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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
第七章「王都パーティー編」エミリー視点

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36話「イチャイチャなんてちょっとしかしてません!」




「待たせてごめんね。

 しつこい貴族に捕まっちゃってさ」


パーティーの後、殿下に別室で待つように言われました。


待ち合わせの時刻に少し遅れてきた殿下は、少し疲れてるようでした。


あのような衝撃的な登場でしたから、貴族に質問攻めにされたのかもしれません。


「いえ、お気になさらないでください」


「臣下は待つのも努めですから」


私とフォンジー様は座っていたソファーから立ち上がり、殿下がソファーにかけるのを待ちました。


殿下とテーブルを挟んで対面でお話することになりました。


殿下が人払いされているので、部屋には私たち三人しかいません。


「臣下だなんて釣れないこと言わないでよ。フォンジーのことは友人だと思ってるんだからさ」


王太子殿下は屈託のない笑顔を見せました。


彼は本当にフォンジー様のことを大切な友人と思っているようです。


「ところで話は変わるけど、僕のこと待ってる間、二人はこの部屋でなにしてたの?

 もしかして二人きりなのをいいことに、イチャイチャしてた?」


「えっ?」

「何を……?」


まさか王太子殿下からこのようなことを言われるとは思いませんでした。


そんなことを言われたら頬に熱が集まってしまいます。


隣にいるフォンジー様を見ると、彼も顔を赤くしていました。


「だってフォンジーの唇にエミリー嬢と同じ赤い口紅がついてるし、エミリー嬢の髪型と服が会場で見たときより乱れているし、家まで我慢できなくて ここでイチャイチャしたのかなと思って」


「ええっ……!?」

「そ、そんなはずは……!」


フォンジー様はご自身の唇を手の甲でこすりました。


私も自身の髪型と服装に乱れがないか、 慌ててチェックしました。


「なんてね、嘘だよ」


殿下がおちゃめに言いました。


何だ嘘だったんですね。びっくりしました。


そんな可愛らしい口を言っても、騙されないんですから。


「殿下……!」


フォンジー様は苛立ち含んだ目で殿下を見据えました。


「フォンジー、そんなに怒らないでよ。

 温厚な君が怒るなんて恋って怖いね。

  君もエミリー嬢も自分のためには怒らないけど、人のためには怒るタイプかな?

 あーでも僕がカマをかけたとき慌てたってことは、二人は本当にこの部屋でやらしいことしてたのかな?」


「私たちは別にやらしいことなんかしてません!」


「そうです! フォンジー様とはキスしかしてません!」


殿下が来るのはあまりにも遅かったので、フォンジー様といい雰囲気になって口づけを……。


「あっ、キスはしてたんだ。フォンジーも隅に置けないね」


王太子殿下がニコニコした顔で楽し気に聞いてきます。


「エミリー嬢……」


フォンジー様が額に手を当て、ため息をつきました。


「すみません、フォンジー様つい……」


さっきからずっと王太子殿下のペースに巻き込まれっぱなしです。


「まあ冗談はこのくらいにしておいて 、本題に入るね」


王太子殿下は急に真面目な口調になりました。


本当にこのお方はつかみどころがなくて、お話についていくのが大変です。


「二人は国の外れにある、エンデ領を知っているかな?」


王太子殿下がテーブルの上に地図を広げました。


殿下が指を刺された場所は、国のはずれ、荒野が広がっている地帯でした。


「名前だけは聞いたことがあります。確かエンデ男爵家の領地だったかと」


「さすがフォンジーは物知りだね。

 さしたる名産品もない寂れた領地なんだ。

 住民の識字率が低いから、領主の圧政に苦しめられていても、民は声を上げることもできない」


この国にそのような場所があったのですね。


民の暮らし向きを思うと心が痛みます。


「最近、そこの領民から領主の悪性を訴える手紙が届いてね。

 識字率が低くても村長や町長クラスの人間は文字の読み書きができるから、領民から手紙が届くことは不思議じゃないんだけど、問題はその内容なんだよね。

 手紙には国の法律についても詳しく書かれていて、難しい文言も使われていた。

 文字の読み書きを知った程度の人間が書いた文章とは、とても思えないんだよね。

 これはきちんとした高等教育を受けたものが書いた文章だ」


王太子殿下が懐から手紙を出し、テーブルの上に置きました。


「それで気になって部下を現地に送って調べてみたんだよ。

 そしたら面白いことがわかってね」


フォンジー様は、机の上に置かれた手紙を手に取り読み始めました。


手紙を読むフォンジー様の手が震えています。


手紙にはどのようなことが書いてあったのでしょうか?


