270話 聖女からの依頼⑥
他の客達がいる宿屋のホールではさすがに話ができず、街を出発して一時間程経過したところで、休憩がてらにクレアが聖女であることを説明してくれた。
「クレアさんが聖女様だったなんて。」
ケリーやアンジェリカが驚きで目を丸くする。
他の者達はそれぞれに反応を示したが、信仰が深い者や、聖女の存在意義を良く知る者の驚きは特に大きかった。
「それじゃあ、タイガさんは聖女様に手を出したってこと?」
マルモア···違う、違うぞ。
その話はもう終わっているんだ。蒸し返すな。
「タイガさんは紳士です。欲望に流されて女性に手を出したりはしません。」
クレアがしっかりと擁護してくれた。
「そうなの?」
「はい。大事なことをお話していただけです。」
「なんだぁ。つまんないの。」
「そうです。つまんないです。」
···クレアの言葉がどういう意味なのかわからない。手を出さないとつまらないのか?
はっ!?
まさかヘタレとか思われているのか?
「私は信じていましたよ。」
アンジェリカがドヤ顔で言うが、俺は覚えている。あの時に、強烈な殺気を放っていたのは彼女だ。
「ギルマス補佐···俺の早とちりでした。すいません。」
目を充血させたスレイドが謝罪の言葉を口にする。
「うん。お前は深慮が足りないな。俺よりもクレアに謝罪しとけ。」
「はい。」
悪いやつではないが、こいつはいろいろと迷惑だ。
「不用意な発言は気をつけた方が良いぞ。他人の名誉を傷つける。」
「はい。以後、気をつけます。」
こいつは、たぶん懲りずにまたやるだろうな。悪気はないのだろうが、どうやら誰かにかまわれたいから余計なことをするタイプのようだ。
そうでなければ、ただのドMかだ。
ラルフと同類にならないことを祈ろう。




