292話 狙われたエージェント③
「タイガさんっ!」
急に名前を呼ばれたので声の方を見ると、アンジェリカが涙を流しながら走り寄ってきた。
ん?
何で泣いているんだ?
そう思っていると、両手を広げてダッシュしてきた。
あ···。
条件反射で避けると、アンジェリカはそのままクリスティーヌに抱きついてしまった。
「えっ?あれ?」
「な···何を!?」
おお~、百合シーズというやつか?それにしては二人の反応がおかしいが···。
「どっ、どうして避けるんですか~!」
「え···いや、つい条件反射で···。」
なんだ?
もしかして俺に抱きつこうとしたのか?まさかね。
「···ふぅ。でも、ご無事で良かったです。」
困惑するクリスティーヌの横で、泣き笑いの表情をするアンジェリカ。そして···すぐそばでは、なぜかふくれっ面のクレアがいた。
何だろう···何かわからないが、居心地が悪いぞ。
「聖騎士団長!」
これまでに何の動きも見せなかった聖騎士達が、続いて走り寄ってきた。
「おまえ達···なぜ聖女様を守ろうとしなかった?」
静かな怒りを感じさせながら、クリスティーヌが年嵩の聖騎士に尋ねた。
「我々の実力では、お二人の足手まといにしかなりません。それよりも、その魔人は死んでいるのですか?」
慇懃無礼な言い方と言っても良いだろう。あまり良い印象は持てなかった。
「数ヶ所の骨折、及び脱臼程度だ。意識は失っているが生きてるよ。」
代わりに答えてやった。
「そうですか。では、我々が拘束をして、教会本部に届けましょう。」
「それはどういうことだ?」
クリスティーヌが静かに問い質した。
「大司教様からの命です。万一、魔人を拘束することができたなら、捕らえて教会まで連れてくるようにと。」
「そんな話は聞いていない。」
「魔人はとてつもなく強い。もし、貴方や聖女様が闘うことになった際に、余計な足枷をつけたくないという大司教様の寛大な配慮です。そのために、私が勅命を受けました。」
クレアもクリスティーヌも、複雑な表情を浮かべていた。確かに、生かして拘束しろと言われれば、本気では闘えない。まして、実力差が有りすぎるのだ。無理な要求と言えるだろう。
やはり、教会にも色々とありそうだ。




