舞踏会を武道会と間違えただけだったのに。
なろうラジオ大賞7への応募です。1000文字。
穏やかな昼下がり。
「君の話は面白くてつい時間を忘れてしまう」
「平凡な元社畜の話で良ければいつでも話しますよ」
紅茶を飲みながら談笑する平和なひと時。
相手はこの国の王子様。
そして私は異世界転移した元社畜。
どうしてこんな状況になっているかというと、私は数ヵ月前に暴走トラックに跳ねられ、定番の異世界転移をしてしまったから。
ちょうどブラック会社でサービス残業の毎日だったので、嫌な上司や職場とおさらばできると喜び、そのまま異世界にとどまっている。
特に意味があって転移したわけではないらしいけど、こちらの世界では珍しいという事で丁重に扱ってくれた。
異世界、超ホワイト。
目の前にいる王子が私の後見人となってくれて、こうしてよく一緒にお茶も飲んでくれる親切な人だ。
王子は優雅な仕草でティーカップをおろしながら、こちらをじっと見つめてきた。
「ところで……今度、王族主催の舞「バサバサバサ!!」会があるんだが、そこで君のことを紹介しても良いだろうか?」
何か途中で鳥の飛ぶ音がしたなぁ。
王子、何て言ったんだろう。
ぶで始まったのは聞き取れたんだけど、ぶ……かいって言ってたような。
ぶかいって何? 部活? いや多分違う。
ぶ……かい、ぶ……う……かい?
あ、そんな感じだったかも。
ぶ……うかい、ぶ……ど……うかい……武道会!?
「え、本気ですか?」
「ああ。私は本気だ」
王子が私を見つめる。
本気の目だ。
本気で私を武道会に!?
武道会ってあれだよね、アニメで見た天下一を決めるあの武道会。
どうして私が柔道やっていたことを知ってるんだろう。
「相手は誰ですか?」
「それはもちろん私だ」
王子自ら対戦相手!?
でも、相手が誰であれ本気で挑むのが武の精神。
「本気なんですね」
「ああ。こんな気持ちは初めてなんだ。戸惑うかもしれないが、どうか考えて欲しい」
王子自ら戦うって言われたらそりゃあ戸惑うよね。
私はこの世界の人間じゃないからそこまで気にしないけど。
「分かりました。お受けします」
「っありがとう!」
王子は突然身を乗り出して私の手を握ってきた。
試合前の握手早くない?
「あっ、すまない。嬉しくてつい……」
「大丈夫ですよ」
「そ、そうか……!」
早く戦いたくてうずうずしてるんだよね、分かる。
「楽しみにしています」
「ああ。私も楽しみにしている……!」
私達はもう一度固い握手を交わした。
当日、ドレス姿の人々が躍る舞踏会のど真ん中で、手作り道着で佇む羽目になった。
一目惚れした王子。思いは伝わっていません。
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