354話 エージェントの長い1日⑩
「神界が強制的に帰還をさせる可能性は···ないか。」
『うむ···ないな。』
前の世界では可決された議題を撤回、もしくは内容変更をするためには、最大派閥の失脚か、民衆の総意が必然となる。だが、民主主義政権でもそんなことはほとんど起きない。神界の議会がどのような形態かはわからないが、おそらくそんな期待は持てないだろう。
「あんたはその鎧に封印されていると言っていたが、もしかして、その打開策のために俺に話しかけたのか?」
『話が早くて助かる。その通りだ。』
「俺なら、その封印が解けるとでも?」
『それは無理だな。神界からの力が働いている···って、なぜ後退る!?』
「···何か、嫌な提案をされそうだからな。」
『大したことではない。そなたはこの鎧を纏い、行動をすれば良いだけだ。』
「···は?」
『だから、そなたが鎧を纏って動けば、私もそこに便乗して移動ができるのだ。』
「·····························。」
『·····························。』
「····やだ。」
『なっ!?』
「その鎧を着ると、魔力を奪われると聞いた。テトリアは、膨大な魔力を持っていたから耐えられたのかもしれないが、俺は違う。」
『そなたには魔力など無いだろうに。』
「さっきからずいぶんと俺のことをわかっているようだが、やはり人の心が読めるのか?」
『それは違う。我々神は、人間のステータスバーが見えるのだ。』
ステータスバー?
何だそれは?
MMOかよ!?
「そのステータスバーには何が書かれている?」
『それほど多くの情報はない。名前、性別、職業、魔力値、二つ名といったところだ。例えば、そなたの二つ名は···なんじゃ!?めちゃくちゃ多いぞ。二つ名どころか、二桁···。』
「そんなものはどうでもいい。で、魔力のない俺がその鎧を着たらどうなる?」
誰だよ。
勝手に俺の二つ名を増やしている奴は。
『ふむ···まずは、勇者テトリアに擬態することができる。』
「···他には?」
『む···それだけのようだ。』
「は?」
『ああ···あと、少しだけ防御力が上がる。敏捷性は少し下がるが···。』
「それって···ただの鎧じゃん。」
『···そのようだな。』
「何のメリットもないぞ。」
『英雄になった気分を味わえる。』
「いらん。超いらん。」
『いや···待て待て待て待て!ドアから出て行こうとするな!!』
「メリットがないなら、そんな古い鎧は着たくない。それに···テトリアに擬態をして動き回ったりしたら、二つ名が三桁になるかもしれんだろ。」
『そうかもしれんな···わかった。ならば、本題に入ろう。』
急に神アトレイクの口調が固いものへと変わった。
ようやく茶番は終了のようだ。




