18話
「終わった~」
羽を広げて床に転がり目を閉じる。
気分は人間の時の大の字。
蝙蝠だけど。
「あ~、大満足」
ラルグの声に、ため息が出る。
まさかこんなに凝り性だとは思わなかった。
私は適当でいいと思ったのだが、太陽と月の位置にこだわりを見せたラルグ。
しかも星からの距離が重要だとか言い出して、本当に大変だった。
色々説明はしていたが、理解不能。
目を開けて視線を天井に向ける。
「地球から見た宇宙とそんなに変わらないね」
目に映ったのは、私の暗黒の国があるらしい星から見た宇宙の映像。
太陽の移動に四苦八苦していると、たまたま映像を切り替える事に成功。
色々試してみて、今ではそれぞれの星から空や宇宙を見られるようになった。
まぁ、この星から宇宙を見た映像のせいで、ラルグがもっとやる気になってしまったのだが。
「魔石の数は20個です。魔石を使って何をする? 【魔物を出現させる5個】【星に息吹を1000個】」
「「……」」
1000個?
いやいや、待て。
いったい何回魔物を出現させればいいんだ?
1回110個ぐらいで8回か?
合ってるのか?
……間違っている気がする。
とりあえず8回として、ずっとラビットのように弱い魔物なのか?
そんなわけないよな。
そんな優しいゲームじゃない。
どんな魔物が出現するのか、それによってはマジで死ぬかも。
1000個?
いきなり?
もっとなんかこう……はぁ。
このゲームに期待しても無駄だったね。
1000個という事は、8回でいいのかな?
9回? あれ? 10回?
まぁ、とりあえずやるしかないんだろうけど、死にたくないからね。
それにしても休憩ぐらいは欲しい。
……ぐだぐだ、考えても仕方ないか。
「よしっ、強くなるためと思ってやるか!」
「アルフェは強いな」
「ここで死んだら、すべてが無駄になるからね。意地でも生き残ってやるわよ」
「はははっ、そうだな」
確かにここで死ぬわけにはいかないか。
それに考え方を変えたら、アルフェの言う通り強くなるチャンスだ。
「弱ければ殺される」と言われている以上、強さを求めるしかないしな。
「押すぞ」
ラルグの尻尾が【魔物を出現させる5個】に触れるのを見つめる。
私は別に強くはない。
ただ、死にたくないだけ。
「いつでもどうぞ~」
軽く言うと苦笑が聞こえた。
失礼だな。
なるべく雰囲気が重くならない様に気を付けているのに。
まぁ、自分のためだけど。
「【魔物を出現させる5個】に決定! 魔石の残りは15個。魔物は次から選んでください【A】【B】【C】」
「またAでいいか?」
「いいよ」
「ラビット100匹に決定!」
またラビット?
もしかしてAはずっとラビット?
それだったら、ちょっと気持ちが楽だけど。
「ラビットだったね。良かった」
ラビットか。
今回は大丈夫そうだな。
ラビットが出現してる間に、攻撃魔法を取得したいな。
「アルフェ」
「どうしたの?」
「次のラビット、俺だけで戦っていいか?」
「えっ? どうして?」
「レベルアップのためと攻撃方法を増やしたい」
ラルグの攻撃方法は強打だけ。
確かにラルグの気持ちは分かる。
ん~でも、私も強くなりたい。
と言うか、ならないと駄目だと思う。
それに私だって超音波攻撃だけだし……。
「だったらこの次、ラビットだったら私だけで戦ってもいい?」
「あぁ、順番に戦って強くなろう」
アルフェがいると思うと頼ってしまう。
1人だと思えば、火事場の馬鹿力で何かが出来るかもしれない。
「なら決定! 頑張ってよね。怪我なんてしないように!」
「了解!」
何としてでも攻撃方法を増やさないとな。
アルフェから聞いた、奴らの言葉がずっと気になっている。
「あの御方を楽しませる駒」で「お遊び」そして「飽きた」。
つまりこのお遊びは、あの御方が飽きるほど長く続いているという事になる。
その間に俺たちのような駒とされた者たちがどれだけいるのか。
正直予想が出来ない。
そして、奴らは駒同士を戦わせているのではないかと考えている。
「本当に考えたくないがな」
だが、それも視野に入れておく必要がある。
なぜなら長く続いている以上、俺たちよりはるかに強い駒たちがいると予測できる。
今から魔王として力を付けて立ち向かえるとは思わないが、それでも逃げ場がない以上やるしかない。
弱ければ殺されるのだから。
そして考える通り、俺たちと同じような駒が戦いに来るなら勝たなければならない。
恐らく負けは許されない。
「負け=死」だろうから。
正直、奴らの思い通りに動いている事に苛立ちを感じる。
だが、生き残るためには今は仕方ない。
そう、今だけだ。
「ふ~、強くなる。生き残るために」
ラルグの言葉に気持ちが落ち込む。
ラルグもきっと気付いている。
いずれ、私たちが戦う事になるのは同じ被害者なんだと。
逃げ場もなく強制的に参加させられた被害者。
分かっている。
戦わなければならないことぐらい。
負ければきっと待ち受けているのは「死」。
死にたくない。
だから強くなろうとしている。
でも、実際に同じ被害者を前にして戦えるのか不安になる。
だって、彼らも被害者なのに。
奴らの思い通りになっているのが忌々しい。
「アルフェ」
ラルグの言葉に視線を向ける。
そこにあるのは赤い細長い色。
蛇でもいいから顔が見たいな。
「どうしたの?」
「生き延びて、奴らに仕返ししようぜ」
ラルグの言葉にふっと笑みがこぼれる。
恐らく蝙蝠だから表面上は何も変わっていないだろうけど。
「そうだね」
きっとこれは出来もしない約束だ。
奴らは俺たちを生み出すぐらい強い。
そして2度と会わないと言っていた以上、会えないだろう。
でも、いつかきっとぶっ飛ばしてやる。
夢はあった方がいいからな。
「私も手伝うよ」
きっとただの夢物語。
奴らがしようと思えば、きっと私たちは一瞬で消される。
でも、夢を見るのは自由だから。
強制的にゲームに参加させられているけど、夢は自由。
「絶対に仕返ししよう!」
「あぁ、さてと外へ行ってみるか」
「通路で待っていていい?」
「あ~、俺1人でやるつもりだけど、やばかったらヘルプ頼んでいい?」
本当は強打だけで、どれだけできるのか不安なんだよな。
1人でやると言ったけど。
「ふふっ、良いよ。任せて! 私の時もお願いね」
私は超音波攻撃以外の攻撃方法を探そう。
ラルグにばかり負担を掛けられないしね。
それに、攻撃方法はいっぱいあった方が便利だろう。
今の攻撃は広範囲で遠くにも攻撃できる。
だったら、狙うのはラルグみたいな強打とか殴ったり蹴ったりする攻撃?
羽を広げてみる。
薄い膜が張ってある羽。
鳥とは違う。
これで殴るの?
折れそうだな。
足を見る、ほっそいな~。
殴る蹴るの攻撃は無理かも。
何か違う攻撃方法ないかな?
剣とか? 鞭とか?
いやいや、どうやって持つの? 足?
て言うか鞭って何!?
前の私にそんな趣味ないから!
なんでアルフェの奴は飛びながら呻ってるんだ?
何か考え込むようなことでもあったか?
あっ、ふらついた。
もしかして体力が戻ってない?
……大丈夫か?




