90話 スレイヤーのお仕事⑨
「遅くなってごめんな。」
そう言いながら木の下敷きになったオークの頭をサッカーボールのように蹴っていく。
「本当にタイガは素手で倒してばっかりだね。」
パティの言葉にいちおう反論しておいた。
「返り血を浴びるのが嫌なだけだ。今回の魔族はちゃんと蒼龍で斬ったしな。」
話をしながらパティにハンカチを渡す。わずかだが血を浴びている。
「固まらないうちに拭いといた方が良い。」
「ありがと。」
「大丈夫か?」
フェルナンデス姉妹の方に行って声をかけた。
「はい···死ぬかと思いました。」
シスは疲れはてた顔をしていた。
「タイガ···さん。」
テスも姉と似たような感じではあったが、先程までとは雰囲気が変わっていた。
「スレイヤーとしてやっていけそうか?」
「···もしかしたらここで死ぬのかもしれないって思いました。でも、パティさんは足手まといの私達を最後まで見捨てずに庇ってくれた。それに···あなたも···。」
「俺やパティの前では自然体でいて良い。お前達はもう仲間なんだから気を使うな。」
そう言って笑いかけるとテスはぎこちない笑顔を見せた。もう仮面のような作り笑いではなかった。
テスの魔法で魔族とオークの体を火葬した。マイク·ターナー事件のような事が起こらないための処置だ。
「予定より遅くなりそうだね。」
巡回はまだ半分ほどの道程だ。
先程の戦いと後始末で1時間半を費やした。
パティが言うように帰りが少し遅くなりそうだ。
「今から何も起きなかったら今日中には戻れる。巡回を続けよう。」
そう言って歩き出した。
テスが俺に追いついてきて真横に並ぶ。
「あんなに本音で話をされたのは初めてです。」
「ん?」
「私達は裕福ではない貴族の出です。あなたが言われたように位の高い方達の気をうかがい、自分の価値を大きなものに見せるために嘘の自分を演じてきました。姉はもともと外交的な性格なので人との交流を苦にはしません。ですが··私は子供の時から内向的で、かなり無理をしないと人づきあいができなかった。知らない間に媚を売ったり、内面を探ったりすることが常態化してしまっていたと気づかされました。」
俺はテスの頭を撫でた。
顔を少し赤くしているがうれしそうに笑う。
「そうやって私を励ましてくれているんですよね?」
「励ましてもいるし、ただかわいい子の頭を撫でてみたいと思ってやってる。」
「えっ?」
「気にしなくていい。照れてるだけだ。」
テスは少し考える素振りを見せた後にクスッと笑った。
これまでで一番の表情だった。