「エンデ男爵領の外れにあるゼーゲン村に、二年前に金髪の若い男が流れ着いたそうだ。

 その男はとても博識でね。

 村民を集め文字の読み書きを教え、薬草の栽培を始め、子どもたちに魔術の指南まで始めたという。

 フォンジーはその手紙に書かれている文字に見覚えない?」


二年前、金髪の若い男、魔術の指南……もしかしてその方は!


「リック……!」


横に座っているフォンジー様を見ると、目から大粒の涙を流していました。


「この手紙はリックの書いたものです! 弟の書いた字を見間違うはずがありません! 兄である私には分かります!」


私はフォンジー様の泣いている顔を初めて見ました。


彼がリック様のことを大切に思ってることは知っていました。


フォンジー様はリック様が追放されてからずっと、彼の安否を気にかけていたのでしょう。


リック様が生きているのが分かって、抑えていた感情が爆発したようです。

 

私はフォンジー様にハンカチを渡し、彼の気持ちが収まるのを待ちました。


「ありがとう、エミリー嬢」


「気持ちが収まるまで存分に泣いてください」


それから五分ほどフォンジー様は手紙を握りしめて泣いていました。


王太子殿下は何も言わずフォンジー様が泣き止むのを待っていてくださいました。


「殿下、リックは、弟は今どこに……!」


気持ちが落ち着いたらしいフォンジー様が、殿下に質問されました。


「順を追って説明するから落ち着いて。 

 二年前王都を追放された彼は、運良くゼーゲン村の村民に助けられたらしい。

 ちょうど彼が村に流れ着いた頃、その村の村長が老齢で目が見えなくなってね。

 村長はその村で唯一文字の読み書きができる人間だったから、村民は皆困っていたんだよ。

 そこで彼が村長の代わりに、領主から届いた手紙を読んで村民に伝えたり、手紙の返信を書いたりしていたってわけ」


リック様がそのようなこと。


「その村は貧困や飢え、モンスターの襲来などで困窮していた。

 彼は自分の持っている知識を使い、薬草園を作り、採取した薬草を街で売ってお金に変えていたらしい。

 薬草を売って得たお金で村の柵を直したり、狩りをする時の道具を揃えたり、子供たちのために本を買うことに使っていたらしい。

 その他にも子供達に護身用に魔術を教えていたみたいだ」


自分のことしか考えなかったリック様が、村民のためにそのようなことをされていたなんて……!


「それだけではなく、近隣の村人に頼まれて、彼らにも文字の読み書きを教えていたようだ。

 彼はゼーゲン村の村民だけでなく、近隣の村人からもたいそう慕われていたらしい。

 彼は王都を追放されたあと、ゼーゲン村で人生をやり直すことに成功したようだね」


リック様が生きてることが分かっただけでも安堵しているのに、彼が村人に慕われていることが分かり嬉しさで涙がこみ上げてきます。


王都で孤独だった彼は、ゼーゲン村で仲間を見つけることができたのですね。


「リック……!」


フォンジー様はまた泣き出してしまいました。


無理もありません。


ご家族の中で、誰よりもリック様のことを気にかけていたのはフォンジー様でしたから。


「それからエンデ男爵領には、もう一人君たちに関わりの深い人間がいるんだよね。

 まあこちらは君たちにとっては厄介な人物だろうけど」


「殿下、それはどなたなのですか?」


私たちに関わりの深い人物で、会いたくない人間?


「君たちがよく知ってる人物。

 デルミーラ・アブトだよ。

 浮気やらその他もろもろの悪事がバレて、実家から勘当されたから、今はただのデルミーラかな」


殿下から彼女の名前を聞いて、私はフォンジー様と顔を見合わせました。


まさかここに来てデルミーラ様のお名前を聞くことになるとは思いませんでした。




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