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強制的魔王  作者: ほのぼのる500
天使エルミー
30/58

30話

「首尾はどう?」


「はい。この周辺の魔物は全て討伐しました」


「そう、終わったのね。ご苦労様」


目の前に広がる鬱蒼(うっそう)とした森を見つめる。

少し前まで私の配下がそこにいる魔物たちを一匹残らず蹂躙(じゅうりん)していた。

魔物の断末魔の声を聞いていると、ここまで血の匂いが漂ってきそうだった。

実際には、匂ってくることはけして無いが。

世界の大陸で産まれた魔物は、死んだら砂になる。

オウマイトの魔物のように、魔石ぐらい生み出してくれれば役に立つのに。

まぁ、ポイントは加算されるので少しは役に立っているのだが。


「奴は見つかった?」


「申し訳ありません。悪魔を発見したという報告は来ていません」


「はぁ、何処に行ったのかしら? 奴を殺さないとメイカクが手に入らないのに」


足元の土を蹴る。

それでもこの苛立ちが収まることは無い。

雑魚をどんなに殺しても意味がない。

メイカクが必要なのに!


「他の世界に逃げたのかしら?」


でも、それだとレベルはもっと高い事になる。

私のレベルは14。

このレベルでは他の星での長期滞在は解放されていない。

もしそれが出来るとしたら、私より上のレベルになる。

マジックカードの力?


「あのカードは本当に厄介なのよね。思いもよらない攻撃を受ける事になる」


でも、あのカードの欠点は時間の縛りがある事よ。

だったら長くは……まさか。


「オウマイトへ行く転移魔法陣の場所は押さえてあるのよね?」


「はい。ララミラとペアミラから連絡が来ています」


だったら問題は無い?

でも、私の持っているマジックカードに転移魔法陣偽造という物があったわ。

偽物を作っていたとしたら?


「まだ悪魔の発見はされていないのね?」


「はい」


嫌な予感がする。


「転移魔法陣のある場所まで案内して」


「分かりました。こちらです」


ずっと後ろに控えていた、配下ウーリが先導するように空に浮かび上がる。

そのあとを追うように空を飛ぶ。

背中に生える真っ白の羽が、この世界の太陽にきらきらと輝いている。

その美しさはちょっとした自慢だ。

ただし、今は時間制限があるという忌々しい状態だが。

必ずこの姿を手に入れてみせる。

ふと、本来の自分を思い出す。

鏡に映ったあの(ただ)れた姿を。

瞬間心にかっと痛みが走る。

あの魔王のせいで!


「こちらです」


落ち着け!

今はその感情に囚われるべきではない。

まずはやるべきことをして、メイカクを手に入れないと。

あれがあれば、奴に付けられた傷も癒せるはずだ。


「ありがとう」


レンガで出来た想像していたよりしっかりした建物に案内される。

扉には配下の1人ペアミラがいる。


「ご苦労様」


「はっ」


跪くペアミラの傍を通り、建物内に入る。

建物内にはララミラが待っており、すぐに転移魔法陣まで案内してくれた。

この対応の良さは少し気持ちがいい。


「こちらでございます。ご主人様」


部屋に入ると、確かに転移魔法陣がある。

何処にも違和感を覚えない。

本物の転移魔法陣に配下が触ると、配下は大きな怪我を負う。

主である私では問題が無いのだが。

だがこの縛りが何気に厄介だ。

私が確かめるために、いちいち移動しなければならないのだから。

配下のレベルが上がれば、配下でも確かめられるようになるのかしら?


