302話 依頼者ソウリュウ④
やり取りの後に、黒髪の男は素手で良いと言い出し、背中の剣帯から剣を外して、マリアとシェリルに手渡した。
「二本共、大事な剣だから君達に預ける。」
「···なぜ私達に?」
「直感だ···一番信用ができそうだから。」
近くでみると、やはり背が高い。
それに、思ったよりもイケメンだった。
「わかった。預かる。」
マリアは即答した。
「その大きい方は私が持つよ。」
意外なことに、シェリルも自分から剣を受け取りに行った。
「どういう風の吹きまわし?」
マリアは、黒髪の男が離れて行った後に、シェリルに尋ねた。
「私の故郷では、身を守るための武具を預けると言うことは、その相手に尊厳を持ったのと同じことなの。彼がどういったつもりかはわからないけれど、敵ではないのなら、誠意で答えるべきだと思ったのよ。」
理屈を並べるシェリルの頬は、かすかに紅潮している。
「ふ~ん、それだけ?」
いつも冷静で、あまり表情を変えないシェリルにしては、わかりやすい変化だった。
「少し···瞳が似ているから。兄に···。」
前に聞いたことがあった。
今はもういない、大好きだった兄のことを。
「そっかぁ。じゃあ、たぶん悪い奴じゃないよね。」
「うん。」
シェリルの兄は、かつてランクS冒険者だった。とあるレイドで、多くの仲間の命を救った英雄でもある。そこで自らの命を失うが、彼の功績は今だに語られるほど大きい。
曇りのない、まっすぐな瞳だった。
でも、ああいう瞳の人は長生きできない···。
シェリルは胸の内が少し痛かった。




