかった。
「ラルグ行くよ」
「了解」
アルフェの言葉に合わせてダークボールを撃つ準備をする。
「3・2・1・Go」
アルフェのダークアローと同時にダークボールを撃つ。
あの黒もじゃの魔物はアルフェの超音波攻撃が効かない。
正体を確かめずに倒した時は超音波攻撃で全部を瞬殺出来たので、初めて出現したあの時と種類が違うようだ。
そしてこの黒もじゃの魔物は俺たちのダークアローやダークボールの一撃では倒せないぐらい強い。
俺1人だと最低4回は攻撃が必要となるし、アルフェでも3回は必要だと言っていた。
だが、なぜかアルフェと俺が同時に攻撃すると1回ずつで倒すことが出来た。
たまたま同時に攻撃して倒せた時は2人でかなり驚いたものだ。
どうしてそうなるのかは不明。
だが1回の攻撃で倒す方が楽なので黒もじゃの魔物は2人で共同作業だ。
まぁ、いつか1人でも楽に倒したいが。
「残りの黒もじゃは2匹! ラルグ、行くよ~」
「おう」
共同で残りの2匹を倒す。
ピコンピコンパコン。
「ん? 今何か聞きなれない音がしなかった?」
「したな、後で確かめよう。今は残りを仕留めるぞ」
「了解。一気に6匹狩れるようになる!」
アルフェはいったいどこを目指しているんだ?
闇魔法の攻撃が出来るようになってから、やたらに攻撃的になったような気がするんだが。
まぁ、魔物を狩っても血しぶきが上がるわけではないから、銃撃戦のゲーム感覚なのかもな。
実際、俺もゲーム感覚で楽しんでる。
まぁ、目の前に死体がゴロゴロ転がったら、さすがにゲーム感覚では楽しめないだろうけど。
「ダークボール! ダークボール!」
ポンポンポンポンポン。
「ダークアロー! ダークアロー!」
ポンポンポンポンポンポンポンポンピコン。
空中から残っているホーンラビットを探す。
赤い点が見当たらないので、全て狩り終わったようだ。
さて、これから楽しい魔石集めだ~!
はぁ、楽しいゲームの後の苦行だな。今日は何となくホーンラビットの数が多かった気がするし、魔石を拾うのも大変だろうな。
「アルフェ~、魔力の方は大丈夫か?」
この間、アルフェは魔力切れを起こした。
魔物を狩り終わった瞬間、空からふらふら落ちてくるから焦って駆け寄ると、アルフェから感じる魔力がかなり弱くなっていることに気付いた。
原因は俺。
魔石を早く集めて次へ進みたいと少し無理をした。
でも、もっと無理をしたのはアルフェだった。
「焦り過ぎたね」と笑ってくれたけど、落ちてくるアルフェを見て目の前が真っ暗になった。
「大丈夫だよ。気にしすぎ」
アルフェの奴は大丈夫と言いながら無理をするからな。
俺が気を付けておかないと。
この間からラルグは心配性だな。
もう大丈夫なのに。
でも、あそこまで心配されると無理は出来ないよね。
もう少し自分の事をしっかりと管理しないとな。
玄関の前に転がる魔石の山。
何度も往復しているが、なかなか全部を集め終わらない。
「本当に今日は多いな」
「うん。いつもより魔物の数が多いのは気付いていたけど、多すぎない? さすがにしんどいよ~」
「あと少しだ頑張れ!」
「ラルグもね~」
お互いに応援を送りあいながら、なんとか全ての魔石を玄関前に集め終える。
いつもより1.5倍ぐらいある魔石。
「疲れた。さすがに多すぎだ」
「そうだな。玄関を開けるぞ」
「お願い。羽の付け根がびりびりしてる」
「はっ? 大丈夫なのか?」
まさか体に異常でも出たのか?
「ん~、こんなしびれる感じなのは初めてだから分からない。でもきっと大丈夫だよ」
アルフェの言葉に不安を感じる。
羽の付け根?
アルフェは蝙蝠だ。
羽に何かあったら大変なんだが。
「玄関、開けないの?」
「開けるが。……本当に大丈夫なんだな」
ラルグの心配そうな声に、苦笑が浮かぶ。
本当に心配性なんだから。
「大丈夫。魔石をお願い」
「あぁ。扉よ! 開け!」
スーッと静かに開く扉。
いつもの通り、玄関から見える扉が光っているのでラルグが開ける。
いまだに私では開けられない。
ラルグがいてくれて本当に良かった。
扉が開くと、魔石がいつも通り空間に飛んで行く。
部屋の真中には透明なガラス。
そのガラスに吸い込まれていく魔石たち。
本当に何度見ても、神秘的な光景だわ。
「終わった~。次も魔物でいい?」
まだ少しびりびりする羽をぐっと横に広げる。
やはり少し違和感があるな。
何なんだろう?
「休もう。別に急いでいるわけでないしな」
魔石を吸い込んだガラスが、くるくる回るのを見つめる。
たぶん今回で、数はそろうはずだ。
アルフェを見ると、羽を広げて首を捻っている。
やはり何かあるのだろうか?
「魔石の数は2102個です。魔石を使って何をする? 【魔物を出現させる10個】【大地に息吹を2000個】」
集まったみたいね。
それにしても大地に息吹をって何だろう。
ラルグを見ると、どうもこちらを向いているような気がする。
「ラルグ?」
「羽は大丈夫か?」
「大丈夫。どんどん違和感が無くなってくから」
「そうか。痛みが出たら直ぐに言えよ」
「分かった。ほら大地を選んで次に進もう」
「……はぁ、分かった。無理はするなよ」
「うん。分かってる」
ラルグが尻尾を持ち上げて【大地に息吹を2000個】を選ぶ。
「【大地に息吹を2000個】に決定! 実行します。魔石の残りは102個」
何が起こるんだろう。
「おめでとう、大地に命を誕生させる準備が整いました」
「「…………」」
命を誕生させる準備?
確か定着させる準備は終わってたよね。
いや、どっちも意味がよく分からないんだけど?
「あ~、いずれ何か分かるだろう」
「そうだよね。うん、たぶん」
まぁ、あまり期待してなかったからいいけど。
それにしても大地ってもしかして星に出来た大陸の事かな?
あそこに何かの命を誕生させることが出来るようになったという事?
……まだ情報が少なすぎるな。
まぁ、いずれ分かるか。
「アルフェ、休憩するぞ」
部屋の扉を開けて待っているラルグの下へ飛ぶ。
ん~、やっぱりちょっと羽の付け根に違和感があるな。
疲れているのかな?
寝られないけど、王座の間に行ったらゆっくりしよう。
「大地」と「台地」を間違っていました。
正しいのは「大地」の方です。
申し訳ありません。




