355話 エージェントの長い1日⑪
『そなたは先ほど、テトリアと私の容姿が酷似していると言ったな。』
「ああ。」
ハッタリだけどな。
『それは、神がかった力を持つテトリアと、堕天使テトリア、そして、私が同一のものだと考察した学者が存在したことに由来する。実際に、その事が記された書物も一時的に世に出たこともあり、そこからテトリアの容姿が、神アトレイクと類似するものだと伝えられたのだ。』
「その書物はどうなった?」
『神界からの力により消滅し、人々の記憶からは薄らいだ。』
···汚職をもみ消す政治家かよ。
「それで?」
『消えたのは他にもある。魔族を作り出すための処方とも言うべき、言い伝えだ。』
「処方?」
『詳細については言えぬ。だが、聖女の血が必要と言うことだ。』
「聖女の血だと···。」
『そうだ。聖女となり、祈りを捧げた者には、何かしらかの神通力が宿る。その血が使われる。』
「今も···そうなのか?」
『ここで長い時を過ごしていたが、しばらくはその非道を聞くことはなかった···だが、またその兆候を感じている。』
「具体的には?」
『いつもこの鎧を清掃している修道士が、立ち聞きをしたらしい。「聖女様が生け贄にされる。」とな。懺悔のような形で私に告白をした。』
「何か答えたのか?」
『いや···その者には何の力もない。私自身も動きようがないのでな。下手に答えて混乱を招く訳にはいかなかった。』
「いつ頃の話だ?」
『ほんの一週間くらい前だ。』
「···俺は行く。生け贄の対象は知り合いかもしれない。」
クレアの顔が頭に浮かんだ。
魔族の贄になど、させるわけにはいかない。
『私を連れていけ。そういったことの経緯には、役立つこともあろう。』
「だめだ。常時、鎧を纏うのは目立ちすぎる。」
『ならば、しかたあるまい。少し待て。』
そう言うと、近くにある鎧が急に光をおび、集約された一線となってタイガに向かって走り抜けた。
「なっ!?」
『これで邪魔にはならんだろう。』
高速の光がこちらに向かって来て、不覚にも一瞬視界を失った。視覚が戻り、周囲に目を走らすと既に鎧は跡形もなく消えている。
耳に違和感を感じた。
耳の上部、耳輪の位置に何かがある。
「これは···カフスピアスか?」
こちらの世界でも、ピアスは宗教的に魔除けや厄除けの意味合いがあり、重用されている。
『つるっぱげにピアスは···ゲイのようだがな。』
こいつだけは···。
「トイレに流すぞ。」
『···やめてくれ。』




