346話 エージェントの長い1日②
侵入した部屋を物色した。
6帖ほどの更衣室のような造りだ。
ロッカーがあったので、そこを開けて中を確かめてみる。修道士の衣服が入っているが、サイズが合わないようだ。着こなせる服を探すべく、5つほど連結したロッカーを次々に開けていった。
大きめのサイズを見つけて着る。
フードが付いているので、目深にかぶった。これで、眉や瞳の色はカバーができる。
他にはめぼしいものが見当たらないので、ドアの外に人の気配がないことを確認してから廊下に出る。
広い中庭に面した廊下だ。
長方形に建物の内角を通っている。階下では何やら物々しい騒ぎが起きているが、原因が自分であることはわかっている。
「どこだっ!なんでやねんの使徒はどこに隠れたっ!!」
なんて声が聞こえてくるので、わからない方があり得ないのだが。
この建物は、教会本部のフロントにあたるのだろう。
フロントとは、事務所や客人などの控室、布教活動をしている者の立ち寄り所などが配置されているものを言う。王城でも似通った建物があり、規模の大きい拠点には必ず存在すると言っても良い。外部からの侵入に対して、ワンクッションを置く意味合いもある。
タイガは、敷地の奥を目指して歩きだした。
変装をしているので、今の場所では自然に振る舞えば問題はないだろう。修道士は、信仰のための修行と言う名の元に、雑務を与えられる役割だ。とりあえず、忙しげに歩いていれば、気に止められることも少ないはず。
そう考えて、廊下を奥に進む。
建物の短辺の真ん中に、奥につながる渡り廊下が見えてきた。この先が本部の建物に直結していればわかりやすいのだが、教会本部の敷地は広い。それに修道士にも本部付と支部付が存在し、この姿でどこまで行けるかはわからない。支部付の修道士なら、あまり奥まで入り込めない可能性があった。
建物内でフードを被っていることも、目上の相手に対して無礼にあたるので、いざと言う時には何かもっともらしい言い訳を用意しておかなければならない。
そんなことを考えながら先を進んでいくと、対角線上に人が歩いてくるのが見えた。
隠れる場所もないが、ここで引き返すと不自然なため、タイガはそのままの速度で歩き続けた。視線を感じたため、軽く会釈をする。
「待て。」
すれ違い様に声をかけられた。
「はい。何でしょうか?」
うつむきながら答える。
「なぜフードを被っている?ここは屋内だぞ。」
咎めるような男の声。
瞬時に気絶をさせても良いが、それは最終手段だ。意識を奪っても、その身を隠すところがない。勝手がわからない場所で、不用意な行動に出るのは詰まった時だけの方が良い。
「申し訳ございません。私は元冒険者で、顔に醜い傷痕があるのです。素顔をさらすと、不快感を感じられることが多いので、無礼を承知でこのような格好をしています。」
「そうなのか···わかった、そのままで良い。それよりも、その修道着は本部付のものだな?手が空いているのであれば、鎧の清掃をしてくれないだろうか?」
「鎧···ですか?」
「そうだ。テトリア様の鎧だ。」