「少し離れて、反動が来るかもしれないから」


本物なら転移魔法陣からは、光と力を感じる事が出来る。

偽物なら、光って終わりとなる。

すっと手を伸ばして転移魔法陣に指先で触れる。

次の瞬間、転移魔法陣からふわっと光が溢れる。

だが、その光はその一瞬で消えてしまう。

つまり、この転移魔法陣は偽物。


「これは偽物だわ」


「申し訳ありません」


すぐララミラが跪き頭を下げる。


「偵察隊はずっと見張っていたのではないの?」


「はい。そう報告を聞いています」


「なのに、この失敗? 偵察隊をすぐに呼んで!」


体の中からふつふつと怒りがわいてくる。

この悪魔の管理する世界を見つけてほぼ一月。

悪魔の姿を確認するまでに半月。

レベルがよく分からず、何とか悪魔のレベルが12、もしくは13だと当たりを付け、攻撃を仕掛けたのに。

このままでは失敗してしまう。

どうしよう、どうしてもメイカクが必要なのよ。

あの忌まわしい傷を治すには!


「ララミラ、ペアミラと共に、本物の転移魔法陣を探して」


「はっ」


ララミラが部屋から出る気配を追う。

しばらく気配を追ったが、ララミラとペアミラの気配が建物内から消えた。

おそらく外に探しに行ったのだろう。


「偵察隊が来ました」


「「申し訳ありません」」


目の前に来たターリャとマーチェが跪く。


「この転移魔法陣は偽物だ。なぜ気付かなかった?」


「悪魔の行動範囲を調べた結果、大陸に来る時は必ずこの建物を使用していました。そのため、転移魔法陣があると考えました。申し訳ありません」


必ずこの建物を使用していた?

これまでの2人の仕事ぶりを思い出すけど、特に問題は無い。

ならば、この建物に何か隠されているのかもしれないわね。

あるとすれば隠し部屋?


「ターリャ、マーチェ」


「「はっ」」


「この建物の中を詳しく調べて、隠し部屋があるかもしれない」


「「はっ」」


2人は部屋から出るとそれぞれ別の場所を確認しだしたようだ。

あとできる事は待つだけだ。


「そう言えば、この姿になってからどれくらい時間がたったかしら?」


今この姿をキープできるのはほぼ3日間。

今日は私の世界からここに来て、その前からこの姿だから。


「やだっ! 危ないじゃない!」


もうそろそろ、3日目になる。

あ~でも、今この地を離れる事は出来ない。

攻撃を仕掛けて失敗すると、この世界には再度来ることは出来なくなる。

どうしよう?


「失礼いたします」


ターリャが目の前で跪く。


「何?」


「隠し部屋に続く扉が見つかりました」


扉?


「確認は?」


「色々試しましたが、扉を開ける事が出来ない状態です」


「案内して」


「はっ」


ターリャの後を付いて行くと、地下に降りる階段が見えた。

そこをターリャは降りていく。

少し緊張するが、後に続くと広い空間に出た。


「あちらです」


ターリャが指す方向を見ると、広い空間の真中に扉だけがあった。

少し異常な風景に唖然としたが、すぐに扉の周りを見て回る。

本当に扉だけが浮かび上がっている。


「確かに、何か力を感じるわね」


その浮かんだ扉からは何か異様な力を感じる。

そっと扉の取っ手を持つとゆっくりと回す。

途中までは回るが、ガチンと音がして止まる。


「鍵が必要なのかしら」


部屋をもう一度見渡すが、鍵になるようなものは一切ない。

どうしようと、思考を巡らせる。

何かこの扉を開ける方法は無いかしら?

壊してしまう?

でも、私の持っている力を使っても大丈夫なんだろうか?

何か仕掛けが施されているかも。


「ご主人様!」


ウーリの叫び声に、扉に意識を向けると扉がさらさらと砂になっていくのが見えた。

それだけではなく、周りの建物まで壊れていく。


「すぐに建物の外へ!」


やられた!

おそらく、どこかであの部屋の中を監視していたのだろう。

そして私たちが来たから、管理者権限を放棄した。

まったく忌々しい。


「はぁ、全員無事?」


「はい。確認しましたが、問題はありません」


もうこの世界は駄目ね。

もっと悪魔を観察するんだった。


「ララミラたちを呼び戻して。すぐに私の世界に帰るから」


「了解いたしました」


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