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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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030: 受付嬢の一日② ~二の鐘~



「ふふっ。面白いですわね。シャーロットさんの夢」



 ギルドに出勤して、メロディーさんに今朝の夢の話をした。

 メロディーさんは本日もきれいな青い口紅を塗っていて、自身の肌の色とよく合っている。


 夢の内容を話すときは、もちろん「耐久」や「精神」など、能力値のことはぼかした。

 また、「耐久」や「力」という単語は世間に知られているからといって、数値まではっきりと説明しないようにする。それに「精神」は未知の値だ。ちらりとも言わないようにしなければ……!


「もしかして、お小さいときは剣士を目指していたとか?」


「いやー。それはないですね」


 むしろ、前世と違って魔法がある! やったー! だったはず。

 剣士を目指すぞー。というのはたぶん昨日の出来事があったからじゃないかな。



 ガラーーーン、ガラーーーン。



 もう、朝礼は終わっている。ギルドのドアを開けて業務開始だ。

 今日はドアに近い場所にいた私が開ける。


「おはようございまーす」


 両開きのドアを片方開けて、閉まらないよう固定する器具をドアの下部に引っかけた。もう一方のドアも同じようにする。

 片方を開け始めたときから、並んでいた冒険者たちが入ってくる。皆、朝から活発だ。


「これを受けるぞ!」


 ドアを開けてカウンターに戻った途端、元気よく依頼書を差し出してきた冒険者パーティーのリーダー。


「あ、早速ですか」


「この剣の切れ味を試したくてな! ふふん」


 しゅっとした細身のデザインなのに、すごく重い剣。

 本日話題になった、私の夢に出てきた剣だった。




 ――その剣については、昨日の昼までさかのぼる。

 私は昼食を外で食べたあと、ある武器屋で面白い看板を見つけたのだ。



『新作の剣を入荷!

 ただし買う権利は、持ち上げられる人にのみ与えられる!』



(大きな剣だろうか? どれだけごついんだろ? 見てみよう!)


 私は興味津々、意気揚々と入店。


 ――コロロン。


 ドアベルが、店内の様子とは正反対にかわいく鳴る。どう正反対かというと……。


「ぐぅぅああ! だめだああ!」

「はい。次はオイラー!」


 大変にぎやかで熱気が籠もり、暑苦しいのだ。いつもならばもっと静かなはずなのに。今は体格のいい方や大型の獣人の方たちばかりが、ある一点に集まっている。

 皆さん看板を見て、持ち上げられるか挑戦している最中のようだ。「だめだぁ」と言っていた人は、持ち上げられなかったみたいで、肩で息をしている。


「はい。持ち上がんなかった人は出た出た! 店が狭くなるじゃないか」


 店員さんが挑戦済みの人を店内から、しっしっと追い出す。


 私はその注目の武器をまじまじと見た。

 予想に反してすごく軽く見えるデザインに、羽のような色の剣だ。

 大仰な台座に突き刺さっていて、『ここから剣を抜ける者こそが、選ばれた使い手』という雰囲気が漂っていた。


「ぐおおおおぉぉぉ…………くっ」


 こちらの人も持ち上がらなかった。しかも床に倒れこんだ。


「はい。次の人! ……ちょっと。明らかに無理そうな人はさっさと出ていっとくれ。狭いんだから」


 店員さんは完全に私のほうを見て言っていた。


「やってみないとわからないじゃないですかー」


 と言おうとした矢先、剣を持ち上げていた人の様子を見て、その言葉を喉に押し戻す。


 グキッッ――!


「がぁぁぁっ! 腰がっっ……ぅぅぅ!」



 何か音がしたと思ったら男の悲鳴。大の男がまたも床に突っ伏している。

 持ち上げるのに頑張りすぎて腰を痛めてしまったらしい。

 すかさず治癒魔法を使える人が回復させている。ずっと同じ作業をやっているかのように手慣れていた。


 こ、これは、剣に秘密があるに違いない……!

 ずっと見損ねていた剣の『鑑定』を、今こそ落ち着いて確認する。



『力:+300

 速さ:+30%

 条件:力を30000以上保有していること。

 条件を満たさず使用する場合、グキッと腰を痛めてしまう』



(地味に恐ろしい……)


 たまに見る条件つきの武器だった。その内容には笑ってしまうけど、条件を満たせばさらに強く、すばやい剣の使い手となれるだろう。

 武器職人のこだわりが強すぎる一品。よく言うと『選ばれた者の武器』、悪く言うと『クセの強い武器』だ。

 製作者の主張が伝わってくる。


『力ある者が、さらなる高みを目指せますように。――――しかし、力ない者は使えなくてよろしい!』


 そんな頑固気質な鍛冶職人の声が聞こえそうだ…………。


 こうなると、ますます誰が買うのか気になってきた。

 この町で「力」の値が三万を超える人は、Aランク以上に多い。

 この店内にもいる。

 彼らは腰を盛大に痛めた人たちを見ても勇気を出して挑戦できるのか。そこが分かれ道だろう。

 未だに私を追い出そうとしている店員さんを見つめ返し、わくわくしながら宣言した。



「冒険者ギルドの受付として、誰が買うか、しかと見させていただきますよ!」



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