303話 依頼者ソウリュウ⑤
圧巻だった。
模擬戦開始の合図の後、黒髪の男は、一瞬体をブレさせたかと思うと、消え去った。
マリアとシェリルが驚愕に目を見開いた直後、複数の人間が声もなく倒れ、模擬戦は呆気なく終了したのだった。
「あ···あなた何者?」
マリアは思わず聞いてしまった。ランクSの自分でも、動きを捉えることができなかったのだ。
「あなたランクSよね?どこのギルドに所属しているの?」
シェリルも、黒髪の男の素性が気になってしまい、重ねて質問をした。
「···今は、所属しているギルドはない。ここへは依頼人として来たんだ。」
「えっ!?····依頼人?」
「ウソでしょ?」
「それがマジなんだけど···まさか、こんな模擬戦をやらされるとは思わなかったよ。」
「「···················。」」
「申し訳ありませんでした。」
その後、すぐにギルドマスターの執務室に通されたタイガは、禿げたゴツいおっさんから謝罪をされた。
「大丈夫です。気にしていません。」
「···かなり怒っていらっしゃいますよね?表情が険しい···。」
「ああ、これは窓から射し込む陽の光が、あなたの頭に反射して眩しいだけです。」
あ···思わず余計なことを言ってしまった。おっさんのこめかみに青筋が立ってる。何か卑猥だ。
「「ぷっ!」」
後ろにいる軍服の女性二人が吹き出した。
「くっ!お前達は静粛に!!」
おおっ、おっさんがタコみたいに真っ赤になった。怖っ!
「話を戻しましょう。俺はアトレイク教会本部がある街に行きたい。道案内を依頼したいのですが、可能であれば聖霊魔法士と、その専用の馬車も一緒にお願いできないでしょうか?」
「聖霊魔法士と、専用の馬車まで···アトレイク教会本部の街なら、馬を調達すれば3日程の距離ですが、そんなにお急ぎなのですか?」
「はい。」
「教会本部にはどのような要件で行かれるのかな?」
タコ坊主の表情が苦いものに変わった。
教会本部に、不穏な人間が入りこむようなことに、加担をしたくないのだろう。
「教会本部に自分を売り込みたいのですよ。何か、とてつもない敵を相手どっていると聞いていますので。」




