350話 エージェントの長い1日⑥
「誰だ?それに、なぜ俺の名前を知っている?」
何となく察しはついていた。
俺には魔力がない···となると、魔法によるテレパシーのようなものは当然使えない。それに、今いる場所には、動かしたりすると魔力を吸収すると言う、呪いの鎧みたいなものまであるのだ。
『私が誰かなど、察しているのではないか?』
「···神アトレイク。」
『···なぜ堕天使テトリアではなく、神アトレイクなのだ?』
「まず、正解なのかどうかを答えてくれないか?」
『·····················。』
「沈黙は肯定とみなす。」
『···なぜそう思ったのだ?』
おそらく正解なのだろう。
神の使徒だったら、自分が神であるとは偽らない。すぐに否定をするはずだ。それに、堕天使テトリアと言うのは架空の存在としか思えなかったのだ。
「ただの主観だが···俺はこの世界のことはあまり知らない。だから、神アトレイクや、堕天使テトリアについての文献を読んでいて、その内容に矛盾を感じた。テトリアが活躍したよりも以前の古文書には、神アトレイクの使徒は十二の天使と記されていた。だが、そこにはテトリアという名の天使の記述はない。それ以降の書物には、必ずといって良いほど色濃く書かれているのにだ。」
『それだけで特定をするのは、少し乱暴ではないか?』
「神アトレイクと、テトリアの容姿が類似しているとしてもか?」
『···そんな記述がある書物など、存在はしないはずだ。』
ハッタリだった。
だが、返答が遅れたところを見ると、それも正解だと感じる。
「そもそも、神界の掟に背いたからテトリアは堕天使となり、黒髪黒瞳に変貌をしたと言うが、その程度の処罰で済み、人間を守るためにあれだけ目立つ行動に制限がなかったことが矛盾している。神アトレイクの特命で動いていたという説も、それが要因だ。神が直々に武力を用いて、魔族を打倒したという説は、神界の掟上、あり得ないこととして記されなかっただけだろう。」
『そなたは···なぜそれほどまでに、細かい考察をしたのだ?』
「信仰や宗教が、大きな争いの火種になるというのは、どこの世界でも同じだろう。だから、調べた。あとは、神話じみた話に関心があったからというところかな。」
『ふむ···なるほどな。そういったことを生業にしていた···か。』
「さっきから何を見ている?まさか、神だから心の中まで覗けるとでも言うのか?プライバシーの侵害も甚だしいぞ。」
『いや、私とて心の内までは···。』
「やはり、神アトレイクか。」
『···あっ!』
この程度の誘導尋問に引っかかるとは···。
駄目神か。




