19話
3人の配下の1人、カルチェが扉を開く。
そこを当たり前のように通り外に出ると、一瞬視界が真っ白に染まる。
目が慣れてくると見えるのは、広がる青い空。
門から出てしばらく歩くと、見えてくるのは西大陸最大の市場。
石畳にレンガの建物。
大通りの左右には店が並び、人々の笑顔が溢れている。
「フィン様、おはようございます。今日は良い肉が手に入ったんですよ」
綿の服を着た恰幅の良い男性が、笑顔で自慢の肉を少し持ちあげる。
「おはよう。あとで串焼きでも貰おうかな」
赤茶色の少し伸びた髪。
背は190㎝ほどのガッシリした体型の男性が、肉を見て頷くと男性に答える。
「フィン様に食べてもらえるなら、丹精込めて焼かせていただきます!」
肉屋の店主の返事に満足そうに頷くと、フィンは道の先にある建物に向かう。
建物はこの国一番大きい冒険者ギルド。
そこに討伐してきた魔物を売るために来たのだ。
「フィン様、おはようございます」
「おはよう」
フィンが歩けば歩くだけ声がかかる。
返事を返しながら少し下を向き、冷笑する。
「ご主人様。討伐した魔物は全て売るのですか?」
「あぁ、全てだ」
俺の言葉に後ろから少し苛立ったような雰囲気を感じる。
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
配下の1人カルチェから声が返る。
こいつはどうも気に入らない。
俺が作ったのに、態度が悪い。
こいつを消し、別のを作るか?
だが、そうなるとキュマが必要になる。
俺が強くなるためのキュマをこいつらに?
それはあり得ない。
あれは俺が強くなるためだけにある。
後でしっかり躾けなおすか。
ちらりと後ろにいるカルチェを見る。
俺の視線を受けて微かに体が強張るのが分かった。
大人しくいい子にしてれば良いものを。
「行くぞ」
「「「はっ」」」
レンガ造りの2階建ての建物の前に来る。
すぐさま後ろにいた配下のヒリルアが前に来て扉を開け、俺を通す。
「カルチェ、魔物を裏に持っていけ」
「はっ」
カルチェが裏に行くのをちらりと確認する。
今のところ問題は先ほどの事だけか。
「まだ、様子見だな」
「ご主人様? 何かありましたか?」
「いや、問題ない」
建物の中には、この町で冒険者をしている者たちの姿がある。
その者たちが俺を目にすると、羨望の眼差しを向ける。
地道に続けてきたかいがあったな。
この村での俺の地位は盤石だ。
西大陸はこれぐらいにして、東の大陸の方に力を入れるか。
面倒くさいが仕方ない。
「フィン様。おはようございます」
小綺麗な格好をした20代の女性がカウンター越しに声を掛けてくる。
それに笑って挨拶すると、かすかに頬が染まるのが分かる。
「依頼があった魔物を討伐したので売りにきた。魔物はカルチェが裏にもっていったので確認して欲しい」
「あの魔物をもう討伐していただけたのですか? さすがフィン様です。他の冒険者だと10日以上が必要ですのに」
「おいおい、フィン様と俺たちを一緒にするなよな。フィン様は特別な方だ。俺たち一般人とは違うのさ。なぁ?」
「そうだ。フィン様は特別なんだよ」
少し大きな声だったからだろう、建物内から賛同の声が上がる。
「ありがとう。皆が俺を認めてくれてうれしいよ」
言葉1つで盛り上がるのを見て、笑みが浮かぶ。
代金を受け取り、建物を後にする。
これでこの国でもやるべき事は終わる。
来た道を戻りながら、注意深く人々を観察する。
少しの異変を見落とせば、後で大きな被害を被る事になる。
後ろにいる配下に任せる事は出来るが、いまいち信用できない。
もっと、出来る奴を作ればよかった。
これだけは悔やまれる。
「店主、10本くれ」
約束は大切だ。
それが評価にかかわる。
「フィン様。本当にいつもありがたい。サービスしておきますね」
「悪いな。ありがとう」
配下のジルールが店主から商品を受け取るのを見て、屋敷に向かう。
