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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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249: 三人と私の休日⑥ ~花を手向ける~


 ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラ…………。

 これは七の鐘だ。


「こっちは本当に静かっすね……。それにしてもまさかボクたちが三連人面カブカブに勝っちゃうなんてね!」

「せや。最初はどないしたら戦いを避けられるか考えとったのに」

「戦えたのも勝てたのもシャーロットさんのおかげです!」


 三人が見事に三連人面カブカブを倒したあと、私たち四人は城壁西側から帰らず、南の森まで歩いてきていた。

 サブマスは討伐を確認すると納得したように頷き、「この働きはランクポイントの配分時に参考にさせてもらうよ」とさっさと立ち去った。

 もう門前の列は解消していたけど野次馬さんたちの数は多くなっていて、大勢のベテラン冒険者に拍手されながら、三人は照れながらも最後まで自分たちのパーティー名の売り込みを忘れなかった。

『羊の闘志』さんたちも狩りを終えてこちらの様子を見に来てくれた。

「昨日で新種の魔物の仲間は倒されたようでな、いくら探してもめぼしい魔物がいねぇ」とバルカンさんたちはがっかりしていた。

 特にランクポイントが欲しいゲイルさんが落胆していた。

 彼らが狩った魔物では、ゲイルさんはまだAランクには上がれないだろう。残り一桁ポイントになるかも怪しい。

 回りにめぼしい魔物がいなかったのなら、やはり三連人面カブカブ討伐を『キラキラ・ストロゥベル・リボン』に任せてよかった。崖っぷちから逃れられる。

 カブカブ戦を終えても三人の体力に余裕があることもあって、着替えは城壁南の森まで歩いて人気がなくなる場所まで来た。


「三連人面カブカブを倒せたのは、三人のがんばりによるものだよ。――さ、ここなら静かだし、そろそろ着替えてもよさそうかな」

「やっとっす!」


 南の森の木の陰で、さらに私のシーツ等にくるまってもらいながら着替えてもらっていた。

 この格好のまま町に入って学園生仲間に見られるのが恥ずかしいとのことで、なんとしても城外で取り外したがっていたのだ。

 私もまだ閉門までに時間があるので、このままもう一つの用事を終えられそうだと考えていた。

 その用事のために近くの花を一本手折る。


「シャーロットさん、先にアクセサリー類お返しします」


 シグナちゃんとワーシィちゃんから、渡していたネックレスや腕輪を返してもらった。

 指輪の束を紐に通す案はとてもよかった。私も今度使うときこのまま首にかけられて楽ちんだ。

 コトちゃんからも貸していた数々の装備を返してもらった。


「シャーロットさん、三連人面カブカブ出してくださいっす。顔の部分剥いでおきたいっす!」


 カブカブは全部私の収納魔法に入れていたので、出すよう言われた。他二人も頷いているけど……、いいのかな。


「三連人面カブカブは倒せばただの大きいカブカブだから、顔部分を剥いだら新鮮さが失われて買取価格に響くよ? 明日ギルドの解体に頼んだほうが綺麗にやってくれるし、買取価格もその分高くなっていいと思うけど……。顔部分だけ返してもらえばいいよ。大容量収納鞄(マジックバッグ)ほしいんなら高く売れたほうがいいと思うけど」


 三人はいつものように輪になって相談し始めた。

 私はそのあいだにもう一本花を見つけ手に取った。


「わ、わかったっす。でも絶対顔部分はボクたちがもらうっす!!」

「うん、解体に渡すとき私からもちゃんと言っておくね」

「ところでシャーロットさん、なんでお花を摘んでるっすか?」


 三人とも私の行動を不思議そうに見る。


「コトちゃんたちも手伝ってくれる? まだ閉門まで時間があるから数本ずつお花を持って、一緒に来てほしい場所があるんだけど……」


 私たちはそれぞれの手に花を持ち、アーリズの東門からさらに東へ歩き、森の中に入っていく。幸い魔物は近くにいない。


(あの日は夜にスタンピードが起こって、私は「力」の値を上げようと包丁で戦おうとしていたっけ……)

