332話 エージェントはやはりフラグに気づけない③
「あれが教会本部?荘厳というか、豪華な建物ね。」
フェリが馬車の中から街並みを眺めながら、思った通りのことを口にした。
「やはりそう思いますか?信仰のシンボルということで、豪奢な佇まいにしたとも言われていますが、私は好きにはなれません。」
聖女クレアは、日頃は口にできない言葉で返した。
スレイヤーギルドを訪れてからすぐに、信頼するタイガは行方をくらましてしまった。しかも、教会の難敵である魔人の嫌疑をかけられたままだ。
クレアは、自分がタイガを今の苦境に追いやってしまったのではないかと思い悩んでいた。命まで救ってくれたというのに、自分と関わってしまったばかりに災難をもたらした···と。
暗い表情をするクレアに、同じ年頃のフェリの言葉が身に染み渡った。
「タイガが魔人?それは絶対にないわ。強さは魔族を超越しているし、とにかく優しいもの。無意識に女の子を口説いたり、人の気持ちには鈍感だったりするけど···下心とか悪気があるわけじゃないし。なにより彼は多くの人の命を救ってきたわ。私は何があってもタイガを信じてるし、必ず助けて見せる。」
迷うことのない意志を瞳に宿すフェリを見て、クレアも決心をしたのだ。
『私も、私にできることをしなきゃ。フェリさんと同じように、タイガさんの手助けを。』
この時、クレアは聖女である意味を改めて考えた。人の苦境を見過ごして成り立つ平穏なんてない。仮に教会を敵に回しても、聖女として、一個人として、恩人であり、
多くの人々を魔族の脅威から救う希望であるタイガを日常に戻さなければならない。
「教会に戻って、タイガさんの潔白を証言します。」
強い意志を秘めた言葉で、アッシュを始めとしたスレイヤーギルドのメンバーに、そう告げたのだった。
クレアの護衛兼調査隊として、教会本部に出向くメンバーをアッシュが選抜した。
本来はアッシュ自身が率先して行きたかったのだが、魔族からの攻撃と、王都との対応が必要な場合に備えて、待機を余儀なくされた。
『魔人と闘えるぞっ!ひゃっほ~い!!』
と当初は考えていたが、立場を弁えることにした。何より、嫁が恐い。タイガと出会う前に、魔族との闘いに率先して出動し、ギルマスの決済仕事を放置していたのだが、「仕事を真っ当にしないのなら、家から追い出すわよっ!」と言われて、本当に家から締め出されたのは記憶に新しい。
またその時のように、ギルド職員がチクらないとは限らないのだ。
そういった事情も踏まえて、フェリやクレア達は教会本部のある街を訪れたのだった。
タイガの身の潔白を証明するために。
そして、再び彼の日常を取り戻すために。




