122話 大切な居場所⑭
ダルメシアンは元々王都の来賓用ホテルで働くシェフだった。
10年程の修行の末、メインディッシュを担当するようにまでなったのだが、母親が病に伏せってしまったためにこちらに来たらしい。
「ここがふるさとなのか?」
「いや違う。ここは母親の故郷だ。王都に住んでいたが、父親が亡くなってから母親だけこっちに戻って来たんだ。」
母親は3ヶ月程前に他界しており、病気の治療で貯金の大半も使ってしまったために王都に戻りたくても資金がないと言う。
「自分の店を持ちたいとは思うか?」
「そりゃあ思うさ。でもさっき言ったみたいに貯えなんかないんだ。」
「じゃあ、俺が出店の資金を出すからシェフをやってくれないか?」
「え·····?」
頭大丈夫か?みたいな顔で見られた。
「何か変なことを言ったか?」
「い···いや。でも会ったばかりの俺に金を出すとか有り得ないだろ?」
詐欺まがいのことに巻き込まれるのではないかと疑っているようだ。
「あんたに金を出す訳じゃない。さっきも言ったけど、スレイヤーの食欲を満たすために美味い肉料理専門店を作りたいだけだ。雇われシェフ兼店長になって欲しいのだが。」
どう違うんだ?
とダルメシアンはやや混乱気味だったが、店の収益は別にトントンでも構わなかった。
エージェント時代に経営コンサルティングに扮して職務を遂行することもあり、店舗を運営する知識くらいは持ち合わせていた。何より、食べたいものが身近にあるというのは生活の活力となる。店を開くとオーナーという立場になるが、ダルメシアンの料理の腕があればそれほど手間をかけることもなく運営はできるだろう。
「あ···あんたスレイヤーって言ってたけど、本当なのか?話がうますぎる気がするが···。」
俺はギルマス補佐の身分証と認定証代わりのネックレスを見せた。
「!」
「別に悪いことを考えている訳じゃないぞ。スレイヤーギルドの福利厚生代わりに食堂を用意するだけだ。ギルド内には軽食を出すカフェしかないしな。」
「····噂で聞いたことがあるよ。風変わりな、化物みたいに強いスレイヤーがギルマス補佐になったって···それがあんたのことだったんだな?」
風変わりねぇ···どうせ良い噂じゃないだろうから詳しくは聞かないぞ。
「そうだ。資金は個人の預金を使う。すぐに返事をしてくれなくても良いから少し考えてくれ。」
俺はダルメシアンと明日にギルドのカフェで待ち合わせをすることにした。




