356話 エージェントの長い1日⑫
「ピアスなんかに変形ができるのだな。」
タイガは先を進みながら、念話のようなもので、神アトレイクに質問をしていた。
『テトリアも、ずっと鎧を纏っていたわけではない。』
平時はこんな感じだったということか。
「そんな風に変態できるなら、あの部屋から抜け出すことなんて、難しくはなかったのじゃないか?」
『先ほどの話にもあったように、普通の人間では魔力を吸いとられて衰弱してしまうからな···いや、そなた、今変態と言わなかったか?』
「変体と言ったぞ。身に覚えがあるから、そう聞こえたのじゃないか?」
『そうか···いやいやいや、身に覚えなんかないぞっ!神に対して変態呼ばわりとは、この罰当たりめがっ!!』
「だから、誤解だ。それよりも、その魔力を吸いとるというのは、呪いなのか?」
『呪いではない。そなたが知らないのも無理はないが、この世界では、大地と生物の魔力が相互に引き合うのだ。魔力の強い者ほど、その力は大きくなる。例えて言えば、私は生物ではなく、大地と同義に近い存在なのだ。』
「確か、基礎魔法学の本にあったな···一流の魔法士は、大地や大気からの魔力を利用して、自身の限界を超えるとか。」
『ほう、なかなかの勉強家だな。そうだ。しかし、それは魔法を練る時のことだ。平時では引き合うのだ。』
「引き合うと言うことは、均衡が保たれるのだろ。なぜ、あんたの場合は、相手の魔力を吸いとることになる?」
『今の私には、緻密な制御ができないのだ。どれだけ魔力を抑えようとしても、意図に反して相手の魔力を奪い取ってしまう。』
「それは神罰の一環じゃないのか?あんたを縛りつけるための。」
『おそらくな···。』
クレアの身を案じていながら悠長に会話をしているが、これは聖女の今の状況が、神アトレイクには感じることができるためである。自身を崇める聖女に限られるが、神通力により天啓や神託をうける立場となった者とは、精神的なホットラインのようなもので結ばれるのだそうだ。それによると、今のところは安否に異常はないらしい。
「魔力のある者と大地が引き合うということだが、俺のような魔力のない人間はどのように作用している?」
『ふむ···我々神が統べる世界には、魔力のない人間はそなただけだ。他に事例はない。』
「わからないということか···。」
『なぜこの世界には魔法が存在すると思う?』
「さあな。先天的な事象を言われると、答えに困る。」
『もっと単純なものだ。人間は脆弱なのだ。素手や物理的なものでは、魔族には打ち勝てん。そこを補足するのが魔法と思えば良い。』
「理解はできるが、強靭な肉体を持つ魔族が魔法を使えたり、商業魔法なんてものを目の当たりにすると、あまりシンプルに捉えるのは難しい。」
『魔法を使う人間に、素手の魔族が圧倒的な力を誇示するのは難しい。それと、商業魔法については、人間の努力が生んだ副産物。そう考えれば良いのではないか?』
理屈を言えば、そうだろう。
「バランスということか。」
『そういうことだ。』




