393話 エージェントの遠征①
一人で馬を駆った。
単独での救援を反対する者も多かったが、バリエ卿と大司教代理から、「最善の方法だろう。」と言う言葉があり、渋々納得をしたようだった。
本来であれば、救援という目的である以上、後方支援や回復ができる魔法士を伴うべきなのだが、タイガには1つの考えがあった。
大司教の一件と、魔物の群れの発生が、ほぼ同時のタイミングというのは、偶発的なものとして考えるのは早計だと思えたのだ。陽動と考えた場合、教会本部から戦力を削ぐ、もしくは邪魔者を誘き寄せて消すという目的が想定できる。
そして、タイガは後者である可能性が高いと考えていた。理由は単純で、テトリアの再臨を本気で信じているのであれば、タイガの存在が邪魔になるからだ。また、そうでない場合も、本物かどうかの見極めのために、接触をしてくる可能性は高いと思われた。
単独で動くことまでは、想定していないかもしれない。しかし、教会本部周辺の守りが手薄になることは、大勢の民を命の危険に晒すこととなるため、少数精鋭による出動になるとの予測が立てられる。
そして重要なのは、武具を浮遊させた攻撃に、タイガが防戦一方であったという事実。攻撃を仕掛ける者にとっては、これ以上にない優位性を持てるはずだ。
敵は、武力で見劣りするこちらを甘く見ている。目的を果たすのに躊躇いなど持つはずがない。
そういったことを踏まえて、タイガは単独で動いた。仲間を危険に晒すだけではない。自由に動けなくなり、勝機を逃すことを恐れたからだ。
街を出て30分程が経過した。
ソート·ジャッジメントが反応する。
どうやら、敵は存在を隠すつもりがないらしい。邪気、殺気。どちらもかなり強い。悪意が感じられないのは、魔人ではなく魔族なのかもしれない。
悪意と言うものは、人間にこそ宿る。魔族は、人を対等の存在とは考えない。人が虫を殺すときのように、邪魔になれば消せばいいと考えるだけだ。そんな相手に、悪意を抱く必要性がないのだ。
タイガは馬を止め、地に降り立つ。
そのままゆっくりと、その存在に近づいて行った。
「自ら命を捨てに来たか。」
男が1人。
無表情で、血の気のない顔をしている。
「魔物の群れを使って、何をする気だ?」
「結果としてここに貴様が来た。それが答えだ。」
抑揚のない話し方をする。
「それだけのために、大それたことをする。」
「テトリアが相手となると、いろいろと厄介だからな。だが、貴様は違ったようだ。魔法すら使えないのであろう?」
「さあ、どうかな。」
「ハッタリはやめておけ。貴様には魔力を感じない。」
今更だな。
でも、それでいい。見下しているのは、油断がある証拠だ。
「ばれているのなら、仕方がない。冥土の土産に教えてくれ。魔物の群れをどうするつもりだ?」
「知れたこと。貴様が先ほどまでいた場所に向かわせる。ただ、それだけだ。」
「魔物を誘導する仲間がいるのか?」
「仲間?同胞と言えど、仲間などとは思わん。意を同じくする者が、役割を果たすだけだ。」
「堕神の下でか?」
「························。」
押し黙った。
それは高確率で、肯定を意味する。
「まぁ、いい。尋問したところで素直に話すとは思えない。消すつもりなら、さっさとかかってこい。」
タイガは掌を目の前に突き上げ、手招きする仕草をした。




