76話 学校に行こう⑬
地面に横たわるターナーの首と胸に手を当てた。
脈も動悸も感じられない。
俺が狙っていたのは心臓への過負荷を起こすことだった。思惑通りいったが、半分は運みたいなものかも知れない。
頭を潰すか、心臓にナイフを突き刺すという選択肢もあったが、ここには学生が数多くいる。
あまり残虐なシーンを見せたくはなかった。相手は曲がりなりにもここで教鞭をふるっていた教師でもある。
ターナーは何らかの手段で魔族の血を手に入れて血清にでもして体内に取り込んだのではないかと考えた。
元の世界では動物の血清を医療に利用する抗血清と言うものがある。血清病と呼ばれる副作用が激しいために使われなくなったが、薬学を専門とするターナーなら理論的に実現できる可能性がある。
血清は採取した生体の成分を取り込むために使われるが、魔族特有の強靭な肉体をターナーが欲したのであれば、それを目的に独自で研究を進めていたと推測できた。
微かな邪気と悪意を重ね合わせて持っていたことを考えるとあながち間違いではないような気がする。
所定の手続きがいるだろうが、ターナーの自宅や大学の研究室を捜索すれば確証を得る資料が出るかもしれない。
だが、魔族の血を取り込むことなど劇薬を飲むのと同じだ。異なる血液型を輸血する以上のリスクがあるのは素人考えでもわかる。
心臓への膨大な負担。
それをハートブレイクショットで加速させたことが勝因と言っていい。
ターナーは強い悪意を持っていた。
それが狂気じみた行いを誘発させたと考えるのが自然な解釈だろう。
そしてそれが身の破滅を招いたのだ。
「タイガ、無事だったのね。」
状況に気づいたリルが他の教職員達とグラウンドに駆けつけてきた。
幸いにも負傷者はいない。
事の詳細を個人の先入観なしで説明する。
「そんなことが···。」
「生徒達をケアしてあげて欲しい。ショックが大きいかもしれない。」
そう思ったが取り越し苦労だったのかもしれない。
振り返り、生徒達の方を見た瞬間に歓声があがった。
「···違う意味でのショックね。あの子達は完全に英雄を見る目をしているわ。」
「ああ··そうなんだ。」
元の世界では学生が戦争などを実感することは特定の地域でしかありえない。ここは魔族の脅威にさらされている分、現実的な問題として捉えているのだろう。
異世界にいるということを今更ながら実感した。




