392話 偽りの聖者⑬
「タイガ殿!ここにおられたか。」
ノックの音と同時に、焦り顔のバリエ卿が、ドアを開けて入ってきた。
「バリエ卿。どうかされましたか?」
「···タイガ殿か?どうされたのだ、その頭は!?」
教会本部での話し合いはすでに終わっており、鎧はすでに解除をしていた。
「···気にしないでください。それよりも、急がれているようですが、何かございましたか?」
バリエ卿は、この街で潜伏をしていた間、ずっと邸宅の一室をあてがってくれていた。治癒修養会の日程に合わせて、事前にそこを出たため、スキンヘッドのタイガを見たのは、これが初めてとなる。
「ああ···そうだった。タイガ殿の頭があまりにも衝撃的だったのでな。」
···こいつの毛根も、果てさせてやろうか。
「それで、何があったのですか?」
「近くで、魔物の群れが出た。北のテスラ王国の領土内でだが、ここからそれほどの距離はない。直線で100km程先のあたりだ。」
「群れの規模は?」
「およそ300体。オーガとキラーグリズリーが多数を占めるようだ。」
それを聞いた者のほとんどが、眼を見開いた。オーガやキラーグリズリーとなると、1体でも複数のスレイヤーが戦力的には必要となる。
「嘘でしょ!?それって、大隊クラスの戦力でも厳しくない?」
「そうなのか?」
マリアの焦りの言葉に対して、タイガは平然と答えた。
「えっ!?そうなのかって···。」
スレイヤーであるフェリやリル以外に、タイガの魔物に対する無双を知るものは少ない。魔人や人への無類の強さを目の当たりにしたマリアではあったが、数百体の魔物、しかもパワーとタフネスさが規格外のオーガとキラーグリズリーが相手では、楽観視はできなかった。そもそもが、その2種は上位種として、危険度がかなり高いのだ。
「バリエ卿。そのご様子だと、この地への脅威と考えて良いのですね?」
「そうだ。現地では、そこを管轄する辺境伯が抱える部隊が対応をしている。しかし、戦力差が著しく、この地に駐留する同国の部隊へも応援要請が入った。」
「テスラ王国の駐留部隊には、余剰戦力があるのですか?」
「いや···総員でも4小隊程だ。他の2国にも協力要請が出されている。普通に考えれば、3国の駐留部隊を総動員しても、厳しい戦いになるだろう。」
マリアが言うように、大隊クラスでも苦戦を強いるのであれば、3国の駐留部隊が集結しても、撃退できる可能性は低い。他国間の部隊が共闘することは、連携に難しさも生じる。しかも、大司教の一件があった後だ。この地の防衛が手薄になることへの陽動も、考慮すべき内容である。
「現地までは、平坦な道のりなのですか?」
「途中から山脈に入る。道程の3分の1くらいがそうだ。」
「馬を一頭、用意してもらえませんか?」
全員が呆気にとられた。
「···まさか、一人で行く気かね?」
「単独で馬を駆った方が早いでしょう。それに、状況を考えると、ここの守備に穴を開けるのは避けた方が良いと思います。」
「·····················。」
バリエ卿は、タイガの予想外の発言に驚き、押し黙った。
「ならば、私も行こう。」
「「「私も!」」」
機を見たシェリルの発言があり、そのあとにフェリ、リル、マリアが続いた。
「ありがとう。でも、みんなには、ここの守備をお願いしたい。万一の場合は、戦力を集中させておいた方が安心できる。それに、俺も無理はしない。状況が厳しいようなら、離脱して戻ってくる。」




