96話 スレイヤーのお仕事⑮
「君は同様の事件が起きないようにデビットに職を全うしろと言いたいのだな?」
大公は頭の回転が早く、公正な見識を持つ人のようだった。
「はい。今回の件は公表してしまうと模倣を考える者が出てくる可能性があります。それを事前に取り締まるためには有能で公正な判断力を持つ方でなければなりません。」
「我々スレイヤーギルドでは残念ながらそう言った対応までは難しい。ターナー卿であればこの重大事項への対応も努めていただけると考えています。」
アッシュが補足してくれた。
「ふむ。デビットはどう考える?」
「私は閣下の命に従います。今回の件でどういった采配がなされても受け入れる覚悟はしておりますので。」
わずかな時間だが大公は目を閉じて考えていた。そして、
「マイク·ターナーの凶行はどう説明する?」
当然の質問だろう。
自発的に禁忌と言える研究をしていたと公表されれば、ターナー家への風当たりは強いものとなる。
「不慮の事故に因り、体内に異分子が入った···と言うことでしょう。研究材料の植物採取で山に入ったところ、意図せずに魔族と遭遇して攻撃を受けた。そこで何らかの影響を受けて変異し、自我を喪失したのではないか?スレイヤーギルドでは其の推測の下、早急な原因究明にあたってはいるが、明確な結論には至っていない。未確定要素が多いので今後の危険を考慮して、魔族討伐の際には個体を焼いて脅威を未然に防ぐという対策を徹底している。そうスレイヤーギルドでは公式に発表するのが良いのではないかと考えています。」
「···なるほどな。真実ではないが虚偽でもない。そのノートがなければ罷り通る内容だ。」
アッシュの説明に大公は頷いた。
ターナー家への風当たりがまったくない訳ではないだろう。それに少なくとも王城では不安要素に対して、スレイヤーギルドへの原因究明命令が強く課せられる可能性は高い。
「そのノートはお二人の目の前で焼却します。元々存在して良いものではないでしょうから。」
長い沈黙の時間が過ぎ、再び大公が口を開いた。
「アッシュよ。タイガ·シオタを信用しているのだな?」
大公の質問は、平民でどこの誰かを判別できない俺の存在をアッシュの意見で肯定しようというものだろう。それだけアッシュへの信頼が高いとも言える。
重大な決定を下すための不安要素の排除。政を行う国家のナンバー2として適切な思考だろう。
「つきあいは短いですが、実力も人間性も保証できます。私の妹や大公閣下のご息女も含め、窮地を救われた者は何名もいます。それに、今回の事件の終息方法について発起したのはタイガ本人です。そのあたりも判断材料としていただければと思います。」
おお、アッシュ。
ちょっと感動したぞ。
鼻水が出そうなくらい。
異世界で俺は良い友人を得たようだ。
「テレジアからも話は聞いている。アッシュと同じようなことを言っていた。命をかけて人を救い、身分に関係なく公正な対応ができる人間だとな。」
テレジアありがとう。
抱き締めたくなるくらいうれしいぞ。本当にやったら大公に激怒されるからしないけど。
あ···どさくさにまぎれてもうやってたか。
「わかった。ターナー家については不問で通す。善後策についてはデビットも含めて知恵を貸してくれ。」




