最終章 You Only Live Twice 90
「やあ、思っていたよりも早かったね。」
現地に行くと、普段通りのビルシュがいた。
「殺されたんじゃないのか?」
あまりにも普通過ぎて拍子抜けするとともに、これまでの経緯は何だったのかと思う。
「今更だね。詳しい説明が必要かい?」
「いや、いらない。それよりも、おまえは人間にとって害悪をなす敵だと思っていいのか?」
「害悪とは心外だな。人間は常に何かの指標を欲している。目的がなく、生活にゆとりができると何者にもなれなくなるものだ。そういった世界にスパイスは欠かせないと思うのだけれど、いかがかな?」
宗教演説のような物言いをする。
いや、確かに彼は一大宗教の教皇ではあった。
「そのスパイスのあり方が問題だとしたら?」
「それを決めるのは君じゃない。いや、正しくは現世の人間がそれを決められはしない。」
「そもそも、俺は現世の人間ではないけどな。」
「そういうところだよ。君はすぐに人の揚げ足を取ろうとする。現世どころかこの世界の人間でないのだから、論争に参加する資格すらないと思うけれどね。」
こいつは宗教家として俺と対峙するつもりなのだろうか。
宗教哲学というものは理であり、また俗世間とはかけ離れている場合もある。
「そういったもので誤魔化すのはどうかと思うぞ。人の生き死にに関することに、資格がどうだなどというのは論外だろう?」
「ふむ。確かに君のような世俗的な塊にはそうかもしれないな。」
「現実主義者といってもらいたいところだな。」
「ならば理解しているだろう?」
「何をだ?」
「人間の残酷性、怠惰、傲慢さや嫉妬心など、狭小な心で他者を傷つけ、己自身のためだけに生きようとする業の深さをだよ。」
次は七つの大罪でも語るのだろうか。
「そんなものは反吐が出るくらい見てきたさ。しかし、だからといって神格が手を出すことでもないだろう。」
「そうだ。だからこそ、我々は代理の者をこの虚妄の世界に顕現させようとしているのだ。 」
代理の者?
虚妄の世界?
「今度はブッダの教えか?」
「君の世界のものとは別だ。だが、神意というものは多かれ少なかれ似たような部分があるということだよ。」
なるほど。
ブッダの教えには「友をつくりなさい」というものがある。しかし、その教えの「友」とは善友がすべてだったと思う。
要するに、仏教では「誰とでも仲良くしろ」とはいわないのである。




