040: 受付嬢の一日⑫ ~届いた荷物~
「横入りをする人は誰で……」
視線を向けると、声を出したのは孤児院の子で、言われたほうは例の新剣パーティーだった。
まず、にらみつけておく。
「いやっ! 違う。俺たちは解体のほうに用事がある! ふんっ。どけろ!」
慌てふためいたリーダーのほうは、例の熊の魔物でも解体してもらうのだろう。「ちょっと横切っただけじゃないか」とぶつくさ言って、解体カウンターに並んだ。
本当に間違っただけかもしれないけど、残念ながら前科があるので仕方ない。彼らは……何度私の障壁の餌食になったっけ。
「採取の依頼は、明日行ってくるよ。今日外に出れなかったから。でね、皆でウォータースライム倒したんだ!」
赤い髪の男の子は元気にそう言って、ブロンズの登録者カードを出す。ウォータースライムを倒した証として魔石もことりと置いた。パーティーのメンバー全員も来ていて、明るい表情をしている。
「おーっ。皆でがんばったんだね」
いつもの『鑑定』スキルを使えば、子供たち六人それぞれ『体力』と『魔力』が減っていることがわかる。しかし――――。
「おいおい! 子供がウォータースライム倒せるわけねーだろ! 嘘ついてるんじゃねー!」
「嘘じゃねえよ。ひがみはやめろ! おっさん!」
「なっ! おっさんだと~!」
おっさんもとい、新剣パーティーリーダーがつっかかる。
まだおっさんと呼ばれる年ではないはずだけど、業務に集中したいので「煩い」と一喝しようとした。
しかし、その前に、
「熊くらいきれいに倒しなさいよね! 冒険者が奇麗に素材を持ち帰るのは常識よ!」
とお怒りの声がギルドに響いた。
解体カウンターにいるオレンジ色の髪をした女性が発した声だ。大変よく通る声で話すので、彼が新剣に振り回されて急所になかなか当てられなかったことや、魔物がギタギタであることが知れ渡った。
毛皮の価値が下がってしまったので、解体カウンターとして――いや、冒険者ギルドとして怒っていた。
さて、あちらが対応しているうちに、この子たちの討伐分を事務処理しよう。
本日のスタンピード戦では、私も障壁でスライムを阻んでいたけど漏れはある。孤児院の近くに、一匹紛れ込んでいたようで、それを六人で倒したらしい。
この子たちの実力は知っている。というか『鑑定』でわかる。将来有望の六人が、工夫して時間をかけて戦ったのだろう。
「それじゃ、ウォータースライム一匹を、皆で倒したという処理になるよ」
スタンピードで出た魔物だけど、スタンピード戦に参加したわけではないので、普通の討伐処理をして預かっていたカードを返した。
子供たちは足取りも軽くギルドを出ていく。
「ちわーっす。定期便でーーす」
子供たちと入れ違いで定期便がやってきた。いつも南の町から来る定期便の人なので、その町からの荷物に違いない。
「すみません。こっちまで持ってきてもらっていいですか」
「うーっす」
荷物をカウンター近くに置いてもらう。定期便が来たとき、いつもするやり取りだ。そして受け取りのサインを書く。これもいつもやっている。
「次、王都に行くっすけど、持ってくのあっすか?」
「いいえー。ちょうどないんです」
王都への定期便はつい最近、ついでがあって送ったので今回はない。
「あーーっしたぁ!」
毎回そうだけど、今回もすぐ去っていく定期便の人。
私も荷物の中身を精査するため、カウンター奥の事務室に荷物を運び入れようとする。
「シャーロットさん。その前に、シャーロットさんのカードを出してくださいませ。それと魔石も」
「え? ――――あ!」
メロディーさんの言葉に私は少し考え、荷物を事務室内に置いてからやっと気づく。
――私も参加していたのに、未報告だった。
スタンピードが起こったら、Cランク以上の冒険者は強制参加で、参加後は即報告が必要だ。――報告がないということはサボったという判定になるのだ。サボったということは、ランクポイントが減点になる。
「あやうく忘れるところでした……」
忘れてもちゃんと参加した証拠(証人)があれば、問題ない。けれども、他に記入しないといけない用紙があり、大変面倒なのだ。
その面倒ごとを回避すべく、メロディーさんに登録者カードと魔石を渡す。
私は障壁を張っていただけで、スライムは倒していない。しかしちゃんと働いたので、報酬分の魔石はもらってきている。
町の防衛をするうえで、騎士の隊長(騎士団側)とあらかじめ取り決めていた。もちろん魔石の中に、嵩増しの小石が入っていないことも確認済み。いや、毎回ちゃんとしてくれているけど、念のため確認することが大事だからね。
「では、お願いします。……私はこっちやろうっと」
梱包を解いた。一番上に、今回何を送ったか送付状が入っている。それを見て照らし合わせながら、入っていた荷物を出していく。リストと荷物が合っていたらチェックを付けた。
どんどん出していき、リストに書いてあった物すべて入っていたことが確認できた。リストを専用ファイルにとじる。
荷物はさらにこれから分けていく。大体がギルドで集めている情報や、冒険者たちに宛てた手紙だ。あとは少量だけど、冒険者とは関係ない人に宛てた物もある。
ギルドで大々的に、配達業務をやっているわけではない。けれども、ついでに届けてほしいという一般の方や、冒険者が一般人に宛てた手紙や荷物が来ることも多かった。
「あ」
仕分けしていると、一通の手紙を発見した。差出人の名前は書いていないけど、宛先の端に見知ったマークがついている。
宛名は私の名前。そう、私宛の手紙だ。