市場周辺で一番大きな屋敷は存在感がある。
屋敷に近づくと、扉の前で待ち構えていたメイドが静かに扉を開けた。
建物の中は、窓から入る光で明るい。
その窓には透明なガラスが使われており、この屋敷がの持ち主が裕福である事が窺えた。
無言で歩き続け、この屋敷で一番広い部屋にたどり着く。
その部屋は薄暗く、中央にごつごつした透明の石を乗せた丸い机だけがあった。
「戻るぞ」
「「「はっ」」」
フィンが机の上に乗っている石に手を乗せる。
すぐに床に何か模様が現れ、部屋を光が襲う。
視界がぐしゃりと歪むので目を閉じる。
眩しかった光が収まると目を開ける。
視界に入ってきたのは、白い空間。
そして扉。
「「「おかえりなさいませ」」」
扉を開けると、メイドたちが出迎えた。
小さく頷くと、白い空間から続く通路を突き進む。
通路には、盾や剣、槍など武器になる物が飾られている。
どれも、俺が自分の力で手に入れてきた戦利品。
その中を歩き、絢爛豪華な扉の前に立つ。
すぐさま扉の左右にいる護衛騎士が扉を開ける。
中に入ると、目に入るのは数段高くなった王座。
無言でその王座に座ると、配下の3人とメイドの3人が跪いた。
それに満足げな笑みが浮かぶ。
「ご苦労。各自仕事に戻れ」
「「「「「「はっ」」」」」」
俺の言葉にすぐさま持ち場へ戻る配下とメイドたち。
俺がそうなるように作り、育てた。
少し気に入らない者もいるが、それはおいおい躾ければいい。
今は。
「ステータスオープン」
ウィン
勇者 :フィン・デ・マコリLv8 (トカゲ)
魔法 :水魔法(3.9)[ウォーター(5.4)、ウォーター・アロー(2.5)]
スキル:身体強化(4)、強打(3.3)、精神強化(4.1)、高速詠唱(2/10)、弓術(1.6)、回避(1.7)
称号 :魔王殺し(6)
キュマ:4672/5000
魔石 :650
「ワールドステータスオープン」
ウィン
世界 :アルトリカ(2.8)
星 :マーシャー(3.9)
国 :中黄の国(2.5)
大陸 :西大陸(2.1)、東大陸(0.2)
星のレベルが後0.1上がれば人を増やすことが出来るな。
世界レベルもあと少しか。
国はレベルが低すぎるな。
東大陸は手を付けていないからだろうな。
それにしても魔法のレベルがなかなか上がらない。
どうすれば上がる?
やはりまだまだ魔王を殺し足りないという事だろうか?
しかし、魔王が治める世界が見つからない。
仕方ない、これは見つかるまで待つしかないな。
「失礼します」
「どうした?」
「魔王がいる世界が見つかりましたが、どうも様子がおかしいと偵察隊から連絡がきています」
様子がおかしい?
今までと違うという事か?
「魔王の姿は見たのか?」
「5日潜伏して様子を見ているようですが、姿を見せないと連絡がきています」
5日も?
潜伏出来る場所は国だ。
国がある以上、Lv5以上のはず。
このレベルになっていれば、国にいた方が得が多い。
それなのに姿を見せない。
「あと5日潜伏して魔王が姿を見せるか確かめるよう言え」
「分かりました」
魔王が姿を見せないと、狩ることが出来ない。
奴らを殺さないとレベルが上がらないのに。
クソが。
「キュマが溜まりました。魔法の欠片を手に入れよう」
また、これか。
いや、使える魔法が多くなるのは良いが今はレベルを上げたかった。
とりあえず、魔法の欠片を選ぶか。
「おめでとう! 魔法の欠片を8個手に入れました。魔法の欠片は全部で69個です」
69個の欠片か。
あと31個。
100個になれば新しい魔法を手にできるな。
「魔石の数は250個です。魔石を使って何をする? 【魔物を出現させる55個】【世界のレベルを上げる5000個】」
代わり映えしないな。
これは魔物でいいな。
魔物を狩れば、世界レベルが上がるのは既に実証済み。
だったらわざわざ魔石を使って強化する必要はない。
俺が強くなれば自然と周りも強くなるのだから。