 その終盤で『羊の闘志』たちと会って、魔物の反応を見つけてこの森に入っていった。


「このへんだったはず。うん、そうだ。……あれ?」


 私は目当ての場所に着き、あたりを見渡すと一本の木の根元に花が供えられてあったのを見つけた。

 きょろきょろ周りを見回しても誰かいるように見えないし、『探索』を使っても同じだ。その花をよく見ると多少の時間が経っているとわかった。


「……皆ー、この木に供えられているお花みたく、一緒に献花してもらっていいかな?」

「は、はぁ……。っていうか、このあたりの木、何本か横に綺麗に切れてるっすね」

「そ、そうだね……」


 彼があの『お菓子な魔物』を倒した際に薙ぎ払われた木々はそのままになっていた。

 私たちは花を持って真横に並ぶ。

 ワーシィちゃんからもっともな質問をされた。


「あの……誰か亡くなったんですか? こちらは、どちらさんですか?」

「お名前は知らないんだけど、学園生を助けるために奮闘してくれた人なんだって」


 私の返答にシグナちゃんは少し考え込んだ。


「初めて聞きます。いつ頃の話なんでしょうか?」

「んー、私も最近聞いたばかりでちょっと……。でも一緒にお花を供えてくれるかな? 学園生代表として」


 詳しくは知らないという表情を頑張って作った。

 まさか君たちの身を案じ、何とかしようと町を出て召喚石の餌食なりました、とは口が裂けても言えない。

 先に供えられた花は、おそらくこのことを知る人――騎士団あたりが献花したのだろう。

 人知れずアーリズの町の英雄になった人であり、召喚石と関わりがあるからここで亡くなったことは周知されないだろう。

 名前を聞きたかったけどカイト王子は教えてくれなかった。しかも「商業ギルドや衛兵らに当たっても無駄だ」と脅さ……教えられたから今後もわからない可能性が高い。

 こんな不明な人物に、それでも三人はお供えすると申し出てくれた。

 私は花を先に置いてあった隣に供え、目を閉じた。


 ――あなたのお名前は伺えませんでしたが、アーリズの町を被害から防いでくれてありがとうございます。

 ――横にいるのは、あなたが助けたかった学園生の子どもたちです。

 ――いえ、「たぶん助けたかった」……です。『アーリズにあとから来る顔見知りの子どもたち』としか聞けなかったので、本当は別の子たちを助けたかったのかもしれませんけど、これ以上は知ることができないので、彼女たちを連れてきました。無事に今も修業を重ねて元気に過ごしています。

 ――彼女たちにはあなたのことを話せないけど、せめてお花を受け取ってください。


 私と同じように花を供える三人は、


「えっと……、ボクたちは『キラキラ・ストロゥベル・リボン』って言います! 学園生を助けてくれてありがとうございますっす!」

「どんな状況やったか詳しくはわかれへんけど、その学園生はきっと今も楽しくやっとると思います!」

「おかげで今年も学園生がいろんな町や村に修業ができています。私たちももっとがんばりますね!」


 そのとき、風が吹いた。花は風に飛ばないようにあらかじめ重しとして石を置いていたけど、それでも数本その風に乗って空へと舞い上がった。


「……もう、行こっか……。本当に、ありがとうございました、どうか安らかに……」


 このあと私たちはアーリズの東門を目指し、静かな城門を通る頃ちょうど八の鐘が鳴り始めた。





 次の日の冒険者ギルドにて私は『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の戦利品を解体に出し、三人の要望を伝えた。

 珍しい魔物の顔部分だったので、せめて誰か一人の顔部分はもらえないかと解体担当にお願いされていたけど、三人とも絶対に譲らなかった。

 カウンターでは私がサブマスと闘っていた。


「サブマス、昨日見ていたじゃないですか。彼女たちは本当に奮闘していたんです。私と『キラキラ・ストロゥベル・リボン』三人の計四人なんですから、ランクポイントは均等に一人四分の一でお願いします!」

「それじゃあ聞くけどね、三連人面カブカブ周辺に障壁を張って、彼女たちに装備を貸し与えていたじゃないか。しかも倒されたカブカブはシャルちゃんの収納魔法に入れていたよね。だからランクポイントはシャルちゃんが半分、残りの半分が『キラキラ・ストロゥベル・リボン』だよ。これでもまだシャルちゃんの取り分が少ないと思うけどね」

「彼女たちへの装備の貸し出し費用は……っ、出世払いです! 収納魔法だってあんな大きい魔物なのだから私が好意で運んだんです。とにかく、戦闘中私は椅子に座ってくつろいでいて、ほとんど『キラキラ・ストロゥベル・リボン』が汗水たらしてがんばったんですからね。とどめも彼女たち三人です。ランクポイントは均等に四分の一ずつ入れるべきです!」


 なんとかして私の取り分を減らそうと説得していたけど、出世払いと初めて聞いた三人はカブカブを丸のみしそうなくらい口を開けて驚いていた。

 あとで費用はいらないと伝えておかなければ。


「う~っ、……ボ、ボク、こっけい(・・・・)よりもお金を取ったほうがいいかな? せめてボクの分のカブカブ部分だけでも……」

「こっけいって何や、昨日のコトの格好のことなら……って、うちも売った方がええかな?」

「沽券って言いたいんじゃない? それよりコト、私も自分の顔のカブカブを売ってもいいかしら……」


 三人がこんな会議をし始めたから「大丈夫、三つの顔は売らなくていいから!」と三人に思いとどまらせた。

 私とサブマスはこのあとも「二分の一がシャルちゃん!」「いいえ、四人で均等!」と争い……いや議論を重ね、折衷案として私が三分の一、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』が残りの三分の二を三人で分けることになった。

 ひとまず彼女たちは崖っぷちCランクから逃れることに成功した。


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