279話 エージェントの真髄⑥
「人間風情が。誰に向かって剣を向けている。」
威圧的な言葉とは反対に、にやけた表情を崩さない魔人。
「あの人を侮辱したことを後悔させてやる。」
「侮辱?死んだ奴に侮辱もクソもあるか。見てみろ、肉片すら残っていないだろうが。」
魔人は口もとを歪めながら、巨岩が落ちた痕を指し示した。
「やめろーっ!」
クリスティーヌは魔人に剣撃を繰り出す。
レイピアの速撃。
刀身の先が目ではとらえることができない速度で連撃される。
突きの速射。
細身ながら、重量のあるレイピアを体の一部のように扱う。その熟練度の高さは秀逸。
しかし、魔人は高速で繰り出される連続の突きを指先で弾いていく。
「なっ!?」
「くっくっ、教えてやろう。俺の動体視力は人間の数倍、指先には硬化魔法を施している。お前の剣技は大したものだが、所詮人間レベル。俺には通用しない。」
クリスティーヌは剣撃をすぐに止めて後退した。踏み込んで体重を乗せた突きを放つためだ。だが、このタイミングを待っていたかのように、魔人は片腕を上げて魔力を増幅させた。
「奴の後を追って死ね。」
開いた掌に収束する魔力。
人とは異なる膨大な量の魔力が流れ、瞬時に攻撃魔法へと転換される。
魔人の腕から放たれた魔法は、クリスティーヌに一直線に向かう大蛇のような炎。
高速回転で炎と酸素が合わさり、さながらバーナーのような火力で迫る。
「くっ!」
瞬時に魔法障壁を三重に展開し、防御を行うクリスティーヌだったが、元々の魔力量の差に防ぎきれずに障壁はすべて破壊される。
「はーはっはっはっ、無駄無駄ーっ!」
勝ち誇った魔人の言葉が周囲に木霊した。




