85話 スレイヤーのお仕事④
厩舎で馬を借りて出発した。
馬術もエージェントとしてのたしなみだ。山岳地帯などでの任務では車やバイクは使えないので重宝した。久しぶりだが問題なく乗れる。
目的地までの道程がわからないのでパティが先頭に立つ。眺めも期待できるので長時間でも飽きないだろう。何の眺めかって?わかるだろう?
それなりのスピードで馬を駆けさせ、30分後に1度目の休憩を入れた。他の3人もさすがに貴族の出身なので危なげなく馬を操っており、ここまでは何の問題もなく来れた。
パティに確認したところ、地面が乾いているために馬足が早く、すでに半分の距離まで来ているとのことだ。
「目的地は正面に見えてる山だよ。あそこの麓に村があるから遅くなった場合は一泊できる。」
パティが言う山はそれなりの標高がありそうだが、天候が良いので巡回に不安はない。
「巡回はどのくらいの範囲を行っているんだ?」
「だいたい4時間の道程かな。」
ギルドを出発したのが10時半頃。このペースなら山の麓には遅くても正午前には到着する。何もなければギルドに戻れるのは早くて18時というところか。
「ギルマス補佐様、お水はいかがですか?」
テスが水筒を持ってきた。
「ありがとう。今は大丈夫だ。」
「···そうですか。」
なんとなく気落ちした表情を見せるのでこちらから話しかけてみる。
「呼び方が堅苦しいぞ。タイガで良い。」
「ですが失礼にあたります。あなた様はスレイヤーギルドのナンバー2であり、国内でも稀有なランクSです。ファーストネームでお呼びするなど···。」
めんどくさいなぁ。
「俺の故郷には慇懃無礼という言葉がある。」
「慇懃無礼?」
「気を悪くさせたら申し訳ないが、丁寧すぎる態度は相手を卑下しているいう意味だ。テスがそんな人ではないとは思うが、俺は貴族ではない。普通に接してもらった方がやりやすい。」
「そんな···。」
「品格がないとか、無礼だとか思われてもかまわない。だが、人とのコミュニケーションは相手と腹を割って話すことから始まるものだ。」
「···················。」
なんか悔しいような悲しいような表情をされてしまった。貴族の社交場になれ過ぎているとこんな感じになるのか?
ふぅ、と息を吐く。
「悪い、俺の価値観を押しつけるのは良いことじゃないな。」
そう言って頭を撫でた。
「!」
テスが眼を見開いてフリーズする。
「ギ···ギルマス補佐様···何を···。」
「失礼なことをしている訳じゃないぞ。勝手な解釈かもしれんが、いろいろと大変な想いをしてきたであろうテスを労ってるつもりだ。俺といる時は肩の力を抜け。相手の腹を読もうとするな。完璧な自分を演じようとするな。以上。」
あ···なんか涙眼になってる。
「タイガ、そろそろ行くよ!」
あれ、パティも怒ったような顔をしてるぞ。
またやってしまったのか?




