78話 学校に行こう⑮
テレジアは上目づかいにチラチラとこちらを見て話し出した。
「ご存知かもしれませんが、ターナー教諭は私の元婚約者です。チェンバレン家は貴族階級としては最高位。結婚相手は家柄よりも個人の能力が重要視されるのがしきたりのようになっています。」
一息つきながらじーっとこちらを見つめるテレジア。
「あの···タイガ様はどうして命がけで私を助けてくれたのですか?」
「ん~、かわいいから?」
あ、しまった。
いつもの癖でまたテキトーなこと言ってしまった。
「かわいいから···。」
おお、テレジアがタコのように真っ赤だ。
「かわいいから···。」
ブツブツと何度も同じ言葉を復唱してる。大丈夫か?
「···あ、すみません。」
遠い世界から戻ってきたようだ。
「続きを話してもらっても良いかな?」
「はい。」
テレジアが顔を真っ赤にしたまま話す内容はこうだった。
代々、チェンバレン家は派閥の拡大よりも能力に富む者を家系に組み込むことが家の存続には不可欠だと考えてきた。
貴族としての最高権力を持つ立場では勢力のある貴族と親族関係を築くことは不祥事や王族からの不信を招くことにつながる。むしろ一族に能力の高い者を取り込み、強い血族の輩出による繁栄を重視することが最善であるとみなしてきた。
テレジアの婚約は出生時にすでに決められていたことであり、代々が武人として国の要職についているターナー家の血の強さを考えてのことだったと言う。
しかし、婚約者である三男マイクは成長するにつれて非現実的な思想を抱くようになり、ターナー家の異端児と言われるようになった。武人の家に生まれながら武芸には興味を持たず、才能も開花しない。この世界では軽視されがちな薬学にのみ没頭する、いわゆるコミュ障となっていた。
そんなマイクを見限り、婚約を破棄させたのは父親のデビット·ターナーだったと言う。
婚約が破棄されたのは5年前。
コミュ障のマイクとはそれほど親交がなかったテレジアは魔導学院で教師と生徒として再会することになったが、会話を交わすこともほとんどなかったらしい。
「一度だけ、学院で話しかけられたことがありました。」
その時にマイクは「君も僕の価値がわからないのかい?」という質問をしてきた。
意図がわからずに返答ができなかったテレジアを見て、マイクは寂しそうに笑い、去っていったと言う。
「あの時のことを思うと、何かを思い詰めていたのかもしれません。」




