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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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037: 受付嬢の一日⑨ ~五の鐘~



「放てぇぇ――!!」



 ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン。



 奇しくも五の鐘とともに、一斉にスライムへ矢を放つ弓部隊の皆さん。スライムにしてみれば、鐘の音が襲いかかってくるように感じただろうか。

 私もまるで戦闘合図かのように感じたけど、本来この五回の鐘はお昼の時間に鳴る鐘だ。普段ならば三の鐘の次にこの五の鐘が鳴って、今頃はお昼を食べに行っていたはずなんだけどな……。


 さて、矢の攻撃については、効果はあっただろうか。

 矢を打っても、スライムの核に当たらないと倒せない。遠くて見づらいけど、確実に倒せたのは六分の一かというところかな。それでも元が多すぎるから上々だ。


 そうこうするうちに城壁外にいる人たちとスライムの距離が縮まり、戦闘が始まった。

 矢攻撃が終わったら私の出番。スライムは一匹たりとも通さんぞ! ――と堂々と言えればいいんだけど、効果があるかはわからない。

 実は作戦が決まってから、初のスライムスタンピードなのだから。

 それで何をするかというと――。


「障壁ー」


 一応、言葉で言って障壁を張る。

 障壁魔法を使うために呪文は必要ない。ただ、防衛戦などで周りに戦闘員が多いときは、「はい、出しますよー」という意味合いでいつも発している。


 さて、まず出した障壁魔法は立たせるというより、寝かせて浮かせるといった状態にする。城壁の外側の側面に、障壁を一枚、真横に設置した。城壁外側にぴったりとくっつけるようにして、城壁の外側と障壁魔法が直角になるように配置する。

 何をしているかというと、いわゆるねずみ返しを障壁魔法で作ったのだ。

 スライムは、液状の形態を生かして城壁をのぼってこられる魔物。この町としては、そんな魔物は城内に入れたくない。そこでスライムが上がる途中で障壁に引っかけ、城内への侵入をなるべく減らすという作戦を考えたのだ。そして今回初めてそれを試す。


「あと、もう二枚配置できそうです」


「よし、やってみろ」


 今回、魔物討伐隊長さんも作戦指揮のため城壁の上にいる。連携がしやすかった。

 同じように残り二枚を、左右一枚ずつ設置する。一枚の大きさは城門と同じ横幅にして、三枚のスライム返しを作った。

 さらに私たちのすぐ前の胸壁内側にも障壁を張る。これはいつもどおり足場から垂直に立てた。


 今回の作戦の趣旨は、いかに町中へスライムを侵入させないか。

 現在想定しているスライム討伐の動きはこうだ。



 その一。

 スライムが来て、城壁をのぼり始める。


 その二。

 私が城壁の外壁に対して、横に並べた障壁がねずみ返しならぬ、スライム返しになり、スライムが落ちる(願望)。または上る速度が落ちる。


 その三。

 それでも上ってくるスライムは、城壁の上にたどり着いたとき、壁のように配置した障壁に阻まれる。その障壁前に配置された騎士たちが、スライムを討つ。


 ――という流れ。

 足場に配置した障壁は、いつものように薄青くしてある。つまり外からの侵入ははじき、内側の私たちの攻撃は通る構造だ。

 城壁上の障壁に貼りついたスライムから順に、串刺しや打撃で倒すという作戦だ。これで城内に侵入される数がかなり減るだろう。


 現在城外にいる冒険者たちや騎士たちが、地上のスライムと戦っている。

 何とか町に近づけないようにしているけど、スライムは数が多い。個体によっては近くの人より町に興味があるのか、ちらほらと目の前の冒険者たちの横を通り過ぎ、城壁にやってきた。


「のぼってくるぞ!」


 前方を確認していた騎士が叫ぶ。

 私はというと、スライム返しの効果が知りたくて、胸壁内側に立てていた障壁から頭を出す。

 どの程度効果があるのか見たかったのだ。

 今回は治癒魔法を無闇に使わないようにしたいし(近くに治療院さんがいるからね)、障壁魔法に専念するなら、今のうちに結果を見て対策を立てなければ。


(家に置いてある剣を持ってきて、私もスライムを倒す手伝いをしたほうがよかったかな。あ、物干し竿を持ってきてもよかったかもしれない。それで障壁にへばりついたスライムをつっつく!)


 ――――いやいや。物干し竿にさえ、振り回されそうだ。結局、邪魔者扱いされそう。


 そう思っていたら、上ってきたウォータースライムが、ちょうどスライム返し障壁に当たった。そして、障壁に貼りつけなかったようで落ちた。


 ポトっと。

 そのあとは、下にいた冒険者さんに槍でざくっと核を刺されていた。


「おお。なかなかよいのではないか」


 同じく障壁から顔を出していた隊長さんが、満足そうに言う。

 まだ一匹しか引っかかってないから、もろ手を挙げて喜べないけども、想像どおりにはなったのかな。

 しかし、そこで右側の様子が目に映った。

 スライムが障壁と障壁の間をにゅるんとすり抜けて、上がってきていたのだ。

 城壁外側と障壁をくっつけるように配置しても、城壁はゆるくカーブしているから、スライム返し障壁の両側付近に隙間ができるのだ。


(やっぱり隙間から出てきちゃうか。かといって私の障壁は湾曲にならないんだよね)


 ゆるく円を描いている城壁の外側に、ぴったりと沿わせることができない。

 でも近くの騎士さんは、特に気にしないようだ。

 城壁をのぼってくる魔物は倒すだけ――。

 そんな様子の騎士さんが、私と同じように胸壁内側の障壁から頭を出して、魔法でスライムを狙っていた。

 まだ数匹のスライムしかのぼってきてないので、少し顔を出しても、他のスライムに攻撃されることはないだろう。


「“凍える源よ。目の前の敵を貫き通せ!”」


 氷の魔法を使える騎士さんだった。狙いはバッチリ。これでスライムは凍って、まっ逆さまに落ちる。

 ――――と思われたスライムが、氷の魔法を受けても凍らなかった。


「……えっ」


 うろたえる氷魔法使いの騎士さん。

 攻撃を受けたスライムは、先ほどの魔法をすべて吸収し少し大きくなった。そしてその周りに氷のつぶてが十個ほど浮かぶ。

 これはどう見てもスライムの氷の魔法だ。それが騎士さんの顔目がけて襲いかかる。

 氷魔法使いの騎士さんは、私の障壁から顔を出していたから身を守れない。距離が近いから当たれば大怪我だ。


「あぶなーい!」


 私は右手を、少し遠くにいるその人に向けて突き出した。



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