最終章 You Only Live Twice 101
まだ自由がきく右手でもうひとつの注射器を取り出した。
これを突きさせば媚薬効果が解除される可能性が高い。
しかし、後先が逆であることから仮死化効果は望めないだろう。
だが、副作用というものは薬品を注入して瞬時に解除されるものではない。
精神や神経を麻痺させるほんの一瞬のタイムラグ。
それがあれば、今の状況を打開できる可能性があった。
念の為にビルシュの視界に映らないように注射器を忍ばせる。
この弾力性のある物体に突き刺さるかはわからない。とりあえず針が折れないように細心の注意を払いながら、胴体にまとわりついている所へと近づけた。
ぺしっ!
触手のようなものがいきなり出てきて俺の手を払い除けた。
なんとか注射器を壊されないように手の甲でガードしたが、痛みで取り落としそうになる。
手首を返して耐え凌ぐ。
一体どこから見ているのかはわからない。
奴の頭部は俺の後ろにあり、どう考えても死角に位置している。
注射器を口にくわえ、また聖剣ライニングを顕現させた。
それを目のあたりにしたのか、ビルシュが拘束を緩めて距離を置こうとする。
すぐに体を反転させて上段から斬り下ろす。
奴は絶妙な間合いで斬撃を避けた。
左手にスタンスティックを顕現させる。
右手の聖剣ライニングをフェイクに使い、同時に下段からスタンスティックを奴に接触させた。
「アババババババババババ···。」
明らかに感電したはずなのだが、目に見える表情は喜んでいるように見える。
ビルシュがもともとそうなのか、潜在的な欲求が顕在化したのかはわからないが、どうやら奴はムッツリのドMじゃないかと思えた。
過度なボディタッチに加えて感電に至福を感じるなど聖職者としては失格だろうと内心で毒つきながら、もう一度聖剣ライニングで首もとと思しいところを斬りつける。
どう見ても目や口と思われる亀裂は笑っているように見えたが気にしないようにした。
左手のスタンスティックをもう一度接触させ、感電に快楽を感じているわずかなタイミングで注射器を射ちこんだ。
一瞬、奴の表情が真顔のようになったが、大したダメージを感じずに安堵したのかニタァと嫌な笑みを見せた。
仕方がないので同じ質感の笑みを返しておく。
それを見た奴の表情が強ばった。
いや、実際には俺の笑顔を見てではなく、薬品に即効性があったのかもしれない。




