331話 エージェントはやはりフラグに気づけない②
薬を塗りたくられた後は、アルコール度数の高い酒を浸した布で傷以外の場所を拭き取られた。因みに、酒はバリエ卿からの提供だ。
「あとはこれで患部を抑えて布を巻くわ。」
シェリルがティッシュと何かの葉を取り出した。
「その葉は?」
「これは薬草の一種で、化膿を防ぐ効果があるの。このまま巻くと葉から水分が出るから、布との間にティッシュを挟みこむのよ。」
ティッシュか。
そう言えば、紙やティッシュペーパーがそれなりに流通している。科学技術が発達している訳ではないが、繊維や織物の産業が活発であることが起因しているそうだ。元の世界では、ティッシュは100年以上前にガーゼの代替え品として、とある国の軍が開発をした。そう考えると、最先端の技術が必要と言うわけではないのだろうが、この世界での製造法に興味がわき、調べてみたことがある。
元々は、古紙を活用するために、日常生活で「あったら良いな」的な発想で開発が始まった。紙は高価なものでもあったので、書類や手紙の廃棄がもったいないという考えから、とある繊維職人が取引先の商人から依頼をされて研究が始まっている。当初は柔らかな素材にすることが難しく、鼻をかむと、鼻水よりも鮮血に染まるという笑えないものが幾度となく産み出された。しかし、これに聖属性魔法の浄化を組み込み、不要な内容物を一掃することで、現在の柔らかなティッシュが商品化されたという。余談だが、この聖属性魔法の浄化は、後に錬金術のようなものに発展し、独自の進化を経ている。紙やティッシュだけではなく、酒や水、化粧品や香水といったものの精製にも役立ち、今や商業魔法としての1つの流派に発展しているらしい。
治療を終えたタイガは、服を着替えて馬車で横になっていた。
それほどのダメージがあるわけではないが、マリアとシェリルが献身的に看てくれている。なぜか、交代で背後から抱きかかえられて寝かされているので、休息を取ろうとしてもなかなか眠ることはできない。何せ、枕がわりに頭の下にあるのは、彼女達の胸で、さらに背後から腕を回されて頭や胸をナデナデされているのだ。
「え···と···この体勢は治療と何の関係があるのかな?」
「傷口が早く塞がるように、あなたの体を固定しているの。」
今現在の抱っこ当番?であるシェリルが答えた。
「別に安静にしていたら1人でも···。」
「だめ。えと···あの薬は体温が高いほど効能が増すから。」
「だから密着していた方が良いと?」
「うん···。」
そう言いながら、シェリルは頭をすりすりと頬擦りする。
ああ···すりすりと同時に胸の揺れが伝わる。だめだぞ。そんなことをすると、俺の真ん中の足がむくむくと起きてしまう。
「ちょ···ちょっと、シェリル。そのすりすりは何よ!?」
「早く治るためのおまじない。」
マリアのツッコミに、当然のように答えるシェリル。
『ああ、そうなのか···シェリルの故郷では、こんなに素晴らしいおまじないが存在するのか。だったら、余計に真ん中の足を活気づかせるわけにはいかない。不謹慎だと軽蔑されてしまう。』
と、タイガは苦行に耐えるがごとく、煩悩を抑止するための努力を続けた。
因みに、魔人を倒した後は焼却処分を行い、駆けつけた衛兵達の護衛を受けながら、シニタ中立領のバリエ卿の邸宅に向かっていた。その間に、精神的苦行を敢行していたタイガが、傷口を何度か開かせたのは言うまでもない。




